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家宅捜査
しおりを挟むブライアン視点
ラルス団長の尋問はお見事としか言えなかった。
あの短時間で知りたかった事をナタリアから聞き出せた。
ナタリアの事は今でも許せないし、大嫌いだ。
でも、行動がエスカレートしたのは薬のせいだったんだろう。
攻撃的なのも自分の事しか考えないのも昔からだが、ここまでではなかったように思う。
ま、ほとんど関わらないようにしてたので、ハッキリした事は分からないが。
ナタリアは令嬢達を操っていたが、ナタリアを操っていたのはジュリアーナ・イザリス。
イザリス公爵の後妻で、クララ様の乳母だった女。
後妻に入り、自分の子供が出来たらクララ様を虐待し、クララ様の存在を公爵家から消した、継母。
公爵と結婚出来たのも、ひょっとしたら薬を飲ませていたのかも知れない。
そして公爵の思考も奪っていったのだろう。
さすがに自分の子供には手を出さなかったんだろうが。
自分の言う事を聞かない使用人にも使っていたのかもしれない。
だから、あの御者も怯えていたのだろう。
ジュリアーナの確か実家は子爵だったと思う。
子爵家の娘が公爵夫人になったのだ。
普通なら有り得ない。
公爵夫人に縋り付きたかったのか…
何故自分の旦那にそんな事をする?
常軌を逸する者の考えは分からない…
「ブライアン、大丈夫か?」
と団長。
「大丈夫です、考え事をしていました。
イザリス公爵夫人は、何故こんな事をしているのか分からなくて…。」
「俺にも分からない。ただソイツは極悪人って事だけだ。」
四人で、詰所に戻り、今の話しを皆に伝えた。
みんな麻薬という言葉にざわついた。
「ヤコブ、大丈夫か?」
ヤコブは険しい顔をしていた。
「姉は麻薬にまで手を出していたのですね…気づきませんでした…」
「嫁いだ姉の事だ。分かるわけないだろ。
それなら嫁ぎ先の我が家が気付かなければならなかった。元々の態度の悪さから誰もナタリアには近づかなかった。
済まなかった。」
「副団長やニール兄さんのせいではありません。姉の弱さのせいです。」
「行けるか?」
「姉の事は好きではありませんでしたが、それでもザマアミロとは思いません。
ですから、この胸糞悪い事件をさっさと終わらせたいので、逆にやる気がでました。」
「そうか、でも無理はするな。」
「はい!」
そろそろイザリス公爵家へ出動だ。
「準備は出来ているな。ではイザリス公爵邸に出動する!行くぞ!」
団長の出動の合図に全員が、
「オオオーーーー!」
と地響きするほどの団員達の掛け声に、士気が上がっている事が分かる。
「ヤコブ、シックス、頼んだぞ。陛下の許可も出ている。もし、しらばっくれるのであれば、ファルコン騎士団、イーグル騎士団として捜索しても構わない。」
「「はい!」」
二人を見送り、ファルコン騎士団の半数程を残し、イザリス公爵家へ向かった。
イザリス公爵家に到着し、門番に告げる。
「ファルコン騎士団である。ボタニア男爵夫人誘拐の容疑がかかっている。只今より家宅捜査に入る。この捜査は国王陛下の許可を得ている。証拠隠滅、逃走、抵抗が認められた場合は即刻逮捕、またはその場での処罰となる。」
屋敷中に響く団長の声に、玄関から執事が飛び出してくる。
「何事ですか?」
「門を開けなければこちらで勝手に開けるがよろしいか。」
それを聞いた門番が門を開ける。
団長を先頭に団員がなだれ込む。
「使用人の宿舎はどこだ。」
と俺が聞くと、
「あちらです。」
と執事が敷地内にある。別棟の建物を指す。
「行くぞ!手の甲に傷のある男を探せ!」
俺とラルス団長、残っていた団員で、使用人棟へ向かい、
「今よりここはファルコン騎士団下に入る。抵抗するものは容赦はしない。」
突然の事に、使用人棟に残っていた者達は驚き、ほとんどが動けずにいる。
「全員、部屋から出ろ。出ない者は押し入る。」
仁王立ちのラルス団長の前に使用人が集まる。
俺と団員が各部屋を周り、部屋に残っている者がいない事を確認する。
「御者はいるか?」
「は、はい」
と数名が手を挙げた。
ラルス団長が一人の男をじっと見つめ、その男の側に行き、手の甲を確認する。
「お前、男爵夫人を攫ったな」
「私は、何も知りません…」
「嘘をつくとどうなるか知りたいか?」
「わ、私は、お、奥様に、頼まれて…」
団員が男を拘束した。
「話しは後でじっくり聞く。他の使用人はその場を動くな。一歩でも動こうものなら抵抗とみなし、斬る。」
ラルス団長の言葉に使用人達は震え、その場で固まった。
各部屋を捜索するが、男爵夫人はいない。
拘束した男にラルス団長が、
「夫人をどこに運んだ?」と聞くと、
「な、納戸に運んでからは知りません!」
「納戸はどこにある?」
「こ、ここの裏です…」
ラルス団長が俺を見たので、納戸へ走った。
納戸の中を確認すると、いないだろうと思っていた男爵夫人が縛られ、目隠し、猿轡をされて倒れていた。
とっくに移動し、隠しているものと思っていたのに、こんなにも呆気なく見つかり驚いた。
拘束を解き、目隠し、猿轡を外すと、
「だ…れ?」と弱々しく夫人は言葉を発したので一先ず安心した。
「私はファルコン騎士団副団長ブライアン・ハワードです。助けに来ました。もう大丈夫です。」
「騎士団の…、ありが、とう、ございます…」
「抱き上げます。」
夫人を抱え、使用人棟へ戻ると、何も知らない使用人達は、知らない女性に驚いている。
だが、ラルス団長は見逃さなかった。
「おい、お前」と言い、一人の男の側に行き、
「お前今、顔色変わったな?あの男と一緒に男爵邸に行ったな?」
「あ、あ、俺は…」
拘束した後、
「まだいるなら出て来い。今なら何もしない。後で出てきたら、逃亡の意思ありでその場で斬る。」
すると後三名名乗り出た。
「これだけか?この件に関わってる者はもういないか?男だけなんだな?
もう一度言う。今なら何もしない。誘拐、またはファルコン一番隊リーダー、シシリー・フォードの殺害未遂に少しでも関わってる者はいるか?」
「あ、あ、あの…」
「なに?」
「わ、私は、お嬢様に頼まれて…あの、媚薬を入れた水差しを、い、一番隊リーダーの、執務室に、お、置きました…すみません…すみません…」
「分かった。後でもう一度聞く。君もこっちに来て。」
拘束具は多めに持ってはきたが、ここだけですでに六名を拘束した。
これからどんどん増えるだろう…
「何でもいい、知ってる事は全て話すように。今から順番に聴き取りをする。部屋も調べる。もし、嘘や証拠隠滅しようものなら…分かったな!」
聴き取りと部屋の捜索を団員達に任せ、俺とラルス団長が本邸に向かった。
すると外にまで聞こえる甲高い声で、
「貴方達、許さないわよ!私は公爵夫人よ!やめなさい!触らないで!」
と叫んでいる。
「あの女…相変わらずうるせぇな…」
とラルス団長がボソっと言った。
屋敷に入ると、耳障りな声が響く。
「リルマグ侯爵!あなたね、こんな事させるのは!早く辞めさせなさい!」
「お久しぶりです、イザリス夫人。
たった今、ボタニア男爵夫人が見つかりました、こちらの納戸で。
貴女に頼まれて誘拐したと使用人達が言っていますが、反論は?」
「そんなの知らないわよ!勝手にやったのよ!」
「何故?使用人がどうして男爵夫人を誘拐などするのです?
平民が貴族を誘拐するなどの大罪を自ら犯す馬鹿が何処にいるのです。
それもすぐ見つかる自分の職場に誘拐した本人を隠すなんて、誰かに指示されなければそんな所に隠しません。」
「だから知らないって言ってるでしょ?
本当にあなたは私の邪魔ばかりする!」
「誘拐された男爵夫人はあんたがいるここで見つかった。それは紛れもない事実だ。
そして、ファルコン騎士団一番隊リーダー、シシリー・フォードを殺害しようとした女は脅迫されていた。
母親を殺されたくなかったらリーダーを殺せって手紙をもらった、イザリス公爵家の家紋が入った便箋と封筒をな!」
「あの女燃やせって言ったのに!」
「今の録ったな!はい、自供がとれた。ありがとう!」
「ラルスーーー、あんたの事は絶対許さない!」
「ああ、俺もあんたの事は絶対許さない。クララにしてきた事、シシリーを殺そうとした事も、いろんな令嬢に薬を配ってたこともな!」
「ラルス、後は戻ってからにしろ。」
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とても公爵の屋敷とは思えん…。」
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「良かった…。」
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「兄の友人です。子供の頃は一緒に遊びました。フランシスから守ってくれていました。」
「そうか…。これから大変だな、両親、妹が逮捕されては。」
予想以上に公爵邸は酷かった。
ジュリアーナがこの家に来てから少しずつ変わっていってしまったのだろう。
子供の頃来た事があったが、あの頃はもっと明るくて綺麗な感じだったが、今は煌びやかだが、何か澱んでいる雰囲気が気持ち悪い。
家宅捜査はまだまだ終わらない。
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