61 / 258
二章
60.ルーベンの危機
しおりを挟む「マティアス、仕事をしばらく休め」
いつもより遅い時間に帰宅したラルフ様を玄関で迎えると、ただいまの挨拶より先にそんなことを言った。
「なぜです?」
「ルーベンが不敬罪で捕まった」
「はい?」
不敬罪? ルーベンがなぜ?
「ルーベンが不敬罪で捕まった」
「それはさっき聞きましたが、理由を説明してもらえないと、僕が仕事を休むこととの関係も分かりません」
ルーベンはタルクに戦いを教えていたんだけど、タルクの親がそれに納得しなかった。息子の生傷を見て、主に母親が怒ってしまったらしい。
タルクもきっと親に説明はしているんだろうが、コレッティ男爵家を訪ねても、会うことができなかったそうだ。タルクが軟禁されているという情報もあるらしい。
ルーベンはコレッティ男爵夫人の訴えにより騎士団に連れていかれた。
しかしラルフ様の部下であるルーベンを罰することは難しく、というかそんなことをしてラルフ様や部下のみんなが暴れることを恐れている。表向きは捕まったってことになっているから、騎士団の外には出られないが、拘束などはされていないそうだ。
元々ラルフ様もその上のクロッシー隊長も、ルーベンが一般人に指導を行っていることを許可していたのだから、指導を行ったことで罰するのは難しい。
神出鬼没という感じで空から登場したりするのに、ちゃんと上司に相談や報告をしているルーベンは、案外真面目なのかもしれない。
「不敬罪とはどういうことなんですか? タルクの親に何かしたということですか?」
「そうではない」
初めは暴力行為だと被害を訴えられたがそれを退けたら、今度は不敬だとされ、退けるのが難しかったそうだ。
不敬って曖昧だよね。中には、平民が目の前を横切ったとか、前に立ったとか、目があったとか、そんな馬鹿みたいな理由で罰せられることもある。
何も悪いことをしていないのにルーベンが罰を受けるのは僕も納得できない。
それで僕が仕事を休めと言われた理由は、コレッティ男爵夫人が怒りの矛先を僕にも向けているからだ。息子を唆して平民と関わるような花屋で働かせたという理由で店に突撃してきたらしい。その時にタルクの辞職も伝えられた。
僕は休みだったから知らなかったんだけど、マチルダさんがラルフ様に知らせて、話し合いの末、僕が休むことは決定事項となった。
「タルクも僕もいなかったら、モニカはまだ配達には行けないしお店が大変です」
「数日の辛抱だ。マティアスの邪魔をする敵は何者であっても許さん」
タルクのことは正直どうなるか分からない。花屋のことはマチルダさんに任せるしかない。僕もタルクも稼ぎ頭だから、あのマチルダさんが何もしないわけがない。
僕の予想では、僕を指名して注文してくれている貴族を味方につけて、コレッティ男爵家の横暴を退けるのではないかと思う。
ん? もしかしてマチルダさんはそのために僕を休ませた?
貴族は貴族で、戦争で勲章をもらうようなラルフ様を敵には回したくないし、今は僕としては不本意だけど、僕をもてなすのが貴族の間でブームになっているから、何かしようとすれば他の貴族から睨まれる。
そんな中でコレッティ男爵夫人はよくこんなことをしたものだ。
「コレッティ男爵夫人の行動は、男爵も容認しているのですか?」
「男爵本人と長男と次男は不在だった。王都から一日の距離にある男爵の友人の屋敷に出向いている。帰りは明後日だと聞いた」
夫が不在の間に夫人が独断でやったんだろうか? だからラルフ様は数日の辛抱って言ったのかな?
僕だったらすぐに伝令を走らせるし、知らせを聞いたらすぐに戻ってくるから、明日には帰ってくるんじゃないかな?
それで僕と花屋とルーベンのことは解決したとしても、タルクはどうなるんだろう?
家族の問題に部外者が首を突っ込むことはできない。花屋の仕事が楽しいと言っていた。強くなりたいとルーベンに教えを乞うた。そんなタルクの気持ちが報われるといいんだけど。
「ラルフ様、穏便にお願いしますね」
「なぜだ?」
そう言っておかないと、ルーベンへの罰を要求をしたり、僕に迷惑をかけるようなことがあれば、ラルフ様はコレッティ男爵家を物理的に潰してしまいそうだから怖いんです。
「心配なんです」
「マティアスは何も心配することはない」
「そうじゃなくて、タルクも僕にとっては大切な人ですから、傷ついてほしくないんです。もちろんラルフ様も傷ついてほしくないです」
「分かった」
この「分かった」というラルフ様の返事、ちょっと不安が残る。
「もしコレッティ家に行く時は僕も連れて行って下さい」
「それは危険だから無理だ」
「ラルフ様が一緒だから大丈夫です」
僕がそう言うと、ラルフ様は腕を組んで深く考え込んでしまったが、ふぅ~とゆっくりと息を吐いて、「仕方ないな」と言ってくれた。
僕を守りながら戦うということを想像して可能かどうかを考えていたんだろうか?
何があっても絶対についていって、武力行使に出るようなら僕がラルフ様を止めよう。
477
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。
そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。
そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。
そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる