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しおりを挟む二年にはオレの派閥以外に三つの派閥がある。
オレが四月までいた眞壁派、それと小倉派の下についていた金崎派、それと人数の少ない穏健派の内添派である。
二年だけではなく三年を従えている眞壁派には数では負けるが、外のチームをぶっ潰したり一年を積極的に入れたオレ達の派閥は、数でもナンバー二だと言われている。
学校が騒々しいなと思えば、この辺で一番の猛者と言われているハセガワに、金崎の一派がコテンパンに潰されたらしい。
金崎派の奴らで残った奴らと小倉派のメンツが、徒党を組んで報復だのなんだのと騒いでいるようだ。
…………報復ねえ。
この辺で一番最強といわれているのは、進学校の北高に通っているハセガワという男なのである。
何故、東高にこなかったのかは、市内の七不思議とさえ言われているくらいである。
まあ、北高にいけるくらいの知能があるならワザワザ東高を選ぶはずもないから、七不思議というのもおかしな話だ。
確かに、ハセガワは自分から暴れに来るタイプではなさそうだし、こっちから手ェださなきゃ全くの無害の男なのである。
ことの発端は、小倉さんがハセガワを倒したヤツをトップにすると触れまわったからだ。
トップをとれるという言葉には正直こころは動くが、小倉さんにさせてもらうというのが引っ掛かっている。
それに、オレは自分の力量くらいは分かっている。
小倉さんすら一度も勝ったことがない相手を倒せるなどとかは考えていない。
流石の金崎も正攻法じゃ無理だとふんだのか、相棒を捕まえて脅迫しようとしたらしいが、逆に脅迫のいとまもなく奪還されて、全員病院送りにされたらしい。
ハセガワの相棒に手を出したら十倍返しにあうとは聞いていたが、噂は本当だったようだ。
とりあえず、この後をどうするかだ。
このまま、うちの高校が尻尾巻いて引き下がっているってのも気に食わない。
「なあ、内添。金崎ンとこの報復、どうすんだ?」
オレは比較的、自分と相性の良い内添のところに、鉄パイプ片手に乗り込んだ。穏健派だしこいつもテッペンには興味なさそうだが、うちの高校の沽券にかかわる問題だ。
内添は、眼鏡の奥の細い目でオレを見返して明らかに面倒くさそうな表情を浮かべてしぶしぶ見上げてくる。
「そもそも金崎が卑怯な真似しただけだ。報復するって言っても勝機はないし、ケガするだけだろ?眞壁さんは何て言っているんだ」
「まだ、聞いてねえよ」
眞壁の派閥にいた頃には、ハセガワには手を出すなと煩いほど言われていた。眞壁でさえそれくらい恐れている人物である。
一人で手を出したとしてどうにかなるとは思えない。
それよりも、内添が眞壁の意向を気にすることに腹が立ってしかたがなかった。
眞壁自身がそうは考えていなくても、周囲には事実上のテッペンは彼だと認識されているのである。
「眞壁さんはハセガワには手を出さないから今回もそうだろ。富田のとこが武闘派だって言っても、敵わないだろうし。まあ、眞壁さんがヤるってなら、手を貸してもいい」
内添は、勝てない喧嘩には手を貸す気はないようだ。
オレが派閥を出てから、そういう周囲の様子で眞壁が実質頂点ではある現状をひしひしと思い知らされた。
眞壁とは敵対する気はなかったが、彼に勝たないことには周囲に認めては貰えない。
何度もタイマンをかけあったが、いつも話を逸らされてあしらわれるだけで受けてはくれなかった。
「分かった。眞壁に話をしてくる」
内添の教室を出ると、授業が始まっているのか廊下にいる生徒の人数が疎らになっている。それでも数人が廊下をうろついているので、やはりうちの学校は普通ではない。
眞壁とオレのクラスは一緒なのだが、オレが教室に寄り付かないせいか、扉を開くとクラスメイトが物珍しそうにこちらを見てくる。
鉄パイプ片手に眞壁の座る席に近づくと、眞壁の派閥の木崎たちが警戒してガッと立ち上がるのが横目に見えた。
身長が高いからか、眞壁の席は真ん中の一番後ろの席である。
眞壁は無造作にワックスで立てた脱色剤で傷んだ金髪と、非常に整った彫りの深い垂れ目の甘いマスクのイケメンである。
目立つ容姿でオンナ受けも良さそうだが、東高の制服を着ていることで敬遠されるだろうから、そこまで騒がれることはなさそうだ。
「眞壁ェ、オイ、オマエいかねえのか、報復」
オレの顔を見た途端に面倒臭そうな表情になったのにカチンときて、眞壁の机に腰を下ろし、視界に入るようにぐいと顔を近づけた。
間近で見ても綺麗な顔をしているが、ヤンキーらしく左の鼻に小さいピアスがついている。アップに耐えられる顔っていうのはこういうのを言うんだなとか思いながらも、グッとメンチを切る。
「報復?行くつもりないよ。金崎のとこ何人やられたの」
無視されるかと思いきや、話は聞いてくれるようで問い返された。
眞壁が他の奴らと違うのは、話し方だ。オレらのように粗雑ではなく独特なイントネーションで丁寧に話をする。
「三十人だ……。バイクで轢きやがった」
自分のところの奴でもないので、正直悔しいとかいう気持ちはなかったが、このまま野放しにはできない。
「死人は出てないよね。バイクって……」
「さすがにそこまでしたら、ハセガワも捕まるだろ」
眞壁はオレの圧にもまったく気にした様子もなく、表情を変えずに目を伏せて首を横に振った。
「俺は、格好悪い報復はゴメンだよ」
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