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二章
127.意外な活躍
しおりを挟む「やあマティ」
「今日はお仕事ですか? それとも買い物ですか?」
僕に何の用なのか、またエドワード王子が約束もなく花屋を訪ねてきた。職場に訪ねてこないでほしい。休みの日に家に来る方がまだいい。
「マティは相変わらず釣れないね。今日は陛下からのちょっとしてた質問。呼び出すほどじゃないけど気になるから聞いてこいって言われてさ~」
「分かりました。僕に答えられることなら答えます」
「さすがマティだね。で、これなんだけど何か知ってる? ラルフはさ、武器ではない武器って言ってるんだけど」
エドワード王子が手にしているのはポポ軍団のうちの一つだった。
「それは木彫りの魚です」
「マティ、やだなあ、そんな冗談よくないよ」
「チンアナゴという海にいる魚です。セルヴァ伯爵の領地の海の近くでも売っていますよ。もっとカラフルなものが」
「え? 本当のこと?」
「ええ」
こんなところで僕が冗談を言ってエドワード王子を笑わそうなんて思うはずがない。
「これ意外といいんだよね。先がちょっと曲がってるからそこに錘を引っ掛けて剣の素振りの練習に使える。場所取らないから部屋でも振り回せるしさ、冬にはいいよね。
握りやすいからすっぽ抜けることもないし、順手から逆手に持ち替える時の練習にも使える。なんかみんな気に入ってるんだよね。でも形がちょっとアレじゃない?」
まさかのちょっと役に立ってるとか意外すぎる。てっきり使えないってことになって薪として燃やされて今ごろ灰になってるのかと思ってた。形がアレという部分には触れないでおこう。
「そうですか。それで木彫りの魚ということが分かったのですから、もう用事は終わりましたね。ご苦労様でした」
「え~、マティ冷たいな~、また追加で必要になったらお願いするかもね」
「それはセルヴァ伯爵にお願いしてください。僕は木彫り職人ではありませんので」
「分かった~確かにそうだよね。マティは木彫り職人じゃないよね~」
よかった。エドワード王子はすぐに了承してくれて、ポポ軍団を大きく振りながら帰っていった。
それを人目があるところで振り回すのはどうかと思いますよ。
これで僕はもう木彫りから解放されたし、師匠の役目も終わったと思ってホッとしていたんだけど、ラルフ様とルーベンとグラートを見送ってしばらくすると、セルヴァ伯爵が尋ねてきた。
「ママ! うみのおじちゃんきたよー」
「海のおじちゃん?」
ああ、そうか。シルにとってセルヴァ伯爵は海で海鮮を焼いてくれた優しいおじちゃんなんだ。また海に行きたいな。
「マティアス殿、シルくんが気に入っていると聞いたから、ぜひ受け取ってほしい」
セルヴァ伯爵がくれたのは、ポポの家族だった。黄色に塗られた上に濃い緑と薄い緑で蔓を巻きつけたような綺麗な模様が描かれていて、僕が描いた下手な花とは全然違う。プロの仕事との違いを見せつけられた。
今回伯爵が尋ねてきたのは、領地の工芸品に騎士団から注文が入って感謝しているという内容だった。
初めは「握り心地が……」と色々注文が入ったけど、職人さんたちが対応してくれて、納得の品が出来上がったそうだ。やっぱり職人さんは違う。僕みたいにざっくりとした感覚でなく、ちゃんと相手の要望に応えて作ることができるんだ。
セルヴァ伯爵とは、夜会の時には挨拶ができなかった。
僕とラルフ様が夜会に顔を出したのが珍しいと、僕たちが帰った後で話題になっていたそうだ。
挨拶をしたい人はたくさんいたんだけど、すぐに帰ってしまったから残念がっていたとか。
まさか、ラルフ様がいつも以上に格好よかったしダンスも上手だったから、ラルフ様と踊りたい人がいっぱいいたんじゃないよね? もしそうならちょっとだけ嫉妬してしまうかもしれない。
ヴィートが僕を探していたとも聞いた。そういえばヴィートとも挨拶できなかった。子どもはもう生まれたんだろうか? 探していたって、もしかして子どもが生まれた自慢を僕にするため?
ってことは、夜会で会えなかったから、もうそろそろ僕しか参加しないお茶会の招待状が届きそうな気がする。
「うみのおじちゃん、おみやげありがとう。またきてね」
「また来るよ。シルくんもまた海に遊びにおいで」
「うん。うみいきたい! おさかなおいしかったの! ママ、パンもつれていっていい?」
「パン?」
セルヴァ伯爵はパンと言われても誰だろうと不思議そうな顔をした。
「パンは、シルの馬なんです」
「シルくんは小さいのに馬を持っているなんてすごいな」
「パンはすごいの。いつもぼくをのせてくれる。いつもいっぱいあそぶの。つれてくる!」
走り出してしまったシルを止められず、もう帰るというのに伯爵を引き止めてしまった。
「すみません。お帰りになるところを引き止めてしまって」
「いいよ。シルくんは寒いのに元気だな。おや、随分可愛らしい馬なんだね、あの大きさならシルくんが乗るのにちょうどいいか」
「ええ、大きくならない種類の馬のようで、あれでも大人なんです」
「小さいシルくんが手綱を引いているのは可愛いな。私も孫にプレゼントしてあげようかな」
伯爵は小さな馬に興味津々だ。こっちに向かってくるパンのところまで歩いていって、パンのことを撫でている。
パンはとても温厚な馬だ。たまに拗ねることはあるけど暴れたところを見たことがない。そういう気性の種類なのかパンがそういう性格なのかは分からないけど、大人しい種類の馬なら子どもも怖がらずに仲良くできると思う。
「お礼のために訪れたのに、いい情報を教えてもらって私だけが得をしたようだ」
「いいえ、いつもご贔屓にしていただいていますから。それにシルにお土産までいただいてありがとうございました」
「うみのおじちゃんまたね」
ラルフ様はセルヴァ伯爵がうちに来たと言ったら嫉妬するんだろうか?
黙っておいてバレると面倒なことになりそうだから、事後報告だけど手紙で報告しておこう。
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