79 / 91
第73話 魔王妃ブーム?
しおりを挟む「……ふぅ、結構ナマってるなやっぱり」
武器を振り終えたオーキンスが肩にハルバードを載せて一息つく。
あまりにも見事で拍手も出ずに沈黙する一同だった。
「それじゃあ次は『歩行術』全開でいくぜ?」
オーキンスがそう言うと、彼の身体から「オーラ」のようなものが迸りモヤモヤと青白く光り始めた。
力があふれ出すオーキンスの周辺にはゴウゴウと上昇気流のような土ぼこりが湧き上がる。
先日の山越えで簡易的とはいえ「魔力感知」を教わっていた私は、彼から感じる恐ろしい程の「力」に驚くのであった。
私の机の上に大人しく陣取っていたワタアメも、耐えきれずプルプルと震えながら私の膝の上に転がり込んでくる。
「俺は……この光を一回だけ見たことがありますねえ……」
オーキンスの全開オーラを肌で感じ、鳥肌の様に全身の毛を逆立てながら喋るロキ。
眉をひそめて何かを思い出している彼は「あれは隊長とグレイナルの奥地に行った時だったな……」と震えている。
他の人狼たちも先ほどの組手の時よりも遥かに激しいパワーに、開いた口がふさがらない様子であった。
そして私は、光り輝く料理長と震える人狼たちを見ながら「歩行術って全然『歩行』関係ないじゃない!」と心の中でツッコミを入れて平静を保とうと努力するのだった。
----
メルヴィナ達が訓練場で震えている同刻、一仕事終えた魔物達は城に帰還していた。
「そういやあ知ってるか?」
「何がだよ」
「いやな、魔王妃様が第2訓練場で人狼のロキに戦闘指南を受けているって話」
背の高いトカゲの魔物が、横を歩く相方の猫獣人に話を投げかける。
訓練場で魔王妃が訓練をしているとあちこちで話題になっているようであり、そこかしこで魔物達は噂話をしていた。
御多分に漏れず、このトカゲたちも現在ホットなネタについて話している。
「しかしなあ、噂だと料理長とお医者さんも参加してるっていうんだよなあ……」
うーんと唸りながら解せぬ表情で言葉を続けるトカゲ。
彼の言い分では「本当に戦闘訓練なのか?」という疑問が残るらしい。
歩きながらそれを聞いていた猫獣人も「たしかにな……」と納得するのだった。
仕事も終わって食堂で一息つくかと思っていた二人であったが、妙なもどかしさが胸に残りなんだかスッキリとしない。
「そもそも、魔王妃様って戦闘以前に『虚弱』だって聞いたことがあるけどなあ……」
意外にも情報通のトカゲが魔王妃についての情報を次々と公開していく。
それに対して猫獣人は「お前も魔王妃様について詳しいのかよ!」とツッコむのだった。
最近の魔王軍では一部で空前の「魔王妃様」ブームが巻き起こっているらしく?妙に詳しい連中が増えているらしい。
そんなわけで魔王妃についての噂話を近頃よく聞く二人もだんだんと彼女に興味を持つようになったのだった。
「おい、あの人だかりはもしかして……」
廊下を歩く二人は、件の第2訓練場へと続く道に魔物達が集まっているのを見つけた。
恐らくは「魔王妃の訓練」の見学だろうと二人とも察する。
「俺達も見に行くか……って」
猫獣人が声をあげた時には既にトカゲが走り出していた。
それに続いてもう一人も短い手足をバタバタと動かして後を追う。
少し日が陰り始めた夕方の魔王城の廊下には、放課後の喧騒のような微笑ましい光景であふれているのだった。
----
「あとさあ、なんか見学者が増えてないかしら……?」
歩行術全開で演武を披露するオーキンスを見るために集まった観客達が増えていることに気づく私。
スカスカだった訓練場も既に普段の様相を呈し始めていた。
オーキンスのオーラに気を当てられながらも「実は姫さんの訓練に興味を持っている魔物が多くてですねえ……」とロキが答える。
彼の話では「魔王妃を見に来たが、料理長がなにやらすごいことになってる」といった感じで人が集まっているのではないかということだった。
「たしかに、基本的に魔王軍の兵士達は『武術』に関心があるからね」
私が周囲を見渡すと、オーキンスの槍捌きに熱狂する屈強な魔物達の姿が多数見受けられた。
彼らは口々に「すげえ!」だとか「なんだあれ!」とか興奮した様子で叫んでいる。
それとは対照的に、実際にそのオーラの餌食となった人狼たちは恐怖の表情で見ていた。
どちらかというと私も人狼たちと同じような心持である。
盛り上がる会場はオーキンスの演武が終わると同時に最高潮を迎える。
あちこちから歓喜の声が上がり、当事者の料理長もまんざらでもない様子であった。
そんな雰囲気の中、熱狂する人々の山を切り分けるように何者かが私たちの方へと近づいてくる。
パワー系の騒がしい魔物達が大人しく道を開けているあたり、おそらくは隊長格もしくはそれに準ずる者であろうか。
「腕はナマってないようだなオーキンス」
人垣の中から現れたのは、全身が硬い鱗に覆われている竜人であった。
0
あなたにおすすめの小説
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる