39 / 91
第33話 異次元に強い化け物達
しおりを挟む
朝食を取りながら山越えの打ち合わせを済ませた私たちは、さっそく移動を始めるのだった。
現在地はグレイナル山脈のふもと、魔王軍の領域側に位置する。
目の前にそびえたつ大小の山々を超えた先に「邪神教」の魔物たちが住む土地があるのだ。
「それにしても、改めて近くで見るとすごいわね……」
私は目前の壁のような山を見て、シグマの腕の中で呆然と佇む。
そんな私のつぶやきにシグマは「この山々は儂ら魔物たちの故郷のようなものだ」と答える。
魔王軍の魔物たちの中にもグレイナル山脈からこちらに下ってきた者たちは多いという。
たしか、私の屋敷にいた猫執事のミャオもこの山の出身だと言っていたはずである。
「グレイナルには何回か入ったことがあるけど、あんまりいい思い出はないニャ……」
いつもよりも少し元気のない様子で眉を顰めるニャルラ。
シグマ親子はグレイナル出身ではないらしく、ここには数回来たことがある程度らしい。
肩を落とす弱気なニャルラを見たガウェインも少し緊張した様子でその後ろを走っていた。
山のふもとの森からグレイナル山脈を登り始めた私たちは、少しペースダウンしながらも良い調子で進んでいく。
そんな中、私は出発前にシグマが言っていたことを思い出していた。
屈強なシグマが「ここからは少し移動に気を遣う」と言っていたことについて少し考える。
たしか、昨日は「山の向こう側では慎重に動く」と言っていた気がしたが、山の中も一応警戒する必要があるのかもしれない。
邪神教の連中に私たち「偵察隊」の存在を気取られないようにするためなのかとも考えたが、それ以外にも理由がありそうであった。
「ねえ、グレイナル山脈に住む魔物ってそんなに強いのかしら?」
考えられる一つの理由として「魔物が滅茶苦茶に強い」という仮定を私は考えた。
魔王軍でほぼ最強のシグマとそれに準じる強さを持つニャルラ、最近急成長中のガウェインがいてもまずいほど強い敵の存在である。
そんな疑問に対して、シグマではなく横を走るニャルラが答えた。
「半分正解で、もう半分は違うニャ」
彼女が言うには、山脈で暮らす魔物たちは基本的に好戦的ではあるがそこまで強くないという。
だが、ごく一部異次元に強い「ヤバい魔物」が存在するらしい。
「あれは、うちらが迂闊に手を出していい存在じゃないニャ……」
かつてシグマ親子も「グレイナル山脈に住む強い魔物と戦いに行く」という企画で遊びに来た時のことだという。
その時のメンバーには吸血姫ヴァネッサや竜人ドレイク、土塊スターチアといった魔王軍屈指の戦闘能力を持つ面々もいたらしい。
猫執事のミャオをはじめとするグレイナル出身の魔物たちは「絶対に近寄ってはいけない」と震え上がってその魔物たちについて語るという。
「あの時はまるで歯が立たなかったのう」
シグマを含む各部隊の隊長3人に、大戦時代からの強者であるヴァネッサとそれに次ぐ実力者のニャルラがいても手も足も出なかったのである。
魔王軍でも最高峰の武力を持つ5人がたった1匹の魔物に軽くあしらわれたという。
私はその話を聞いて「邪神教なんかよりよっぽど危険なんじゃない?」と思ったことを口に出す。
ガウェインも私と同意見のようで、シグマやニャルラを子ども扱いできるような奴が本当にいるのかと信じられなさそうにしている。
シグマ達がかつて遭遇した魔物のように、魔物という枠を超越した神のような強さの怪物があちこちに存在するのが「グレイナル山脈」だという。
ただ、そんな怪物たちも大半は見逃してくれるらしい。
まれに「獲物は絶対に逃がさない」といったハンターのような怪物がいるらしいので注意が必要なのだという。
そんなわけで、魔王軍も邪神教もグレイナル山脈を闊歩する「化け物」達にはノータッチであるらしい。
「500年前の大戦の時も、特に奴らが干渉してくることはなかったしのう」
当時のことを思い出しながら言うシグマ。
おそらく、化け物連中も「外の小競り合い」にそこまで興味がないのだろう。
それを聞いて「プロスポーツ選手がアマチュアの大会に出れないシステムに少し似ているな」と思う私である。
一同は警戒しながらも「化け物に出会いませんように」と祈りながら山道を行くのであった。
現在地はグレイナル山脈のふもと、魔王軍の領域側に位置する。
目の前にそびえたつ大小の山々を超えた先に「邪神教」の魔物たちが住む土地があるのだ。
「それにしても、改めて近くで見るとすごいわね……」
私は目前の壁のような山を見て、シグマの腕の中で呆然と佇む。
そんな私のつぶやきにシグマは「この山々は儂ら魔物たちの故郷のようなものだ」と答える。
魔王軍の魔物たちの中にもグレイナル山脈からこちらに下ってきた者たちは多いという。
たしか、私の屋敷にいた猫執事のミャオもこの山の出身だと言っていたはずである。
「グレイナルには何回か入ったことがあるけど、あんまりいい思い出はないニャ……」
いつもよりも少し元気のない様子で眉を顰めるニャルラ。
シグマ親子はグレイナル出身ではないらしく、ここには数回来たことがある程度らしい。
肩を落とす弱気なニャルラを見たガウェインも少し緊張した様子でその後ろを走っていた。
山のふもとの森からグレイナル山脈を登り始めた私たちは、少しペースダウンしながらも良い調子で進んでいく。
そんな中、私は出発前にシグマが言っていたことを思い出していた。
屈強なシグマが「ここからは少し移動に気を遣う」と言っていたことについて少し考える。
たしか、昨日は「山の向こう側では慎重に動く」と言っていた気がしたが、山の中も一応警戒する必要があるのかもしれない。
邪神教の連中に私たち「偵察隊」の存在を気取られないようにするためなのかとも考えたが、それ以外にも理由がありそうであった。
「ねえ、グレイナル山脈に住む魔物ってそんなに強いのかしら?」
考えられる一つの理由として「魔物が滅茶苦茶に強い」という仮定を私は考えた。
魔王軍でほぼ最強のシグマとそれに準じる強さを持つニャルラ、最近急成長中のガウェインがいてもまずいほど強い敵の存在である。
そんな疑問に対して、シグマではなく横を走るニャルラが答えた。
「半分正解で、もう半分は違うニャ」
彼女が言うには、山脈で暮らす魔物たちは基本的に好戦的ではあるがそこまで強くないという。
だが、ごく一部異次元に強い「ヤバい魔物」が存在するらしい。
「あれは、うちらが迂闊に手を出していい存在じゃないニャ……」
かつてシグマ親子も「グレイナル山脈に住む強い魔物と戦いに行く」という企画で遊びに来た時のことだという。
その時のメンバーには吸血姫ヴァネッサや竜人ドレイク、土塊スターチアといった魔王軍屈指の戦闘能力を持つ面々もいたらしい。
猫執事のミャオをはじめとするグレイナル出身の魔物たちは「絶対に近寄ってはいけない」と震え上がってその魔物たちについて語るという。
「あの時はまるで歯が立たなかったのう」
シグマを含む各部隊の隊長3人に、大戦時代からの強者であるヴァネッサとそれに次ぐ実力者のニャルラがいても手も足も出なかったのである。
魔王軍でも最高峰の武力を持つ5人がたった1匹の魔物に軽くあしらわれたという。
私はその話を聞いて「邪神教なんかよりよっぽど危険なんじゃない?」と思ったことを口に出す。
ガウェインも私と同意見のようで、シグマやニャルラを子ども扱いできるような奴が本当にいるのかと信じられなさそうにしている。
シグマ達がかつて遭遇した魔物のように、魔物という枠を超越した神のような強さの怪物があちこちに存在するのが「グレイナル山脈」だという。
ただ、そんな怪物たちも大半は見逃してくれるらしい。
まれに「獲物は絶対に逃がさない」といったハンターのような怪物がいるらしいので注意が必要なのだという。
そんなわけで、魔王軍も邪神教もグレイナル山脈を闊歩する「化け物」達にはノータッチであるらしい。
「500年前の大戦の時も、特に奴らが干渉してくることはなかったしのう」
当時のことを思い出しながら言うシグマ。
おそらく、化け物連中も「外の小競り合い」にそこまで興味がないのだろう。
それを聞いて「プロスポーツ選手がアマチュアの大会に出れないシステムに少し似ているな」と思う私である。
一同は警戒しながらも「化け物に出会いませんように」と祈りながら山道を行くのであった。
0
お気に入りに追加
1,682
あなたにおすすめの小説
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~
咲桜りおな
恋愛
四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。
記憶が戻ったのは五歳の時で、
翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており
その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、
自分が公爵家の令嬢である事、
王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、
何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、
そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると……
どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。
これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく
悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って
翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に
避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。
そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが
腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。
そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。
悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと
最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆
世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる