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第81話 アルテミシアの要求

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 結果的に、私はアルテミシアとしばらく対話することで彼女について色々と知ることが出来た。
 どうやら、アルテミシアは前の宿主であった前王妃メルヴィナとすごく仲良しだったらしく、彼女にそっくりな私のことを偉く気に入ってるらしい。

「そうなのよ~、この前初めて喋った時はお姉さんも久しぶりで緊張しててね~」

 メルちゃんと親しげに呼ばれるメルヴィナは、アルテミシアが見せる「凶悪な魔女」と「世話好きお姉さん」みたいなギャップに困惑していた。
 この前の調査任務で初めて力を借りた時とは随分と雰囲気が違うのだ。
 まあ、いつもこの前みたいに張り詰めた空気だと疲れてしまうので助かりはするのだが……。

「アルテミシアとは仲良くなれたってことでいいのかしら……?」

 成り行きでアルテミシアと友好的な関係を築けそうになっているが、実際はどうなのかまだ分かっていない。
 そんなメルヴィナの不安を感じたのか、アルテミシアは「あらら、お姉さんてばメルちゃんを驚かせちゃったみたいね」と困った様子を見せている。
 既に私から手を放してフリーになっているラティスも「はははっ、アルテミシアもあんまり魔王妃様を困らせちゃだめだよ」と笑っていた。
 彼らの反応を見た私は、とても大戦準備期の危険な訓練中とは思えない緩い様子にちょっと緊張がほぐれた。
 そして、少し調子を取り戻した私は肝心なことを思い出すのである。
 というか、だれかそれについて指摘しろよと思わざるを得なかった。

「アルテミシア、私に力を貸してほしいの」

 私は平和なお喋りもそこそこに、本来の目的をアルテミシアに切り出すのだった。
 それまではふにゃふにゃと表情を緩ませていた私であるが、本題に入るにあたり真剣な顔つきを取り戻す。
 そこには、アルテミシアが突然豹変して「いやよ」と言うかもしれない不安が隠れているのである。
 そうなってしまえば作戦は失敗に終わるし、私と彼女の今後の付き合い方にも影響が残ることになるだろう。
 というか、私が宿主でありながらも私の方がピンチな状態になりかねない。
 だから、緊張の一瞬なのである。
 しかし、そんな心配は杞憂に終わるのだった。

「いいわよ」

 アルテミシアは即答でOKであった。
 訓練場に集結している私達一同は、その返事に驚きを隠せない。
 目指すところとして「そうなるといいな~」くらいには思っていたのだが、こうもあっさりと決まるとスッキリとしないのだ。
 人間も魔物もそのへんの感情は似たようなものであるらしい。

「ただし、一つだけ条件があるわぁ」

 アルテミシアは私に条件があると告げる。
 そんな彼女の要求がどんなものだろうかと、一同に緊張が走るのであった。
 もしも「私の身体を乗っ取る」とかだったらどうしようかと、不安を打ち消すかのように小さな手に力がこもる。
 でも、魔王軍の存続のためならば私が犠牲になることも必要なのかもしれない。
 短い間とは言え、仲良くなった魔王軍の皆のことを考えるとそんな気持ちにもなるのだ。
 あれだけ不満をぶちまけていた魔王ルシフェルですら、しばらく一緒に暮らしていると愛しさの感情も生まれてくる。

「それはどんな条件かしら?」

 私は、身に迫る危険を顧みずに問いかける。
 その様子を見守っていたロキが「姫さん、ヤバい条件だったら乗る必要はないっすよ」と緊張した表情で言う。
 それに呼応するようにラティスも「まあ、アルテミシアが協力してくれないなら俺達が頑張るからさ」と優しくほほ笑む。
 ドレイクも「そのために我らがいるのだからな」と勇ましく胸を張って言う。
 オーキンスもその場から逃げだそうとしてるワタアメを捕まえながら「師匠、きっと大丈夫ですよ」とサムズアップしていた。

「ふふふ、それはね……」

 アルテミシアが少し嬉しそうな様子で条件を切り出す。
 彼女の要求を待つ私たちは、緊張で息が詰まる状況である。
 しかし、なんとなくアルテミシアは今、人差し指を突き合わせてもじもじとしているような気がした。
 彼女の声を聴いて、不意に生前に近所に住んでいた小さな女の子が私と遊びたそうにしている時に見せる仕草を思い出す。
 その女の子も「ねえねえ、お姉ちゃん……」と言うときは決まって楽しそうにしていた。
 アルテミシアも私の身体を遂に乗っ取れるかもしれないとワクワクしているに違いない。
 私はどんな要求がくるのかと、自らの脈打つ鼓動の大きさを感じながら続きを待つのであった。


「メルちゃんが私のことを『アーシャ』って呼んでくれたらいいわよ」

 
 どうやら、アルテミシアの要求は私と「おともだち」になりたいということらしい。
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