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二章
140.リヴェラーニ
しおりを挟むフェリーチェ様は本当に旦那様を置いて一人で帰ってしまった。一人門のところに取り残された旦那様の後ろ姿がとても悲しそう。
しかしうちの門を壊したんだから当然だ。
「ラルフ様、門の修理が終わるまでどうしますか?」
「リヴェラーニが交代で部下でも寄越すだろう。あいつのせいだしな」
そうか。交代で門番をしてくれるなら、心配ないかな。
部下ということは、あの人は部下がいる立場の人なのか。強そうではあるけど、上に立つ人の行動とは思えない。
ラルフ様も王族に剣を向けたりしていたから、人のことは言えないけど。
それにしてもリヴェラーニって名前が気になる、いつ聞いたんだっけ?
「ラルフ様、門のところの人はもしかして偉い人だったり?」
「副団長だ」
「ええーー?? あの副団長? ラルフ様が結婚パーティーの招待を断った?」
「そうだ」
ってことはフェリーチェ様は副団長の旦那さんだったの?
色々と驚きだ。
「リーブ、門のところにいるの副団長らしいから、可哀想だし何か温かいものでも差し入れてあげて」
自業自得ではある。しかしまだ雪解け間近の夜は寒い。寒空の下にずっといるのは可哀想だ。
翌日になると、僕はバルドと共に木材で鉄の門が出来上がるまでの間の代わりとなる門を作った。
「リヴェラーニ副団長、少しは休んでください。今、代わりの門を作っていますから」
「いや、大丈夫だ。これくらいどうということはない」
交代の部下らしき人は来なけど、仕事には行かなくていいんだろうか?
「フェリーチェ様には僕のことは聞いていますか? クロッシー隊長の奥様が開いたお茶会でお話しして、仕事を辞めて暇だと聞いたのでお誘いしました。
ちなみに僕はラルフ様一筋ですし、ラルフ様も僕を独り占めしてるので、副団長が心配するようなことはありません」
きっとそれが心配だったんだろう。誤解は困る。僕はフェリーチェ様と友人でいたいし、そのせいで毎回門を壊されたらたまったものじゃない。
「そうか」
「昨日、フェリーチェ様から馴れ初めを聞きました。一目惚れしてしつこく付き纏ったとか」
「そうだな。俺がしつこいから仕方なく付き合って、仕方なく結婚してくれた。だから誰かに取られるのではないかと……」
え? 仕方なく? フェリーチェ様の話と違う。フェリーチェ様、旦那様に好きだって言ってないの?
「政略結婚でないなら、仕方なく結婚なんてしませんよ。好きでもない人と理由なく結婚なんてできません」
「フェリーチェは俺のこと、少しは好きなんだろうか?」
「そうだと思いますよ」
「そうか。それならいいんだ」
これで僕はフェリーチェ様を狙う対象から外れただろうか?
ラルフ様が来るだろうと言っていた交代の部下の人は来ない。副団長はずっと門のところで立ちっぱなしだ。
「ラルフ様、副団長はずっとあのままでいいんですか? 代わりの人が来ないと寝ることもできません」
「フェリーチェに言っておく。どうせあいつが何かしてるんだろう」
そうなの? 少し前まで騎士団で上の方にいた人なんだから、辞めたといってもまだ権力はあるんだろう。
三日後、眠ることもできず立ちっぱなしでげっそりした副団長は、代わりの人を連れてきたフェリーチェ様に引き取られて帰っていった。
お仕置きだとしても、厳しすぎる気がする。
その後数日もすると、うちの門は新しいものに変わった。今度は副団長が剣で攻撃しても壊れない強度にしたと聞いている。
また襲撃されることを想定をしてる?
もうそろそろルーベン、グラート、ハリオが戻ってくる時期だろうか?
「マティアスさん、聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
話しかけてきたのはルカくんだった。
「マティアスさんはどういうタイミングで旦那さんに好きって言うんですか?」
お? とうとうハリオに想いを伝えることにしたの?
「タイミングか……言おうと構えて好きだと言ったことはないかも。言いたくなったら言うって感じ。
好きだなって思ったら言う。あ、でも二人きりの時かな。人前では言わない」
「なるほど。勢いも大事ってことですね」
「そうだね。一度言ってしまえば言えるようになるかもね」
ルカくんは参考になったと言って、部屋に戻っていった。二人が恋人になる日は近いのかもしれない。
あのすれ違いの会話も面白かったけど、みんなが幸せなのが一番いい。
先に帰ってきたのはグラートとルーベンだった。ハリオが帰ってくるのは来週なのだとか。
ルーベンは帰ってきたと挨拶だけすると、タルクのところに行ってしまった。鍛錬をしっかり続けていたか確認しなければならないのだとか。
たまにタルクはうちに来て塀を登る練習をしていたと伝えると、嬉しそうにしていた。弟子の成長が嬉しいようだ。
グラートはまたリーブにくっついている。もしかしてこっちも弟子入りしたんだろうか?
まさかね。
「マティアスさん、ハリオは帰ってきますよね? 帰ってこないってことないですよね?」
「大丈夫だと思うよ。この前、来週戻るって言ってたから、あと数日くらいで戻ってくるんじゃない?」
ルカくんは不安そうな顔で、最近は落ち着きがない。緊張してるんだろうか?
「ただいま戻りました!」
ハリオの声が聞こえると、玄関に向かう僕をルカくんが追い抜いて凄い速さで走っていった。
「遅いよ」
「ごめんねルカくん。一人にしてごめん」
「うん」
「寂しかった? はは、そんなわけないか」
「寂しかった」
今日のルカくんは素直だ。
「冗談でもルカくんがそう言ってくれるのは嬉しいな」
ハリオは相変わらず鈍感だ。
僕は二人の再会を邪魔しないよう、玄関には向かわず部屋に引き返すことにした。
「ハリオ、好きになった。付き合う?」
とうとうルカくんが勇気を出した。僕は心の中で拍手を送った。これでとうとう……
「ルカくん、すごく嬉しいけど、そういうのは本当に好きになってからでお願いします」
ん? 雲行きが怪しくなってきた。気になった僕は部屋の前で足を止めた。
「好きになったって言ったじゃん!」
「誰かに何か言われたのか? そろそろ俺の気持ちに答えてやれとか? そんなの気にしなくていいんだ」
「そう……ハリオは、僕の気持ち考えたことあるの? もう、嫌いになりそうだ……」
廊下を走る音がする。たぶんルカくんだ。僕は部屋に入ることにした。
上手くいかないものだ。僕はため息をつきながら部屋の扉を閉めた。
ハリオ、それは酷いと思う。勇気を出して好きだと言ったのに信じてもらえないなんて……
これではルカくんが可哀想だ。
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