僕の過保護な旦那様

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二章

40.かくれんぼ

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「シル、お仕事に行ってくるね」
「うん……」
 翌朝になっても、シルはまだ拗ねているらしい。帰ってきたらいっぱい甘やかすぞ。

 帰りに迎えにきてくれたのはハリオだった。
「マティアスさんすみません、今日は送ったらすぐに騎士団に戻らないといけないんです」
「そうなんだ。そんなに忙しい時にわざわざ迎えにきてもらってごめんね」
「いえ、隊長の夫を守るのは俺たちの仕事なんで!」
 いや、違うよね。ハリオの仕事はこの国を守ることだよ。そこ、間違った考え方は改めてね。

 急ぎ足で家に帰ると、僕が門を潜るのを確認してすぐにハリオは騎士団に戻っていった。
 ハリオがわざわざ迎えに来なくても、リーブやバルドでもよかったのに。

「マティアス様、おかえりなさいませ」
 僕が玄関に入ると、いつも待ち構えているリーブがちょっと遅れてきた。珍しいな。それにちょっと焦っているというか、額に汗が滲んでいて、何かおかしいと思った。
「うん、ただいま。何かあった?」
「実は……」

「え!? シルがいない?」
 リーブの話では、お昼を一緒に庭のベンチで食べて、その後お昼寝の時間になって寝かせたんだけど、起きてくるのが遅いと思って部屋を訪ねたらいなかった。それで使用人が総出で探しているのだとか。

「まさか一人で外に出て行ったってことないよね?」
「マティアス様をお見送りしてからお帰りになるまで、来訪者もなく門は閉めておりましたので、シルヴィオ様お一人で外に出て行った可能性は低いかと」
「うーん、櫓に一人で登ったとか?」
「櫓の扉も閉まっておりました。子どもの力では開けられないと思います」
 じゃあ庭か家のどこかにいるってことになる。

 バルドとチェルソは庭を探している。垣根の間や木の上だけでなく、小さい体では寝そべったり蹲っているだけでも、見逃してしまうことがあるから念入りに。
 それ以外の使用人は家の中を倉庫や食糧庫、各部屋を探していた。
 なるほど、それでいつも余裕の微笑みを絶やさないリーブが、額に汗を浮かべているのか。

「僕も家の中を探します」
 まさか僕に内緒で、ラルフ様たちが庭に落とし穴とか掘ってたりしないよね?
 僕が昨日、大人になりたいと言ったシルに上手い答えができなかったから、拗ねて行方を眩ませてしまったんだろうか?
 僕も責任を感じて、家の中をしっかり探した。でも全然見つからないんだ。それで、リーブとバルドには敷地の外を探してもらった。それほど遠くには行っていないはずだ。

 この家は元々貴族の家だし、抜け道というか隠し通路とかあったりするんだろうか?
 あるのならラルフ様は、有事の際はここから逃げろみたいな感じで教えてくれる気がする。教えられていないってことは、無いってことかな?
 一体どこに行ってしまったのか……
 子ども一人探し出せないなんて……

 チェルソとミーナには夕食の準備を進めてもらい、家の中は僕とリズ、庭はメアリーに探し漏れがないか確認してもらっている。
 シル……
 日が傾いて、辺りが暗くなってくると、心配で堪らなくなる。暗いところで一人泣いているんじゃないかと思うと気が気でない。本当にどこに行ってしまったんだろう……
 辺りが暗くなると、リーブとバルドが戻ってきた。

「巡回している騎士に、見つけたら家まで連れてきてほしいとお願いしましたが、恐らく外には出ていないかと。誰も見かけた者がおりませんので……」
「そっか。外に出ていないならいいんだ。この塀の中にいてくれれば、とりあえずは安全だから」
 僕たちの家がいつの間にか要塞になってしまったと、唖然としていたけど、こういった時にはこの分厚くて高い塀がとても頼もしく思える。
 外に出ていないなら一体どこに……

 焦りながら捜索を続けていると、ラルフ様が帰宅した。
「ラルフ様、おかえりなさい……シルが……」
「シルがどうした?」
「いなくなりました。昼過ぎから行方が分からなくなり、まだ見つかっていません。外には出ていないだろうとのことです」

 ラルフ様は腕を組んで玄関で考え込んでいる。
「これは、かくれんぼか?」
「え?」
 かくれんぼ? まさかシルは遊んでいるだけとでも言うの? 使用人総出でこんなに探しても見つからないのに?

「庭は見たか?」
「庭はバルドとチェルソが探して、そのあとでメアリーにも見てもらいました。櫓は扉が閉まっていたそうです」
「じゃあ庭はないな。となると家の中か……倉庫、食糧庫、いや違うな、客室、寝室、シルの部屋、風呂……」
 ラルフ様はブツブツと独り言を言いながら、目を瞑って考え込んでいて、邪魔をしてはいけない雰囲気を放っている。僕はそっと見守るしかできなかった。

「最後に見たのは?」
「お昼寝で寝かす時にシルの部屋で見たそうです」
「分かった。行くぞ」
 どこに? ずんずんと大股で進んでいくラルフ様に、僕は小走りで付いていった。
 向かった先はシルの部屋だ。暗い部屋にランプを点すと、ラルフ様はクローゼットを開けた。そしてクローゼットの奥の壁をコンコンと叩いて、壁をパコっと外した。
 ええーー!? そんなところ外れるの? そして中には丸まって眠るシルがいた。
 なんかすごい敗北感……と同時にホッと胸を撫で下ろした。ラルフ様がシルを抱き上げて、運び出すと、僕はみんなにシルが見つかったことを知らせた。バルドは巡回している騎士に、見つかったことを知らせに走ってくれた。

「ぐっすり眠っているな」
「そうですね」
「起こすのも可哀想だ。このまま寝かせてやろう。俺たちを焦らせたんだ、次はシルを驚かせるぞ」
 どういう理屈かは全然分からないけど、ラルフ様は悪戯を思いついた子どもみたいに楽しそうにしている。ラルフ様って意外と悪戯好きなの?
 シルを驚かせるためにラルフ様が考えたのは、シルを僕たちの寝室で僕とラルフ様の間に寝かせること。起きたら僕たちの間に寝ているんだから驚くだろうと。ラルフ様の考えた悪戯がなんとも可愛らしくて、僕は今まで心配で焦っていた気持ちがふわっとどこかに消えていった。

 途中で起きるかと思ったけど、夕食を食べて湯浴みをして僕たちが寝る頃にも、シルは眠ったままだった。

「シルはなかなかかくれんぼが上手いな」
「うん。そうだね」
 これはかくれんぼだったんだろうか? それはシルしか分からない。

 
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