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第32話 野営 

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 彼女の腕の中のワタアメは焚火の近くに私を見つけるや否や、ニャルラの腕から飛び降りてこちらへ走ってくる。

「もきゅ!!」

 ずっと荷物の中で気配を消していたらしいワタアメは、お肉のにおいにお腹が空いて出てくるか迷っていたようだ。
 私の膝の上にピョンと飛び乗ったワタアメは私が手に持っていたお肉をパクっと食べる。

「5人一組になってしまったな、魔王妃殿」

 もきゅもきゅ言ってるワタアメを見たシグマは「こいつも魔王妃殿の力になりたいらしい」と私に言う。
 ワタアメに「魔王城に帰れ」というわけにもいかないので、私は野営の抱き枕代わりに使わせてもらうことにした。
 移動中も、私が抱っこしていれば問題ないでしょう。
 それにしても、私の力になりたいからとこっそりついてきちゃうあたり、ワタアメはめんこい奴である。


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 山越えを翌日に控えた私たちは、食事を終えた後就寝準備に入ることになった。
 今回の任務中は長期の野営に慣れているシグマが「火の番」と「周辺警戒」を担当することになる。
 野営に不慣れな私とガウェイン、ニャルラはキャンプの見張りを彼らに任せ、早々に寝ることにした。

 私がテントに入ろうとすると、ガウェインが「テントは一つですか……?」と足を止める。
 それに対してニャルラが「そうだニャ。狭いのは仕方ないニャ」と答えた。
 私は生前から川の字になって寝ることには慣れているので、特に躊躇することなくテントに入る。

「あら、ちゃんと寝袋をもってきてたのね」

 ニャルラの巨大な荷物の中に入っていたらしきシュラフがテント内に並べてあった。
 この寝袋たちの隙間にワタアメが入っていたということである。
 よく見ると一つだけ何者かが入っていたらしき痕跡があるので、これが彼女が隠れていたものだろう。
 飼い主である私は、ワタアメが入っていたらしき真ん中の寝袋に入った。

「それじゃあ寝ましょうか」

 そそくさと自分の布団に入り込んだ私とワタアメに続き、ニャルラも空いている寝袋に入り込む。
 未だテントに入るのを躊躇していたガウェインに「ここ、早く」と隣の布団を指さして命令を出す私。
 それを受けたガウェインは「ええ……」と戸惑った声を出してキョロキョロしながら布団に入った。
 私の反対隣りの布団にいるニャルラは「おやすみニャ~」と言った後、すぐにスヤスヤと寝息を立てる。
 優秀な隊員ほど野営時にすぐに眠れるものらしい。

「私についてきてくれてありがとね、ガウェイン」

 私は寝っ転がったままガウェインに感謝の意を伝える。
 シャルロットの結婚式典で誘拐された時に彼は私についてきてくれたのだった。
 魔王城でも色々お世話になっていることや、今回の任務にもついてきてくれていることは非常に有難いことである。
 私の感謝の言葉に対し、照れ臭そうに「お嬢様をお守りするのが役目ですから」と答えるガウェイン。
 そんな彼の忠誠心に、私はとても嬉しくなった。

「そうね、ガウェインは私のモノなんだから他の姫様に仕えたりしちゃだめよ?」

 ニコニコと笑いながら冗談めかして私が言うと、ガウェインは顔を真っ赤にして「お嬢様が自分にとっての姫様ですよ」と答える。
 それに対して「あら、嬉しいわ」と私はほほ笑んだ。
 その様子を見ていた腕の中のワタアメも「もきゅもきゅ!」と意思表示している。
 私が「女の子なのに勇敢なのね」とワタアメの頭を撫でていると、ガウェインが「お嬢様ほどではありませんよ」と冗談を言う。
 彼の意見には「たしかに、そうだよなあ」と同意せざるを得なかった。


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 テントの外からシグマ達の声が聞こえる。
 ワタアメを抱っこしたまま寝ていた私は、彼女を一旦布団の上に置いて起き上った。

「ガウェインも一緒に訓練でもしてるのかしら……」

 私は、まだお眠のワタアメをテントに残して外に出ることにした。

 テントの外ではシグマ、ニャルラ、ガウェインの3人がなにやら訓練のようなことをしていた。
 外に出てきた私に気づいた3人は、訓練を切り上げてこちらへと歩いてくる。

「魔王妃殿も起きたことだし、朝食の準備としよう」

 ニャルラになにやら指示を出したシグマは、森の中へと駆けて行った。
 その様子にポカーンとする私とガウェイン。
 なにやら指示を受けていたニャルラが荷物を漁りながら「パパは木の実を取りに行ったニャ」と言う。
 それから少しすると両手に「リンゴ」のような赤い実を大量に抱えたシグマが帰ってきた。
 ようやく目覚めたワタアメも「もきゅもきゅ」言いながら食卓につく。

「今日は山を越える」

 シグマの一言によって、私たちは食事をとりながら「グレイナル山脈」を超える予定について話し合うこととなった。
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