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52.暗闇
しおりを挟む「お部屋へ無事に辿り着ければ……」
(大丈夫よ、大丈夫。きっと上手くいくわ)
アメジストが一番恐怖に怯えているのは継母スピナに勘付かれ、咎められる事であった。しかしあと少しで出口へ着くはずだと自分自身を奮い立たせると、止めていた足を一歩踏み出し再度進もうとした――その時!!
「キャッ……」
それは突然の出来事だった。
急に目の前が真っ暗になり何も見えなくなったのだ。歩き出そうとしていた彼女は立ちすくみ、震え始める。
(暗いのは嫌、怖い)
アメジストが異常なまでに暗闇を嫌う理由。それは幼少期、継母から受けていた“おしおき”が、原因であった。
「――?!」
あんなに楽しいと思えていた隠し扉内で感じる、恐怖心。まるで風船のように膨れ上がりそして、思い出す。「お気をつけて」と何度も繰り返し用心するよう言ってくれていたジャニスティの心配そうな顔が、アメジストの瞳にぶわっと浮かび零れた。
(どうしたらいいの……ジャニス!!)
心の中で名を呼ぶ。いつも傍で見守ってくれる、彼の名を。
しかし今は此処に一人、ジャニスティが助けに来る事はない。
――『お嬢様、お気をつけて』
ふと聴こえてくる、言葉。
「そうよ……此処から出なきゃ。怖くない、大丈夫、怖くない!! 頑張るの」
自分はこの暗闇から必ず抜け出せる! と言い聞かせ、祈るように合わせた手をギュッと強く握った。それからゆっくりと目を瞑り気持ちを落ち着かせる。
「ふぅ~……よしッ! 行こう」
アメジストがこの隠し扉の中へ入る直前ジャニスティがかけてくれた魔法が発動したのだろうか? 胸の中でポカポカとしたものが広がると彼女の心を支え、安心させてくれた。
それは真っ暗で見えなくても、心身に伝わってくる。
まるで手が届く程近くに感じた。
アメジストの傍で、ジャニスティが応援してくれているかのように暗闇の中、手探りで出口を探す。すると手の平が、壁のようなものに当たった。
(きっと、扉だわ!)
身体の重心を前へ倒し腕から手にかけて力いっぱい、押し出した。すると思ったよりもずっと軽くサッと開いた扉から身体ごと外へ放り出される。
「い、痛たぁ……」
勢いで転んでしまったアメジスト。涙ぐむ桃紫色の煌めく瞳が見上げた景色は――。
「エッ?!」
驚きでしばらく静止する彼女の頭の中では理解する能力が全開で働く。しかし考えても考えても、摩訶不思議な出来事であった。
(だって、どう見返しても)
「此処は……私の……お部屋?」
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