炎上ラプソディ 

怜悧(サトシ)

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気を失っているウォンバットの身体を縄で巻いて、ゆっくりと先に地面に降ろす。
万が一意識が戻ったとしても、手錠を手脚につけたので逃走はできない。
「統久、さん。自分で降りれるか」
「さっき、問題なかったから大丈夫」
返事をすると窓枠から、足場を探して難なく下に壁を降りていく。
本能ってすげえなと感心しながらシェンも壁を降りていき、地面へと到達する。
建物を見上げると業火に包まれていて、さっきまでいた窓枠からも火の手が見える。
「ご主人様、俺、早くご褒美ほしいな」
何事もなかったかのように擦り寄る統久からは甘い香りが漂っている。
「仕事が終わったらな。こいつを仲間に渡さないと」
ぐるりと視線を向けると、囚人達を集めている男達を見つける。
制服は見慣れた第73部隊のものである。
「おい、エンデ。悪い、これがホシだ。こいつあげたのお前の手柄でいいから、本部に受け取りを掛け合ってくれ。報告は本部の総監にしてある」
「シェン、話がいきなりで全然見えねえけど。うわ、中隊長さん?うわあ、色っぽいなあ、なに、これ、フェロモンだろ、やべえな」
興味をもったのか、エンデはシェンの腕にしなだれかかっている統久を覗き込む。
「こいつはオレの報酬なの。あとで、女何人か紹介してやるからさ」
「マジで、女とかめちゃくちゃ希少じゃん。つか、こんなでっけえホシとか、マジで困るからね。お前につけちゃうぜ」
エンデはウォンバットの顔を確認してから、それを肩に担いで後ろ手に手を振る。

「なあ、ご主人様。俺は外でもいいんだけど、我慢したくないな」
ついついと腕を引いて甘える様子は普段の彼なら絶対にしないので、うっかりそこで襲ってしまいたくなるが、シェンは無言で腕を掴むと、遠野から借りた最新鋭の戦闘機に統久を押しこみ、コクピットに乗り込んだ。


「なあ、もう我慢できない」
後ろで唇を尖らせて文句を言っている統久に、鼻栓を装着しながらシェンはため息をつく。
これが普通のオメガの反応なのだろう。
まあ、傍若無人な性格はいじられていないのが厄介と言えば厄介だが。
戦闘機を駆りながら、比較的栄えていそうな惑星を探す。
「俺、ここでしてもいいぞ」
「いいから黙ってくれ。ちゃんと探すから」
思わずイラついて声を荒らげると、統久は黙り込んで深々と息を吐き出す。
「…………懐かしいと、思ったから。初めて会うご主人様なのに、すげえ懐かしいって思って、だから、早く抱き合って確かめたくて」
「……初めてじゃない」
着陸許可を得ると着陸体制に切り替えてから、ちょっと冷たかったかなと気になって、シェンは後ろの席を振り返る。
「辛いか?でも……発情期じゃないんだろ」
「違うと思うよ。毎日同じだから。体が熱くて、いつもたまらない。俺はそういう生き物なんだってウォンが言ってた」
ギュッと拳を握り締めている姿は、何故か庇護欲をそそる。形の良い眉と口元、少しあがった目元は切れ長で鋭いが綺麗だ。
「抑えることはできないのか」
それが普通なら、いつも彼は平然とした顔で抑えていたのだろうか。
「わかん、ない。抑制剤は効かないってウォンが言っていたから、無理なんだと思う」
火照った身体をだるそうに撫でて、身体を起こすと視線を返す。
「……でも、なんとなく止められそうな気もするんだよね、やり方わからないけど」
「そうか」
「あ、着陸完了したよ。早く、早く」
せがむように腕を回して、コックピットが開くやいなや外に飛び出す統久に、シェンは戸惑いながらついていく。
つか、あれだけフェロモン垂れ流しはヤバいだろ。
シェンは落ち着かせるように腰を抱いて、港の一番近くのホテルに予約を入れる。

これが、彼の素なのだろう。
多分このままの方が彼にとっては、幸せなのかもしれない。
元に戻さない方が、いい、かもしれない。
ふと、よぎる感情にシェンは首を横に振った。

オレが決めることじゃない、な。
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