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第18話 もこもこした白い生物

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 よく見ると、黒くつぶらな瞳がこちらを見ており、目の近くにちょこんと耳が生えていた。
 どうやら、この球体は「まん丸なウサギ」の魔物であるらしい。

「お前さんもお風呂が好きか」

 お風呂でユラユラと漂う私は、お爺さんのような調子でウサギに話しかける。
 それに対し、こちらの言葉を理解しているのか「むきゅ!」と返事をするウサギであった。
 このウサギを見るに、どうやら魔物たちは皆が皆「言葉を話せる」わけでは無いらしい。
 しかし、意識はそれぞれきちんとあり、私たちと意思疎通を図ることもできるようだった。

 それから少しして、私はまん丸なウサギを抱えてアリシアやニャルラ達のもとへ戻る。
 すると「あら、この間うちに迷い込んできた子じゃない」とニャルラが驚く。
 どうやら、こいつは魔王軍の中でもつい最近やってきた新入りらしいことが判明した。
 このウサギは私と同じような境遇というわけである。

「その子にはまだ名前が無いみたいなので、よろしければ魔王妃様が付けてあげてください」

 私の腕の中で「むきゅむきゅ」言っているモフモフに対して、名前を付けてさしあげろというニャルラ。
 アリシアも「可愛いウサギ……?」とこの白い生物を見て首をひねっている。

「うーん、名前ねえ……」

 私は腕の中で幸せそうに眼を細める白いウサギを見つめながら、この子の名前を考えた。
 白くて丸いフワフワした生き物……。
 女湯に入っているあたり、きっと女の子なのだろう。
 それならば可愛い名前がいいかしら。

「決めたわ、この子の名前は「ワタアメ」よ!」

 第一印象が完全に「綿あめ」だった私は、少し悩んだ末そのまま名づけることにした。
 アリシア達は「わたあめ?」と不思議そうな顔をしている。
 私もこの世界で綿あめが売っているところを見たことはないが、公爵家の厨房で作ってみたことはあった。
 そもそも、砂糖が貴重だったりするので普通は作ろうなどと考えないのである。

「お嬢様、ワタアメはどういう意味なのでしょう?」

 頭にはてなマークを浮かべる一同に「ワタアメとは砂糖を使ったお菓子のことだ」と説明する私。
 砂糖を溶かして遠心力で引き延ばし、高速回転させて糸状になった飴を冷やして固めた食べ物であると解説した。

「なんだか難しいですけど、料理の名前をつけてあげるなんてお嬢様らしいですね」

 料理好きならではの発想ですねとアリシアに言われるも、そんなプロっぽい発想ではなく、「日本人であれば命名の候補には挙がるはずだ」と密かに思う。
 「ワタアメ」と名付けられたウサギは、その名前を気に入ったのか「むきゅむきゅ」言いながら喜んでいた。

 お風呂を十分に堪能した私たちは、続いてサウナへと向かうことにする。
 ワタアメを連れて行っても大丈夫かとニャルラに聞くと「特に問題はない」と彼女は答えた。
 そもそも、魔物はどれほど小さくても人間よりかなり頑丈にできてるらしく、少々のことではへこたれないという。
 あの可愛かったビッケでさえガウェインを圧倒していたのを思い出すと、たしかにそうなのかもしれないと思った。

「それじゃあ入りましょうか」

 ニャルラが開けた扉に私も入っていく。
 その後ろをアリシアがついてくるも「うっ!」と小さく呻き声をあげる。
 目を細めて「この熱さはいったいなんですか?」と困惑するアリシア。
 彼女はこの「サウナ室」に何か異変が起きているのではないかと思っているようだった。

「いやいや、これがサウナだから大丈夫だよ」

 サウナをよく知るニャルラと私は、アリシアが訝しむのも気にせずずいずいと中へ進んでいく。
 その様子をみて「お嬢様!」と暑さに耐えながらもついてくるアリシア。
 先客が幾らかいる中、私たちも同じように用意された段差のような椅子に腰かける。
 すると、サウナに既にいた魔物たちは「魔王妃様!お疲れ様です!」とわざわざ立ち上がって礼をした。

「あなたたちもご苦労様」

 と私もそれに返事を返す。
 裸で礼をする魔物たちを見ながら「こんなところでまで礼をしてくるなんて魔族の上下関係は絶対なんだなあ」と思う私であった。
 サウナの暑さにも慣れてきたのか、アリシアも「汗が体から滲みでてきました」と自らの状態を報告してくる。
 それに対して私は「全身の毛穴から老廃物を書き出す感覚が良いんだよね~」と親父臭いことを言う。
 サウナに入ったことのなかったらしいワタアメも「きゅ~」と気持ちよさそうに堪能していた。

 そして十分にサウナで汗をかいた私たちは、一旦外に出て「ああ~気持ちいいわ~」と冷たい空気を楽しむのであった。
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