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しおりを挟む誕生日がクリスマスイブなんて、人生を半分損しているなあと、ずっと感じていた。
ケーキでもプレゼントでも、誕生日はクリスマスと一緒になってしまう。友達はみんな年に二度も楽しみがあるのに、自分だけ一度しかないんだと気がついたのはいつだったのか。
「虎王(たけお)、今日はお父さんが帰ってくるのよ。また、通知表なくしたとか言っても通らないから、ちゃんと出しておきなさい」
母は小言をいうが、ちゃんと出したところで通知表の成績は変わらないし、父に残念そうな顔をされるだけだ。
「わかってるよ。誕生日くらい、好きにしてもいいだろ」
父さんは毎日は家にはこない。海外で仕事をしているっていうこともあるけど、母さんは、愛人でオレはその子供だ。
だから、週末とクリスマスにしか父には会うことがない。
クリスマスにはいつも誕生日を兼ねたプレゼントをもってくる。
もし、オレの誕生日が他の日だったら、父に会う機会ももう一回増えたのかと思うととても悔しい気分だ。
父はハーフだと言っていたが、まるで外人のようでオレには似ていない。オレは母に似たのだろう、他のヤツより少し茶色い髪をしているくらいで、金髪の外国モデルのような男が自分の父親だという実感がなかった。
窓の外を見ると綺麗な雪がパラパラと降ってきている。
「雪、降ってきたみたい。ちょっと、外を見てきていい?」
キッチンの母に声をかけると、クリスマスのごちそうを作るのに必死なのか聞こえてないようだ。
母は、父のことがよっぽど好きなのだろう。
どんなに好きでも、愛人なんて立場は裏切りでしかないのに。
部屋の窓を開けて、土に舞い落ちては地面で溶けて消える雪に魅せられたオレは、庭に出ると空を見上げた。
見渡す限り続くのは重そうな灰色の雲だ。すっかり日も暮れた中で漂う暗い色が不安を誘った。
先週母と一緒に飾ったクリスマスツリーが、庭でライトニングされていて、薄暗くなったあたりを照らしている。飾りの一つが外れたのか、一つ落ちてしまっているのに気が付いて駆け寄ってキラキラ光るボールを拾い上げた。
バサッ……
布を擦ったような音が響いて、ボールを握ったままオレは体を起こして視線をあげた。
塀の上には綺麗な金髪を纏わせた天使が座っていて、こちらを眺めていた。思わずそちらに駆け寄ろうとすると、少しおびえた表情を浮かべて逃げようとしたのか塀の上に立ち、そのままダイビングをするかのように、服をひらつかせながら庭へと堕ちた。
あ…………。
落ちた少女を心配するより先に、オレはあまりに可憐な姿に唖然としてただただ目を見開いて立ち尽くしていた。
彼女はどこかを打ったのか、体の痛みに呻きながら起き上がろうと緩慢な動作を繰り返していた。
「あ、あの……だいじょうぶ?」
漸く我に返って少女へと駆け寄ると、彼女の白くて細い腕を掴んで引き上げた。
重みも実感もあった。これは夢ではないのだと思うと、天使は顔をあげてオレを見返した。
金色の長い睫毛を瞬かせて、綺麗なガラス玉のような緑の目を向けて微笑みかける。
オレはとろけそうな笑みを湛えた綺麗な顔に、思わず息をのみこんだ。
「Danke(ありがとう)」
天使は可愛らしい唇を開いて聞いたことのない言葉でオレに話しかけた。大きな緑の目で周りをくるくると見まわして、オレの手をぎゅっと握った。
「Wissen Sie, mein Vater(わたしの父さんをしりませんか)」
彼女の話す言葉はまるで分からず、オレは首を何度も横に振ると、酷く落ち込んだ表情を浮かべた。
びっくりしたのと、あまりの綺麗な彼女に鼓動がおさまらず、がくがくと体が震えてしまっていたが、何だか悪いような気がして、強くその掌を握り返した。
綺麗な人形のような彼女は困ったように笑うと、少し汚れた自分の顔をコートで拭ってオレを見返した。
「Um in Erstaunen versetzen, tut mir leid(驚かせてごめんね)」
天使は、天使語でオレの目を見返して言うと、ゆっくりとその手を離した。
手を離したらそのまま消えてしまいそうで、思わず腕を伸ばすと彼女は首を軽く振って、手を横に軽く振った。
「Geh nach Hause, weil Mama wütend wird(ママに怒られるから帰るね)」
彼女は軽やかに跳躍して、塀の上に登ってオレを振り返り手を振ると、そのまま外へ飛翔したのかふわりと消えてしまった。
オレはそれ以上追うこともできずに、父が来たと母に呼ばれるまでその場に立ち尽くしていた。
あれは夢だったのかと何度もそう思ったが、あの時に彼女に触れたあの感触と手の暖かさは間違いなく本物だったのだ。
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