上 下
501 / 1,050
本編

51話 宴の始末 その1

しおりを挟む
翌日早朝、レスタはユルユルと目を覚まし、ゆっくりと半身を持ち上げた、朝なのに暗いなと寝ぼけまなこを擦り、その部屋が寮の自室である事を思い出して、そっかそうだよねとボーッと室内を見渡す、勿論暗がりの中で何が見えるわけでもない、実家の子供部屋であれば、木戸の隙間と壁の隙間から差し込む朝日でほのかに明るくなるのであるが、この部屋は石造りの建物である、石壁には隙間が無く、木戸もかっちりとした上等な物で、閉め切ってしまえば外の灯りが入って来る事はない、しかし、石造りといっても外の物音は入って来るようで、特に昨晩は街中が全体的に騒々しかった、都会の夜が初めてのレスタはこんなものなのだろうなと特に不思議にも思わず、田舎とはやっぱり違うなと目を瞑ってあっさりと眠りに落ちた、レスタは寝付の良さは自慢できる娘なのである、他にも自慢できる事は多々あるが、それは本当の自慢になってしまって煙たがられてしまう、母や兄弟からからかわれる時や母の井戸端会議の時もその寝付の良さを引き合いにだされる事があり、レスタ自身も会話のネタにされる事に関しては特に抵抗は無く、自分の寝付の良さがやがて他の話題に移って、会話の中から消えていくのを感じると、少しは役に立てたのかなと誇らしく感じてもいた、実に素直で良い子なのである、

「んー」

もそもそと寝台から降りると、手探りで壁まで向かい木戸を開ける、冷たい朝の空気に触れ、ブルッと肩を揺らし、

「あー、凄いな、ホントにまだ光ってる・・・」

内庭側の木戸を大きく開いて顔を出すと光柱は堂々とその威容を未だに誇示していた、朝日と競り合うように輝くそれは、周辺の家屋が邪魔になっている為全容は見えないが、昨晩寝る前に同窓達と眺めたそのままの姿と輝きでもって屹立し、蠢いている、

「ホントに凄いな・・・どうやればできるんだろう・・・」

レスタは肩肘を着いてじっくりと光柱を見つめた、遠くに輝くそれは離れていても光の粒の流れが視認でき、螺旋を描いて天に昇るそれらはこの世にあって同じ光景を探す事は出来ないであろうと思える程に神秘的で神々しい、

「綺麗だなー、夜も綺麗だったけど、朝日と一緒でも綺麗だー」

静かに呟いた、レスタは特別に優秀な娘である、地方から学園に入学する為には定期的に勧誘と啓蒙の為に巡回している学園職員の試験に合格しなければならない、試験は数種に別れており、読み書きは当然として基本的な算学と何よりも大事とされる魔法適正がある、そして学科ごとに異なる適正試験と呼ばれる個別科目の試験に受かれば、晴れて入学が許可された、その試験においてレスタは試験を担当した学園職員の度肝を抜くほどの結果を見せる事になる、これらの試験は全てが半分も正解すれば上等なものとして作成されており、満点をとる事は学園生でさえ難しい代物なのであるが、レスタは読み書きの試験において、見事に満点を記録し、さらに算学においては七割正解という好成績であった、職員はこれには最初不正を疑ったが、レスタを見る限りその必要は全くない、なにせ兄と力比べ程度の意識で参加しており、自身が何を行ったのかも認識していなかった、職員はこれはと思い学園へ連絡すると、採用担当の責任者が折よく近くを巡回していた為合流し、再度試験を行う事になった、これにはレスタは何とも思わなかったが両親は難色を示し、兄も不満顔であったが、職員の説得によって実施され、そこでも読み書きはほぼ満点、算学も前回とほぼ同じ程度の成績を示した、これはと職員二人は学園に連絡しつつ、両親を説得する事になる、これほどの才は数年に一人生まれるかどうかであると二人は熱心に語り、さらに、入学金はおろか生活費も学園で賄うとの破格の待遇を提示した、レスタは隣りで聞いていて何が何やらと不安な顔であったが、両親はそこまで言うのであればと入学を許可し、そこから数か月経ってレスタはモニケンダムに立つ事となった、ちなみに魔法適正試験に関しては可もなく不可もなくである、これが全くの無であったなら魔法学園への入学は認められなかったであろう、

「あー、えっと、レスタだ、レスター、おはよー」

ミナが寮母宿舎から飛び出して来た、その後をのんびりとレインがついて来ている、

「わっ、おはよー、はやいねー」

「うん、はやいのー、あれ、まだ立ってるねー、すごいねー」

ミナは左手で光柱を指差す、

「そうだねー」

「レスタも見に行くのー」

「んー、そうだねー、みんなの邪魔にならなければねー」

幼いミナ相手の為にレスタの本心が口をつく、レスタはどちらかと言えば根暗な性分であり、人付き合いは苦手である、その為自分の事よりも他人を優先する引っ込み思案であった、友達も少ない、というかいない、レスタの村は中心部以外は農家が散在しており、隣近所との付き合いはあるが薄く、また子供となると皆兄とは同世代であったが、レスタの遊び相手になる者はいなかった、故に、レスタはその性分を深化する事はあっても改善する事は無く、結果、人との関わり方が至極下手なのである、それは本人も重々に理解している為、入学を機になんとかしなければとも思ってはいた、しかし、よくそんな娘を一人都会に出せたなと両親に対して訝しく思う、それは、職員達の必死の説得の賜物であり、職員から根回しされた村長の助言もあった、何とも大人らしい周到さである、

「えー、大丈夫だよー、ミナ、見たもん、凄いのよー、ピカピカでー、グルグルなのー」

「そっかー、ピカピカで、グルグルかー」

ピカピカは何度も聞いたし見ているから理解できるが、グルグルに関しては聞いてないなとレスタは思う、

「そうなのよー、綺麗で怖いのー」

「それは分かるかなー」

レスタはニコニコとミナを見下ろす、そこへ、

「おはようございます」

頭上から明るい挨拶である、

「ルルだー、おはよー」

「えっ、ルルさん?」

ミナは軽く飛び跳ね、レスタは上半身を捻って無理矢理上を見る、そこにはルルの顔が壁から生えており、何とも滑稽な有様であった、

「おはよう、レスタさん、ちゃんと眠れました?」

柔らかく微笑むルルに、

「はい、しっかりと」

レスタは自然に微笑んだ、少なくともレスタ本人はそう思った、

「そうですか、良かったです、じゃ、顔を洗って、おめかししましょう」

「おめかし?ですか?」

「はい、鏡を使うのは早い者順ですよ」

「あっ、そうなんですね、行きます、えっと、井戸ですか?」

「井戸ですよ」

レスタは昨日聞いた事を思い出した、ルルとグルジアから毎朝の支度について教えられ、初めて見たガラス鏡に度肝を抜かれた、さらに髪留めやらうるおいクリームやらと、都会はやっぱり違うなと思ったが、それらはこの寮で開発されたものと聞き、さらに肝をつぶしてしまった、レスタはサッと首を引っ込め食堂へ向かい、そのまま厨房から井戸へと出る、少ししてルルが合流し、オリビアも出て来た、3人はミナとレインが葡萄の世話をしている横でキャッキャッと朝から歓声を上げ、そこへ、

「あー、おはよー」

いつにもまして眠そうな顔のソフィアが宿舎からのそりと現れた、

「わっ、おはようございます」

「えっ、どうしたんですか?」

普段の朝とは違いあまりにも精彩の無いその表情にルルとオリビアは驚いて、レスタは言葉も無く立ち竦む、

「あー、寝てないのよ、まったく、男共がめんどくさくてね・・・」

ソフィアはまるで商売女のような口振りである、

「そうなんですか・・・」

「ほら、あれのお陰・・・というか・・・うん、ま、仕方がないんだけどね」

ソフィアはフラフラと井戸に辿り着くとルルが慌てて汲み上げた桶に礼を言いつつ顔を突っ込んだ、冷たい井戸水が皮膚を締め上げるのを感じながら、水を引いたら土砂崩れってこの事よねと内心で大きく溜息を吐く、

「ありゃ・・・」

「これは、流石に・・・」

ルルとオリビアは呆れつつもソフィアの身を案じているようで、

「ふぅ・・・目、覚めたわ・・・」

ザッと勢いよく顔を上げたソフィアは虚空を睨み呟くが、

「目は覚めても・・・」

「うん、大丈夫ですか?朝の支度手伝いますよ・・・」

「あー、そうね、お願いできるー、嬉しいわー」

顎先からポタポタと雫を垂らして尚、覚醒しきっていないソフィアは頼りなく微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる

ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。 安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。 そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。 もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。 俺は偽装の仮面を持っている。 この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。 身バレ対策しつつ収入を得られる。 だが現実は違った。 「ご主人様は男の人の匂いがします」 「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」 俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。 面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。 おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。 思っていたのと違う! 俺の計画は破綻しバズっていく。

処理中です...