炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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「組織自体を裏切ってる奴についても、すぐに信用なぞ裏切られンのは目に見えてる」
ギリギリと掴んだ縄の重さに、奥歯を噛むと不意に縄の力が緩む。
まさか、落ちたか!?
シェンは冷や汗を浮かべて、慌てて視線を窓の外に向けると、別の窓へと手を伸ばして掴んでぶら下がっている統久を見つける。
半端ない運動神経だな。
ホッとしたところで、統久は記憶がなくても状況判断したのか、下の階の窓をガンガンと割ると中に入り込んだようだ。

中は一酸化炭素が充満しているって言ったのを聞いてなかったのか。

シェンは、目の前のウォンバットに銃口を向けたまま、下の階への階段へと向かって駆け出す。

ったく、手が掛かりやがる。
解除方法をしち面倒くさくした自分にも問題はあるが。

「逃がさないぞ、シェン·リァウォーカー」
フルネームを呼びながら散弾銃を撃ってくるのをかわしながら、廊下の曲がり角に隠れる。

確かに統久がいなければ、生き残ったとしてもウォンバットのシナリオどおりになってしまう。
一兵卒の意見は通らないものだ。

足を狙ってでも、どうにか動きを止めないとな。どちらにしても、死なせてしまうのは証言も有耶無耶になるし良くないだろう。
身を屈めてこちらを狙っている男の足元へと照準を定める。
「本来ならば、カルハード作戦の英雄は君だろう。上官や他の上の人に逆らうから、いつまでもそんな地位にいないとならない。ベータなのもあるだろうが」
身体を引き摺りながらこちらを警戒している男に死角を探すのは難しい。
統久が仕掛けた爆弾は絶妙に炎上するものの近くに撒いたのか、轟々と火の手かあがっている。
時間は、ない。
「オレは、英雄なんてなりたくない、んだよ」

照準に向けてパキュンキュンと実弾を放つ。
流石に、脚はビーム防護を着ているだろう。ビームよりは発射までの時間はかかるが、この距離ならかわせないだろう。

「浅はかだな。リァウォーカー」

身体をぐいと捻って足元へと銃弾を受けながらも、ウォンバットはシェンの眉間へと銃口を突きつけた。



万事休す、か。

構えていた銃口をそのままに、逃げ場などない状況に舌打ちをして次の衝撃を待つ。
このまま、人生終了とかつまんねえな。
全部爆破しちまうか。
指輪を握り締めて全ての爆弾を起爆させる。
激しい揺れが響き渡る。

キュォーッーン
「グアッ、ウッ」

レーザーの照射音が響き、シェンは覚悟に瞼をきつく瞑ったが、同時に呻き声をあげたのはシェンではなく、ウォンバットの方だった。

レーザーガンがカランカランと乾いた音を響かせて床を滑る。

ゆっくりとした所作でそれを拾いあげたのは、目の前に立つシーツだけを纏った統久である。

シェンは目を見張ると、腰をあげて体勢を整える。

記憶が戻った、のか。
ゆっくりと、統久は手にしたレーザーガンの銃口をウォンバットに向けるとにっこりと笑う。
「ウォン、これで人を撃ったらいけないんじゃなかったかな。俺はご主人様が迎えにきたから行くからね」
統久が撃つ気がないのを悟り、ウォンバットは腰をあげると統久から銃を奪おうと手を伸ばすが、統久は、軽く払って躊躇なくウォンバットの腕を撃つ。
「ッうがああ、お、まえの、き、記憶は消したは、ず」
首を横に傾げて統久は胸を張る。
「何言ってるのか分からないけど、俺の記憶力はいいよ。だってウォンが教えてくれたんじゃない。ご主人様は絶対だって。お迎えにきてくれた人が俺の大事なご主人様だって」
どうやら、統久の記憶は戻っていないが、ウォンバットが施した刷り込みが仇になったようである。
シェンはのたうち回るウォンバットにの肩口に、ショックガンを撃ち込む。

「ーーッぐ」

ぐったりとしたウォンバットの身体を抱えると、統久に向けて非常口を指さす。
「逃げるぞ、火の手が回る」
「下の階は火の海だったよ。さっきみたく窓からもう一度飛び降りた方がいい」
「じゃあ、そうするか」

重たいこの荷物はどうするかなと、シェンは考えを巡らせながら、窓へと向かった。
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