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第83話 突然の来客
しおりを挟むこうして、特に何事もなくアルテミシアとの対話が終わりを迎える。
彼女から噴き出る膨大な魔力渦に驚きながらも、無事に「約束」を取り付けることができ、私はホッとするのだった。
「それじゃあ、力が欲しい時はメルちゃんから私に合図してね」
体内に潜むアルテミシアが優しい声でそう言った。
力が欲しい時に合図するというのも、それ自体はシンプルなことなのだが如何せんどうやって合図するのかが分からない。
今みたいに直接彼女に語りかけることで力を解放してもらうというわけだろうか?
その辺が気になった私は、念じるわけでもなく周りにいるロキ達にも聞こえるように声に出して質問した。
「合図って今みたいにアーシャに話しかけたらいいのかしら?」
私の問いかけに対して帰ってきたアルテミシアの答えは「それでもいいけど」という微妙なものだった。
私たちのやり取りを聞いていたラティスもニコニコとしながら、何か言いたげにしている。
そのことに気付いた私は視線をラティスに向けて発言を促す。
「先代様の時はどうやってたんだっけ?」
過去を出来事でも思い出したのか、少し懐かしそうに目を細めながらラティスは言う。
それを聞いていたドレイク隊長が「前魔王妃様はたしか、戦闘中に会話などしていなかったのう」と腕を組んで唸る。
たしかに、戦闘中に悠長に会話などしている暇はないだろう。
私も邪神教の四天王のウサギにボコボコにされかけた時には、ガウェインとの会話もままならなかったことを思い出す。
「先代のメルちゃんは私の力をうまく引き出していたわ。本当に人間なのか疑うレベルで優秀な戦士だったわね、彼女」
アルテミシアが言うには、前魔王妃は特に合図などなしに自然に必要な分の魔力を引き出していたという。
だから、アルテミシアがあれこれと戦闘中に介入するようなことはなかったらしい。
プライベートでお喋りを楽しむ程度には仲良かったが、手取り足取り魔力コントロールを教えるような関係ではなかったのだろう。
もちろん、この前の私の時のように「憑依」して戦うことも可能だったようだが、素の状態の前魔王妃の方が強かったみたいである。
「まあ、前魔王妃様のポテンシャルには計り知れないものがあったしね……」
アルテミシアの言葉で当時の戦闘風景を思い出したらしいラティスが苦笑いする。
たしかに、ラティスやオーキンス程の実力者が肩書上「料理人」や「医者」だったことからも、当時の「強い」は「桁違いに強い」のだったことが伺える。
私は凶悪な武力の前に晒される身になったとはいえ、過去ではなく現代で良かったなあと思うのだった。
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昔話もそこそこに、アルテミシアから教わった「合図」というのは「制御魔方陣に魔力を流しこむこと」であった。
これならば、喉を潰されたり意識が混濁している状態でもアルテミシアに助けを求めることができるという。
物理的に口封じされるとか、なんだか凄い物騒な話をされた私は「えぇ……」と戸惑いの声を漏らすのだった。
とはいえ、実際にそのタイミングになってもコミュニケーションが取れるというのは心強い。
「それじゃあ、一度私は中に引っ込むからやってみて」
アルテミシアはそう告げると、一度私の体内の奥深くへと戻っていった。
私が瞳を閉じて瞼の裏に意識を集中しても、すでに彼女の姿は見えなくなっている。
いったいどういう原理でアルテミシアが私の意識にアクセスしているのかは分からないが、とりあえず今は気にしないでおこう。
というか、考えてもよく分からないしね。
「魔王妃様、魔法陣に魔力を込めるのはできるよね?」
アルテミシアが引っ込んだことを確認したらしいラティスが私に言う。
それにたいして「うん」と頷いた私は、早速体内に埋め込まれている制御魔方陣に魔力を少し流してみる。
魔力操作に関しては、以前の遠征の際にシグマやワタアメに教わっていたので、少しはできるようになっていた。
とはいえ、自分の体内にある魔法陣にアクセスするのは初めてだったので少し緊張する。
「これで……いいのかしら?」
私が魔力を込めると、辺りに砂煙を纏った風が吹き荒れる。
吹くというよりも、私たちが立っている場所から少し離れた一点に向かって渦巻いているようにも見えた。
周囲で様子を見ていたロキ達は「姫さん!?少し魔力が強すぎませんか!?」と慌てた様子である。
魔力を込めてアルテミシアを呼び出している当事者の私も、あまりにも迫真な登場演出に「え?なにこれ?」といった感じだ。
「もどったわよメルちゃん‼……ってそれどころじゃなさそうね」
私の身体からアルテミシアの声にに気付いたラティスやドレイクは、発生した砂煙の方へと戦闘態勢をとる。
数瞬遅れてオーキンスやロキもターゲットに向けて歩行術全開の構えを取っていた。
一瞬何が起こったのか分からなかった私は、同じく頭にはてなマークを浮かべている人狼隊の部下たちと視線を送り合う。
そして、人狼たちのもとにいたワタアメの方を見ると彼女も酷く警戒した様子で砂煙の方を見ていた。
「おやおや、どうやら来客者のようだね」
凄まじい魔力渦を周囲に広げながらも、余裕そうな表情で言うラティス。
彼が言葉を投げかける先には、徐々に晴れていく砂煙があった。
そして、その視界効果も時間の経過と共に完全に晴れる。
「えっ……うそ、なんで……」
私は自らの目に映ったモノに驚きを隠せなかった。
そこに現れたのは予想外の人物であり、彼女を見た瞬間に遠征で経験した残酷で恐ろしい光景が脳裏に蘇る。
相変わらず、可愛らしい顔に相応しくないネットリとした視線が私の顔を舐めるようにロックオンしていた。
「うへへ、また会えたねメルヴィナちゃん……‼」
晴れた霧の中から出てきたのは、いつか私が殺されかけた時の「ウサギ」であった。
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