2 / 77
2
しおりを挟む
「派閥、抜けたい……って?」
幹部の先輩に一緒に抜ける元宮たちを誘って、入っている派閥からの決別をしにいくと、途端にざわりと色めきたつ。
高校に入学してから去年一年間、世話にはなっていた先輩たちだ。こんなことはやはり言いにくくはある。
合併を繰り返して大きくなったオレ等の済む市には、六つの公立高校がある。
偏差値が一番高く優秀なやつらが集う第一高校、真面目な奴等ばかりの南高校、進学高の北高校、就職組が殆どの中央高校、ヤンキーばかりの西高校、ヤンキーしかいない東高校といった具合だ。
その中でも西と中央と東が三つ巴で縄張り争いをしている。
オレが通っているのは、底辺のラインの東高校である。
学校内でも派閥があり、常に校内抗争が勃発している。
今の状況では、オレがこれから辞めようとしている眞壁派と、敵対している小倉派の二分されている。
今年は、眞壁派のアタマである眞壁士龍がテッペンとして学内を牛耳ると思っていたのだが、この間の外部チームとの抗争で補導されて停学になったらしく、出席足らずで留年が決まったらしい。
「ココにいても、眞壁さん、テッペンとれねえじゃないですか。あの人はそんなもんかまわねぇっていうし、オレはそんな人の下につきたくねえです」
恩とか情とかじゃなく強い奴の下にいたいと告げると、幹部の村澤さんは拳を握りしめた。
この人は激情型の武闘派なので、敵に回すと厄介である。
「抜けてどうすんだ。小倉ンとこにでも行くのか」
「行きませんよ。小倉さん、眞壁さんより弱いじゃねえですか。オレは自分の派閥を作ります」
「いま、シローは入院中だし、戻るまで待てねえのか?」
隣でボールを天井に投げて遊んでいたもうひとりの幹部の栗原さんが、ボールをキャッチしながらオレに向き直ると、飛びかかりそうな村澤さんを腕で制する。
「待って、どうするんすか?」
「そりゃあ、士龍とタイマン勝負だろ。派閥作るとか息巻いてるやつにお仕置きしてもらわねえとな」
村澤さんは、どうせオマエじゃ勝てないとばかりに挑発するようにオレを見返した。
「ショーへー、黙って。待ったところで、アイツは富田とタイマンはやらねえよ。自分より弱い奴に手は出さない奴だ。士龍は寂しがるけどね、アイツがいたって止めないだろうし」
「栗原さん。オレが弱いとか、馬鹿にすんな」
静かに正論を告げる栗原さんの言葉に腹が立って噛みついた。
「自分より強いヤツとしか、シローはやり合わない。そんなの、もう分かってるだろ?」
そうだ。だから、敵である小倉さんにも手は出さない。
テッペン争いをすればどちらが上になるかは、火を見るよりも明かで、それを分かっている小倉さんが保身で手を出さないのも、校内の奴らはみんな知っている。
「……オレとツレの元宮と三門、藤江は今日限り派閥抜けさせてもらうんで」
「一人で出てくこともできねえなんて、とんだ甘ちゃんだなッ」
オレを煽るような挑発の言葉を投げる村澤さんを、栗原さんは押さえつけると、面倒は困るとばかりにさっさと出てけという視線をオレに向けた。
これ以上の長居は禁物だなと、オレはたまり場だった空き教室を後にした。
教室へ戻ろうとすると、扉の前に同学年の木崎が仁王立ちで立ち塞がっていた。ヤツは盲目的に眞壁を崇拝している。
最初は気が合ったが、オレが不満を唱え始めた最近では反目しあっている。
「栗原さんから、オマエらが抜けたって聞いた」
つかつかとオレに近寄り、グイッ胸ぐらを掴みあげてきた。
「ああ、そうだ。何か?」
「オマエら、うちと敵対するつもりか?」
冷静な口調をこころがけているつもりだろうが、声の端々には苛立ちと怒りに満ち溢れている。ギリギリと睨みつけてくる視線の強さに、オレは息を吐きだした。離反イコール敵対だとは、頭の構造が単純すぎる。
「ココにいても、テッペンとれねえなら自分でとるっきゃないだろ。出てくのはそれだけの理由だ。眞壁さんが今更テッペン争いに出てくるとも思えねえけど」
争いに出ることすらしないなら敵でもないし、味方でもない。
「士龍さんが居ない時にワザワザ出てくのは、喧嘩売ってるってことだろ。出てくッていうなら俺が相手になる」
「木崎、やめとけよ。オマエじゃオレに勝てないし、オマエを潰したら、それこそ眞壁さんにケンカを売ることになる」
わざわざ眠っている龍を起こすような真似はしない。
オレが知ってる眞壁士龍という男は、仲間を大事にしてはいるが、それを頼りにはしていない。だから人数が増えようと減ろうとまったく気にはしない。すべてを己のチカラだけで全て解決しようとする、ワンマンな男である。
「ハッ、やっぱり士龍さんには勝てねえからって、いねえときに出て行って他でオマエがお山の大将したいだけの話だろ。とんだ猿野郎だな」
「そう思われても仕方がねーけど。仮に眞壁さんが居たとしても、オレは眞壁さんが引き止める人だとは思えないけどな」
オレたち派閥の奴らは、彼にとっては庇護すべきだけの取り巻きで、あてになんか絶対にしていない。
派閥の人数なんて、彼にとっては守るだけの重荷でしかないように思っていた。
オレはいつもその背中を見てるだけで、守られるだけで何もできなかった。
彼の横に立って一緒に戦える時がくると思ってたからこそ、この派閥に入ったのだ。
「木崎、オマエもわかるだろ?」
正直、この高校では眞壁士龍という男が一番強く、そして仲間から慕われている男だということは周知の事実である。
何時も余裕そうにかまえていて、何一つ大変な顔すらせずに片付ける。恩着せがましくもなく、野心も全くない。
男として憧れはする。
圧倒的な強さの下にいることは安心感はあるが、そんな安心が欲しくて派閥に入っていたわけではない。
オレの中にある、ふつふつと煮えたぎる感情は、それだけじゃ足りないとばかりいっている。
それを掴み取るためにも、オレは眞壁さんの庇護下にいることをよしとはできなかった。
木崎はオレの言葉に反論を返そうと口を開きかけたが、思いつかなかったのか、上着から手を外した。
「……勝手にしろっ」
木崎はそう捨てゼリフを吐いて、別の教室へと向かって歩いていった。
幹部の先輩に一緒に抜ける元宮たちを誘って、入っている派閥からの決別をしにいくと、途端にざわりと色めきたつ。
高校に入学してから去年一年間、世話にはなっていた先輩たちだ。こんなことはやはり言いにくくはある。
合併を繰り返して大きくなったオレ等の済む市には、六つの公立高校がある。
偏差値が一番高く優秀なやつらが集う第一高校、真面目な奴等ばかりの南高校、進学高の北高校、就職組が殆どの中央高校、ヤンキーばかりの西高校、ヤンキーしかいない東高校といった具合だ。
その中でも西と中央と東が三つ巴で縄張り争いをしている。
オレが通っているのは、底辺のラインの東高校である。
学校内でも派閥があり、常に校内抗争が勃発している。
今の状況では、オレがこれから辞めようとしている眞壁派と、敵対している小倉派の二分されている。
今年は、眞壁派のアタマである眞壁士龍がテッペンとして学内を牛耳ると思っていたのだが、この間の外部チームとの抗争で補導されて停学になったらしく、出席足らずで留年が決まったらしい。
「ココにいても、眞壁さん、テッペンとれねえじゃないですか。あの人はそんなもんかまわねぇっていうし、オレはそんな人の下につきたくねえです」
恩とか情とかじゃなく強い奴の下にいたいと告げると、幹部の村澤さんは拳を握りしめた。
この人は激情型の武闘派なので、敵に回すと厄介である。
「抜けてどうすんだ。小倉ンとこにでも行くのか」
「行きませんよ。小倉さん、眞壁さんより弱いじゃねえですか。オレは自分の派閥を作ります」
「いま、シローは入院中だし、戻るまで待てねえのか?」
隣でボールを天井に投げて遊んでいたもうひとりの幹部の栗原さんが、ボールをキャッチしながらオレに向き直ると、飛びかかりそうな村澤さんを腕で制する。
「待って、どうするんすか?」
「そりゃあ、士龍とタイマン勝負だろ。派閥作るとか息巻いてるやつにお仕置きしてもらわねえとな」
村澤さんは、どうせオマエじゃ勝てないとばかりに挑発するようにオレを見返した。
「ショーへー、黙って。待ったところで、アイツは富田とタイマンはやらねえよ。自分より弱い奴に手は出さない奴だ。士龍は寂しがるけどね、アイツがいたって止めないだろうし」
「栗原さん。オレが弱いとか、馬鹿にすんな」
静かに正論を告げる栗原さんの言葉に腹が立って噛みついた。
「自分より強いヤツとしか、シローはやり合わない。そんなの、もう分かってるだろ?」
そうだ。だから、敵である小倉さんにも手は出さない。
テッペン争いをすればどちらが上になるかは、火を見るよりも明かで、それを分かっている小倉さんが保身で手を出さないのも、校内の奴らはみんな知っている。
「……オレとツレの元宮と三門、藤江は今日限り派閥抜けさせてもらうんで」
「一人で出てくこともできねえなんて、とんだ甘ちゃんだなッ」
オレを煽るような挑発の言葉を投げる村澤さんを、栗原さんは押さえつけると、面倒は困るとばかりにさっさと出てけという視線をオレに向けた。
これ以上の長居は禁物だなと、オレはたまり場だった空き教室を後にした。
教室へ戻ろうとすると、扉の前に同学年の木崎が仁王立ちで立ち塞がっていた。ヤツは盲目的に眞壁を崇拝している。
最初は気が合ったが、オレが不満を唱え始めた最近では反目しあっている。
「栗原さんから、オマエらが抜けたって聞いた」
つかつかとオレに近寄り、グイッ胸ぐらを掴みあげてきた。
「ああ、そうだ。何か?」
「オマエら、うちと敵対するつもりか?」
冷静な口調をこころがけているつもりだろうが、声の端々には苛立ちと怒りに満ち溢れている。ギリギリと睨みつけてくる視線の強さに、オレは息を吐きだした。離反イコール敵対だとは、頭の構造が単純すぎる。
「ココにいても、テッペンとれねえなら自分でとるっきゃないだろ。出てくのはそれだけの理由だ。眞壁さんが今更テッペン争いに出てくるとも思えねえけど」
争いに出ることすらしないなら敵でもないし、味方でもない。
「士龍さんが居ない時にワザワザ出てくのは、喧嘩売ってるってことだろ。出てくッていうなら俺が相手になる」
「木崎、やめとけよ。オマエじゃオレに勝てないし、オマエを潰したら、それこそ眞壁さんにケンカを売ることになる」
わざわざ眠っている龍を起こすような真似はしない。
オレが知ってる眞壁士龍という男は、仲間を大事にしてはいるが、それを頼りにはしていない。だから人数が増えようと減ろうとまったく気にはしない。すべてを己のチカラだけで全て解決しようとする、ワンマンな男である。
「ハッ、やっぱり士龍さんには勝てねえからって、いねえときに出て行って他でオマエがお山の大将したいだけの話だろ。とんだ猿野郎だな」
「そう思われても仕方がねーけど。仮に眞壁さんが居たとしても、オレは眞壁さんが引き止める人だとは思えないけどな」
オレたち派閥の奴らは、彼にとっては庇護すべきだけの取り巻きで、あてになんか絶対にしていない。
派閥の人数なんて、彼にとっては守るだけの重荷でしかないように思っていた。
オレはいつもその背中を見てるだけで、守られるだけで何もできなかった。
彼の横に立って一緒に戦える時がくると思ってたからこそ、この派閥に入ったのだ。
「木崎、オマエもわかるだろ?」
正直、この高校では眞壁士龍という男が一番強く、そして仲間から慕われている男だということは周知の事実である。
何時も余裕そうにかまえていて、何一つ大変な顔すらせずに片付ける。恩着せがましくもなく、野心も全くない。
男として憧れはする。
圧倒的な強さの下にいることは安心感はあるが、そんな安心が欲しくて派閥に入っていたわけではない。
オレの中にある、ふつふつと煮えたぎる感情は、それだけじゃ足りないとばかりいっている。
それを掴み取るためにも、オレは眞壁さんの庇護下にいることをよしとはできなかった。
木崎はオレの言葉に反論を返そうと口を開きかけたが、思いつかなかったのか、上着から手を外した。
「……勝手にしろっ」
木崎はそう捨てゼリフを吐いて、別の教室へと向かって歩いていった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
昭和から平成の性的イジメ
ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。
内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。
実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。
全2話
チーマーとは
茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
禁断の寮生活〜真面目な大学生×体育会系大学生の秘密〜
藤咲レン
BL
■あらすじ
異性はもちろん同性との経験も無いユウスケは、寮の隣部屋に入居した年下サッカー部のシュンに一目惚れ。それ以降、自分の欲求が抑えきれずに、やってはイケナイコトを何度も重ねてしまう。しかし、ある時、それがシュンにバレてしまい、真面目一筋のユウスケの生活は一変する・・・。
■登場人物
大城戸ユウスケ:20歳。日本でも学力が上位の大学の法学部に通う。2回生。ゲイで童貞。高校の頃にノンケのことを好きになり、それ以降は恋をしないように決めている。自身はスポーツが苦手、けどサカユニフェチ。奥手。
藤ヶ谷シュン:18歳。体育会サッカー部に所属する。ユウスケとは同じ寮で隣の部屋。ノンケ。家の事情で大学の寮に入ることができず、寮費の安い自治体の寮で生活している。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる