【完結】睨んでいませんし何も企んでいません。顔が怖いのは生まれつきです。

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16.最後の誤解が解ける時

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 フィリップ様が女の人と話している姿を見ると、ジッと見つめてしまう。
「テオ、そんなに睨むな。何か気に入らないことがあるのか?」
「何でもないです」
 フィリップ様を独り占めしたいなんて、フィリップ様に愛されたいなんて、言えるわけない。

 もう死ぬのだと思っていたのに、なぜか体調は回復していった。お気に入りのトマトの冷たいパスタさえ食べられなかったのに、肉も食べられるし、どれだけ食べてもお腹が空く。
 おかしな病気に罹ってしまったようだ。


「テオ、もう観念して言えよ」
「何をですか?」
「はぁ~、頑固な奴め。俺のこと好きになったんだろ? だから嫉妬したんだろ?」
「……」
 バレてた。でも今更言っても、僕は死ぬんだし、フィリップ様には新しい恋人もいるんだから、意味ないよね。

「キスくらいしても大丈夫か?」
「え?」
「キスしてほしいだろ?」
「はい」

 久々にフィリップ様の唇が触れた。そっと舌が滑り込んできて、今までで一番優しいキスだった。
「なんで泣く? 嫌だったのか?」
 え? フィリップ様に言われて頬に触れると、濡れていた。僕は泣いていたのか。
 死にたくないな。できれば前みたいにフィリップ様と仲良くしたい。抱いてほしい。

「フィリップ様、僕は死ぬんですよね?」
「は? そりゃあいつかは死ぬな。あと五十年もしたら死ぬかもしれんが、まだ死なないぞ」
「本当? 抱いてください」
「それはダメだ」
「そっか……」
 もう抱いてはくれないんだ……

「それは産まれてからな」
「はい?」
「ちょっと待て、お前まさか気付いてないのか?」
 何を言っているのか分からなかった。なんの話?
「お前の腹に俺との子がいるだろ」
「ええーー!?」
 子? フィリップ様との子?

「医者が何度も来てたろ? 体調が悪すぎて話を聞ける状態じゃなかったか? それに乳母も何人か雇って屋敷に連れてきただろ? 助産師も連れてきて出産の部屋も整えてるだろ?」
「乳母? 助産師? フィリップ様の愛人じゃないの?」
「は? お前、いい加減にしろよ? 俺のことそんなに信用できないのか?」
「ごめんなさい。だってもう僕は死ぬんだと思ったから。だから僕が相手できないから欲求不満になって、だから……」

「バカだな。不安なら言えよ。夫夫だろ?」
「え? 僕たちまだ結婚してないんじゃないの?」
「お前が来た時にもう結婚の届出は受理されていただろ」
「そうなの? でも結婚延期だって……」
「あぁ、結婚式のことだ」
「そうなんだ……」
 なんか恥ずかしい。僕、死なないんだ。もう僕とフィリップ様は結婚してたんだ。愛人なんていなかったんだ。

「それで? 俺に言うことはないのか?」
「疑って、勘違いして、ごめんなさい」
「違うだろ? 早く俺のこと好きって言えよ」
「好き、です。フィリップ様のこと好きです」
「俺もテオのこと好きだからな。いい加減、俺のこと信用しろよ。俺がどれだけテオのこと大切に思ってるか分かれよ」
「はい。ごめんなさい」
 そっか、そうなんだ……

 その後、「体調が悪くないなら見にいくか?」と言って生まれてくる子のために用意された部屋を見せてもらった。小さいベッドと、子ども用の小さなテーブルやソファ、本棚には絵本も並んでる。ぬいぐるみもいくつか置いてあった。まだ早いと思う。
 でも、フィリップ様が子ができたことを喜んでくれてるってことは分かった。


 *

「フィリップ様、落ち着いて下さい」
 産気付いたのは、大きなお腹を抱えてフィリップ様と一緒に眠っている時だった。フィリップ様の方が焦って、ベッドの横に置いてあった水差しを倒して割って、それを片付けようとして隣にあったコップも割った。そしてメイドを呼ぼうとして絨毯に引っかかって転んで、咄嗟に掴んだレースのカーテンをビリッと破った。

 そんなフィリップ様の様子を見て、僕はかえって落ち着いてしまった。
 助産師のおばあちゃんと助手が来て、乳母もメイドたちも待機してる。
 フィリップ様は桶をひっくり返して床を水浸しにして、なぜか花瓶に手を突っ込んで抜けなくなってしまったので、「大人しくしておいてください」と外に出された。

 女性のお産は命懸けだとか、とても大変だと聞いていた。孕み腹の男のお産は体験談を聞く機会が無かったから、他の人がどうなのかは知らないけど、僕はそんなに苦しむことなく呆気なく終わった。
 産まれてきたのは男の子だった。
 この子がフィリップ様と僕の子なんだ。

 やっと落ち着いて、花瓶も取れたフィリップ様が部屋に入ってきて、息子をジッと見て頬にツンと触って、僕を抱きしめてくれた。

「テオ、俺のこと好きか?」
「好きですよ」
「愛してるか?」
「愛してますよ」
「こいつとどっちが好きだ?」
「どっちも好きです。フィリップ様、息子と張り合わないでください」


 息子に僕の顔が怖いせいで泣かれたらどうしようかと思ったけど、そんなことはなかった。

「ぼくおおきくなったらママとけっこんする!」
「ダメだ。テオは俺のだ。絶対にやらん! テオを取るなら息子といえど家から追い出すぞ」
「うわぁぁん、ママァ~」

「フィリップ様、子ども相手にムキにならないでください」
「テオは俺のことが好きではなくなったのか?」
「そんなことないですよ。フィリップ様のこと好きですよ」

 今日も大人気ないフィリップ様は、僕を息子と取り合ってる。



(完)


最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
こちらで本編は完結です。
 

 
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