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ちょっと気持ち悪いよね
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数日後。
リアムが外遊先のセリーニャ王国から帰国してきた。
同僚たちに囲まれてセリーニャの話をせがまれるリアム。その少し照れたような誇らしげな表情が、ミアからすると憎たらしくてしょうがない。
「あ、ミア」
ミアの視線に気づいたのか、リアムがミアの方へやって来た。
「リアム。……おかえり、お疲れさま」
ミアが形ばかりの挨拶をすると、リアムがほのかに顔を赤く染めた。
「ミア。ちょっといい? 渡したいものがあるんだけど」
ほかの同僚に聞こえないように声を潜めたリアムに腕を引かれて、ミアは人気のない資料室へと連れていかれた。窓から差した光が埃っぽい部屋の中をきらきらと照らしている。
「なに、リアム。渡したいものって」
ミアが問いかけると、どこかモジモジとした様子のリアムがミアの前に手を差し出した。
「あのさ、これ……お土産」
「お土産?」
ミアの前に差し出されたのは表面に天鵞絨の布が張られた細長い小型の箱だった。
「ミア、セリーニャに行きたがってただろう?」
「……別に買い物や観光がしたかったわけじゃないんだけど」
行きたかったのは「随行員」として……「選ばれたメンバー」としてだよ! 別に旅行したかったわけじゃない!
……とは思ったものの、せっかくのリアムの好意を無下にするのも悪いので、ミアはおずおずとその箱を開けてみた。中から出てきたのは赤く透きとおった宝石がついたペンダントだった。
「わぁ……!」
光に照らされてきらりと光ったその赤い石の美しさに、装身具にはそれほど興味のないミアも思わず歓声を上げた。
「その赤い石、ミアの白い胸元によく映えるんじゃないかなぁと思って」
へへへ、と照れたように笑うリアムの顔が赤い。耳まで赤い。
「白い胸元……」
ミアは目を落として自分の胸元を確認する。
白いブラウスの布地をこんもりと盛り上げてはいるが、いちばん上のボタンまでぴっちり留めてあるため、肌はほとんど見えていない。
「変な意味じゃないから! 断じて毎晩思い出したりなんかしてないし、見たいとか触りたいとか思ってるわけじゃないからな!」
リアムの慌てぶりに、「うわ~、絶対思い出してるし、見たいとか触りたいとか思ってるわ」と、ミアは確信するが、何も言わずにジロリと白い目で睨むだけにとどめた。
だってリアムのくれたその赤い石は小さくはあるものの、それでも高価なものに違いないからだ。
「綺麗だけど……こんな高そうなモノ、貰えないよ」
「遠慮するなって。貸して。着けてやるよ」
リアムはミアの手元からペンダントを持ち上げて彼女の背後にまわり込んだ。
「あ……」
リアムの指がうなじに触れて、ミアは小さく肩を震わす。
「できた」
心なしか弾んだリアムの声を聞いてミアが胸元に目を落とすと、白い襟元に小さな赤い石が揺れてキラリとまばゆい光を放っていた。
「あの……ありがとう。リアム」
ミアが俯きながら礼を言うと、首の後ろで、ちゅ、と音がして、うなじに何か温かいものが触れる。
「えっ、なに!?」
「久しぶりに会ったんだからさ。いいだろう? ……これぐらい」
艶めいた声で囁くと、リアムはそのままミアの首筋に唇をつけて、ちゅうぅぅ、と強めに吸い上げた。
「ん……っ」
ミアが小さく悶えるのを見て満足したのか、リアムはぺろりとそこをひと舐めしてから唇を放した。
「ちょっ……リアム!」
ミアが振り返ってリアムを睨みつけると、リアムがいたずらっぽく微笑んでみせる。
「最近のリアム……ちょっと気持ち悪いよね」
「えっ……!?」
愕然としたようにリアムが絶句する。
「なんか、しょっちゅう触ってくるし。そういうことはリアムを慕って寄ってくる女の子にすればいいじゃない。たとえばエイミーとか。彼女なら喜んで触らせてくれると思うけど」
エイミーは学生の頃からずっとリアムに想いを寄せている男爵令嬢だ。ミアはそれほど彼女と親しいわけではなく、むしろ一方的に嫌われている節もあるが、それでもエイミーが長年リアムを狙っていることはバレバレなので、生温かく見守っている。
「なっ……! ミアじゃなきゃダメだ!」
「えー。なんで?」
「なんで、って……えぇ、わからないのかよ?」
リアムの問いにミアは首を捻った。
「…………はぁ。もういい」
この世の終わりみたいな大きな溜め息を漏らしたリアムが肩を落としてミアに背を向ける。トボトボと資料室を後にする彼の背中を見送りながら、
「やっぱりヘンだよね。最近のリアム」
ミアは首を傾げながら呟いたのだった。
数日後。
リアムが外遊先のセリーニャ王国から帰国してきた。
同僚たちに囲まれてセリーニャの話をせがまれるリアム。その少し照れたような誇らしげな表情が、ミアからすると憎たらしくてしょうがない。
「あ、ミア」
ミアの視線に気づいたのか、リアムがミアの方へやって来た。
「リアム。……おかえり、お疲れさま」
ミアが形ばかりの挨拶をすると、リアムがほのかに顔を赤く染めた。
「ミア。ちょっといい? 渡したいものがあるんだけど」
ほかの同僚に聞こえないように声を潜めたリアムに腕を引かれて、ミアは人気のない資料室へと連れていかれた。窓から差した光が埃っぽい部屋の中をきらきらと照らしている。
「なに、リアム。渡したいものって」
ミアが問いかけると、どこかモジモジとした様子のリアムがミアの前に手を差し出した。
「あのさ、これ……お土産」
「お土産?」
ミアの前に差し出されたのは表面に天鵞絨の布が張られた細長い小型の箱だった。
「ミア、セリーニャに行きたがってただろう?」
「……別に買い物や観光がしたかったわけじゃないんだけど」
行きたかったのは「随行員」として……「選ばれたメンバー」としてだよ! 別に旅行したかったわけじゃない!
……とは思ったものの、せっかくのリアムの好意を無下にするのも悪いので、ミアはおずおずとその箱を開けてみた。中から出てきたのは赤く透きとおった宝石がついたペンダントだった。
「わぁ……!」
光に照らされてきらりと光ったその赤い石の美しさに、装身具にはそれほど興味のないミアも思わず歓声を上げた。
「その赤い石、ミアの白い胸元によく映えるんじゃないかなぁと思って」
へへへ、と照れたように笑うリアムの顔が赤い。耳まで赤い。
「白い胸元……」
ミアは目を落として自分の胸元を確認する。
白いブラウスの布地をこんもりと盛り上げてはいるが、いちばん上のボタンまでぴっちり留めてあるため、肌はほとんど見えていない。
「変な意味じゃないから! 断じて毎晩思い出したりなんかしてないし、見たいとか触りたいとか思ってるわけじゃないからな!」
リアムの慌てぶりに、「うわ~、絶対思い出してるし、見たいとか触りたいとか思ってるわ」と、ミアは確信するが、何も言わずにジロリと白い目で睨むだけにとどめた。
だってリアムのくれたその赤い石は小さくはあるものの、それでも高価なものに違いないからだ。
「綺麗だけど……こんな高そうなモノ、貰えないよ」
「遠慮するなって。貸して。着けてやるよ」
リアムはミアの手元からペンダントを持ち上げて彼女の背後にまわり込んだ。
「あ……」
リアムの指がうなじに触れて、ミアは小さく肩を震わす。
「できた」
心なしか弾んだリアムの声を聞いてミアが胸元に目を落とすと、白い襟元に小さな赤い石が揺れてキラリとまばゆい光を放っていた。
「あの……ありがとう。リアム」
ミアが俯きながら礼を言うと、首の後ろで、ちゅ、と音がして、うなじに何か温かいものが触れる。
「えっ、なに!?」
「久しぶりに会ったんだからさ。いいだろう? ……これぐらい」
艶めいた声で囁くと、リアムはそのままミアの首筋に唇をつけて、ちゅうぅぅ、と強めに吸い上げた。
「ん……っ」
ミアが小さく悶えるのを見て満足したのか、リアムはぺろりとそこをひと舐めしてから唇を放した。
「ちょっ……リアム!」
ミアが振り返ってリアムを睨みつけると、リアムがいたずらっぽく微笑んでみせる。
「最近のリアム……ちょっと気持ち悪いよね」
「えっ……!?」
愕然としたようにリアムが絶句する。
「なんか、しょっちゅう触ってくるし。そういうことはリアムを慕って寄ってくる女の子にすればいいじゃない。たとえばエイミーとか。彼女なら喜んで触らせてくれると思うけど」
エイミーは学生の頃からずっとリアムに想いを寄せている男爵令嬢だ。ミアはそれほど彼女と親しいわけではなく、むしろ一方的に嫌われている節もあるが、それでもエイミーが長年リアムを狙っていることはバレバレなので、生温かく見守っている。
「なっ……! ミアじゃなきゃダメだ!」
「えー。なんで?」
「なんで、って……えぇ、わからないのかよ?」
リアムの問いにミアは首を捻った。
「…………はぁ。もういい」
この世の終わりみたいな大きな溜め息を漏らしたリアムが肩を落としてミアに背を向ける。トボトボと資料室を後にする彼の背中を見送りながら、
「やっぱりヘンだよね。最近のリアム」
ミアは首を傾げながら呟いたのだった。
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