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二章
閑話・パンの一日(おまけ)
しおりを挟む11月11日、チンアナゴの日のおまけ☆
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あ、シルだ。
朝起きてボーッとしていると、シルがやってくる。隣の人間はシルより大きくて、僕より大きい馬の世話をする人だ。
大きい人間が僕に手綱をつけると、シルは僕の手綱を掴んで散歩に連れ出してくれる。
「パン、きょうはチンアナゴのひだって」
なんのことか分からないけど、シルは楽しそうにそう言って、青色の木の棒を取り出した。
シルがお気に入りだというその棒。僕にはその良さが分からないけど、シルにとっては大事なものだ。
ねぇねぇ、たまには僕に乗ってみる?
遠くに出かける時には乗るけど、シルはたまにしか僕に乗らない。
僕も人間の言葉が使えたらいいのに。
でも僕の思いが通じたのか、シルは鞍を出してきて、僕に乗せようとした。でもシルは他の人間より小さくて僕に乗せることができない。
すると大きい馬の世話をしていた人間が来て、シルを手伝った。やるじゃん人間。
そして鞍を取り付けると、シルを背に乗せてくれた。
楽しいね! 走ると風が気持ちいい。鬣がふわっと靡いて、少し冷たい風が心地いい。
シルを乗せて庭を駆け回っていると、シルがママと呼ぶ人間が来た。ママは小屋からいくつかの木片を抱えて家の中に帰っていった。
もしかして、またシルがお気に入りの木の棒を作るんだろうか? シルが色を塗ったと言っていた。今度は僕の絵を描いてくれるって。
大事にしてくれるかな? 僕の絵もいいけど、僕はいつもシルのそばにいたい。
「パン、まっててね」
シルが降りてしまうと背中が寂しい。シルが家に戻ってしまうのかと思ってたら、シルは僕の寝床を綺麗にしてくれた。
シルは小さいのに働き者だ。敷いていた草を変えて、綺麗なお水を用意してくれて、なぜか緑の木の棒を僕の寝床の柵に飾った。
僕にくれるのかな? 嬉しいけど、こんな木の棒より僕はシルがいい。
「パン、これはコケってなまえなの。おともだちだからね」
コケ? この緑の棒の名前はコケらしい。
お前は僕のライバルか? そう聞いてみたけど木の棒は何も答えなかった。
あ、黄色い花が咲いてる。
可愛いな。いい匂いがしそうだと思って匂いを嗅いでみたけど、そんなにいい匂いじゃなかった。草の匂いだ。
こっちはどうだろう? こっちは? 色々な花の匂いを嗅いでいると、シルが手綱を握って僕を庭の端に連れていった。
「パン、このしろいはな、いいにおいだよ」
僕はシルが勧めてくれた花の匂いを嗅いだ。甘くて爽やかな匂いがして、好きだと思った。
シルはなんで僕の好きな匂いが分かったんだろう? シルはすごい。
シルも一緒に匂いを嗅いで、「いいにおいいだね」って言ってくれた。やっぱり僕はシルが大好きだ。
太陽が真上を過ぎた頃、ママが来た。シルはこれからラルって呼ばれる人がいるところに見に行くと言っている。
「あれ? シルが起き忘れたのかな? こんなところに緑のチンアナゴ置きっ放し」
ママはシルが僕にくれたコケを勝手に持っていった。僕がシルにもらったのに。
ヒーン、ヒーン、ヒーン
僕は悲しくて鳴いた。せっかくシルがくれたのに。返してって言いたいのに、僕は人間の言葉が話せない。
シル、取られた。助けて。
僕がずっと泣いていたら、シルが走ってきた。
「パン、どうしたの?」
シル、コケが取られたんだ。僕は鼻先で指して訴えると、シルが気づいてくれた。
「コケがいない。パン、もしかしてたべちゃった?」
僕じゃないよ。僕は木なんて食べたりしない。ママが取ったんだ。
あ、蝶々だ。蝶々を目で追っていると、遠くからママが歩いてきた。
「シル、騎士団の見学は行かないの?」
「コケがいなくなった。パンがたべたのかも」
「コケ?」
「ポポのかぞくのみどりの」
「あ、それならさっきパンの小屋で拾ったよ」
シルはママからコケを受け取ると、また僕の寝床の柵に飾ってくれた。
「これパンにあげたのか。パンごめんね。せっかくシルにもらったものを僕が持っていったから鳴いてたんだね」
この人間、分かってくれた。
シルの大切な人は悪い人間じゃない。
この家には壁を登ったり、木に登ったり、木の棒を振り回す変な人間がいっぱい生息しているけど、たぶんみんな悪い人間じゃない。
「パン、いってくるね」
ヒィーン! 行ってらっしゃいシル。
数日後、僕の寝床の柵には追加で三つ、色がついた木の棒が並べられた。どこまで増えるんだろう?
シルがくれたものだから大切にするけど、君たちはなんなんだ?
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