竜攘虎搏 Side Tiger

怜悧(サトシ)

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さすがに何日も風呂にも入ってないままはヤバイよなと思い、早速シャワーを借りた。
身体の汚れを落としながら、暖かい湯を浴びる。
この一週間ろくに身体をリラックスなんてできなかった。
思えば腹もかなりすいている。
万事休すかと思っていたのに、思いもよらない幸せが舞い込んできて、神様ってやつはオレを平常心のままさせてはくれないのだなと、いつも思う。
タオルで身体を拭き、多分ハセガワのものらしい部屋着を借りて着替える。
浴室から出ると、士龍がテーブルの前に座って待っていた。
テーブルの上には、料理を用意したのか皿が綺麗に並んでいた。
つか、足怪我してんのにわざわざ作ったのか。
「サッパリしたぜ、士龍は風呂に入らないで大丈夫?」
「傷にしみそうなんだよな………。でも汗かいたしキモチ悪いなあ。たけお……あとでタオルで拭いてくれる?」
「ああ、ちゃんと綺麗にしてやるよ」
すぐに答えると、骨には異常ないみたいだけどと笑いながら、脚を指差す。
銃で撃たれるってだけで、そんなに悠長にしてはられないと思うのだが、この男に関してはそれでも余裕な表情なのだ。
オレが席に座ると、安心したような表情を浮かべていただきますと手を合わせて箸をもって皿から口に運ぶ。
これは、あれだな。一度好きになると食べる姿さえ可愛らしく感じるもなんだな。
用意されたのは回鍋肉と卵スープで、どこかの中華店で食べるよりうまい。
士龍の料理は、手が込んでいて、いつもどこかのレストランなどで出されるような料理だ。
空腹にしみわたって、本当に幸せなキモチで満たされる。
「ホントに、たけおはうまそうな顔するよな、たまんない」
嬉しそうに言われると、そっちのがたまらない。
母親が父親と暮らし始めて、オレは反抗しておふくろの実家に行ったが、じいさんしかいなかった。
じいさんは料理がうまくなかったし、作ってもらっても味はやっと食えるような代物だった。まあ、それでも作ってくれるだけありがたいと思って食ってはいた。
一人暮らしを始めてからは、レストランやコンビニの飯ですませていた。
父親に電話で士龍との交際は好きにしろと言われた。
大体、お互いを紹介させなかったのは、父親の責任だしな。
まあ、もし紹介するなどと言われても、多分会いたくないと断っただろう。
オレは、本妻の息子だったという会ったこともない兄を、それなりに恨んでいたのだから。
だけど、本妻の息子でも扱いはオレよりひどいもんだったんだろうな。
じゃなければ、生かされているだけで感謝なんて言葉は言わない。
「なあ、たけお。メシ食ったら、セックスしよう」
士龍は回鍋肉をつまみながら、ジョギングしようくらいのノリで提案してくる。
オレは思わず食ってた飯を吹き出しそうになるのを堪えて喉で飲み込んだ。
これは、士龍のおねだりなのだろうか。いや、本当に直球のおねだりなのだろう。
欲情してるように僅かに揺らめく緑色の目が、ひどく色っぽく見える。
「そうだな、日高に渡された玩具を使うか?」
 部屋を出る前にお気に入りだよと、玩具が入った箱を手渡された。
 あんな王子様のような綺麗な顔でそんなことを言われて、非常に引いた。
「それもいいけどさ、……俺は、いま、すっごくオマエのちんこが早くほしい」
あっさりと殺し文句を言うと、オレの顔を誘うような眼差しで見返してくる。
士龍をまたこの手で抱ける時がくるなんて、思わなかった。
こんなに早く、また手に入れられるなんて思いもしなかった。
嬉しさにすぐに頷き返して、回鍋肉を飯と一緒に口に運んだ。
オレ自身、彼をこころから欲しがっていた。
 ヤクザになんて捕まって殺されそうになったが、おかげで士龍が戻ってきた。
多分あのままやっぱり別れられないと告げたとしても、士龍には受け入れられなかったとは思っている。
災い転じて福となすとはこのことなのだろう。
食べ終わって洗い物を片付け終えると、座っている士龍の腕を掴んだ。
「肩貸すから、寝室にいこうか。身体も綺麗に拭いてやるから」
拭いた後で、また汚すけど。
片手に日高が貸してくれた箱と濡れタオルを持って、脚を引きずる士龍の腰を支える。
士龍の下半身を見ると、既に勃起していて期待しているのか目元が熱をもっている。
少しだけ呼吸もあがってきているようだ。
身体も気持ちも素直で、本当に可愛い。
「歩きにくいくらい勃起してんの?」
耳元で囁くと、チラとオレの顔を見返してこくりと頷いて大きな体を軽く丸める。
「オマエがほしいんだって…………さっきも言ったよ」
恥ずかしそうに低く呟かれた言葉に、むらっと激情を煽られる。
「聞いてたけどね。オレと別れて平気だったの?」
「平気じゃねえけどさ……。平気にならなきゃって、思ってた」
あっさり振ったように見えたが、あれはきっと演技だ。
色々な感情を打ち消して、器用にすべてを演技した。
オレは今聞いている士龍の素直な言葉に、たまらないくらい下半身に熱がどくどく溜まるほど煽られている。

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