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ご褒美
しおりを挟むラルス視点
スーザンが言った通りに封筒にはイザリス家の家紋が型押しされていた。
家紋が入った便箋封筒は、当主、当主代理、いわゆる夫人のみが使えるものだ。
これは決定的証拠と言える。
これで家宅捜査も行える。
そしてクララへの虐待容疑の調査も進む。
やった事を許す気はないが、良くぞ封筒を残したと褒めてやりたいくらいだ。
その時、後ろから、
「私も行きます」
と声をかけてきたのはミッシェルだった。
「ミッシェル、大丈夫か、身体に異常はないか!」
とブライアンが心配している。
ミッシェルは念の為と、睡眠薬と揮発性の高い麻酔薬も嗅がされていたのだ。
「ミッシェル、無理をして後で倒れたら邪魔になるだけだ。」
「さっきまでぐっすり寝ました。頭もスッキリしています。
お願いします。私にも参加させて下さい。
シシリーは私の親友です。
なのに何もシシリーの為にしていません。
お願いします。参加させて下さい。」
「俺からもお願いします。副団長としてミッシェルのフォローはします。
どうかミッシェルを参加させてやって下さい。」
「悪者みたいでしょ、俺が。
身体が大丈夫なら別に良いけど、エドにも確認してね。」
「ありがとうございます。」
「ラルス団長、シシリーの顔を見てきてもいいでしょうか?」
「構わないよ、見てきてあげな。」
ブライアンはシシリーが寝ている部屋を教えてもらい、走っていった。
「シシリーはまだ起きそうもないか?」
「分かりません…ピクリともしません…」
「そうか…」
「でも、シシリーなら目覚めると信じています。」
「そうだな。それにしてもその上着はエドのだろ?どうした?」
「私が眠っていたから掛けて下さったのかと。団長は?」
「少し休ませた。ずっと働き詰めだったからな。家宅捜査まで休めと命令しといた。」
「そうですか、ありがとうございます、ラルス団長。」
「今、エドに倒れられては困るからな。」
「そうですね、イーグルの方は大丈夫なのですか?」
「イーグルの奴等も今回の件は腹に据えかねている。だから大丈夫だ。」
しばらくミッシェルと話していると、ブライアンが戻ってきた。
「お待たせしました。」
「もう良いのか?」
「はい。シシリーの寝顔を見たら安心しました。」
「それでは、行こうか。」
詰所に戻ると、エドがいた。
「ラルス、ありがとう。少し眠ったら頭がスッキリした。」
「なら良かった。話しは聞いたか?」
「今、聞いた。で、封筒はあったのか?」
「あった。イザリスの家紋が型押しされていた。」
ハンカチに包んだ封筒をエドに渡した。
「確かにイザリス家の家紋だ。これで行ける。」
「ナタリアの尋問はどうしますか?」
とブライアン。
「ナタリアの反応が見たいな。」
「やるなら俺も行く。」とエド。
「団長、私も行かせてください。
あの女が何を言うのか、この耳で聞きたいです。」
「家宅捜査が遅くなるが、仕方ないか。」
「商会へ行く時間に家宅捜査を開始するようにしましょう。その間にヤコブとシックス副団長からの報告もあると思いますので。」
「そうだな、それではみんな、朝八時に家宅捜査を始める。そのつもりで準備を怠るな。」
とエドが言う。
「では、実家からも見捨てられたナタリアに会いに行こう」
「こんなに朝早くから何なのよ!」
朝早くから叩き起こされ、機嫌の悪いナタリア。
しかしブライアンを見つけると、
「ブライアン!ようやく助けにきてくれたのね!ニールったら酷いのよ!ちっとも会いに来ない!ブライアン、会いたかったわ。」
「勝手に喋るな。これから尋問を始める。」
ブライアンは一言も喋らず、エドがナタリアを睨みつける。
ミッシェルに至っては射殺さんばかりだ。
ナタリアの真正面に俺が座り、俺の左後ろにエド、右後ろにミッシェルが立ち、ブライアンは二人の後ろに立った。
「ちょっと、ブライアンを前にしてよ!」
「あんたさ、いつまで侯爵夫人のつもりでいるの?」
「はあ?」
「あんたがどんな態度を取ろうがこっちはどうだっていいけど、元貴族で侯爵夫人だった人間とは思えないよね、あんた、淑女教育したの?」
「してるわよ!失礼ね!」
「ハッ、よっぽどウチの三歳の娘の方が淑女らしいから笑っちゃったよ。
こんなに性格の悪さと醜さが顔に出てるから、驚いた。」
「ちょ、何よ、それ!」
「薬使わないとそりゃあ旦那さんも抱けないよな、気の毒に。あ、元旦那さんのことだよ。」
「なんでそれを…」
「さあな、俺達は何でも知ってんだよ、あんたには分からないだろうがな!
頭痛薬?だったかな、あんなに買って使ってんの?すげーなって騎士団で大騒ぎだったよ、ナタリアさん!」
「な、!」
「アレアレ、恥ずかしいの?あんた自身人には言えない恥ずかしい事ばっかしてたのに?羞恥心は持ってたんだ~驚き~。」
「あんた、なんなの!絶対許さないから!」
「ハイハイ、で?許さないからどうすんの?また薬盛るの?誰かにパブロフ商会に行ってもらって今度は何の薬買うの?
自分は何を使ってたの?
先ず媚薬でしょ、後はー、麻薬かな?
その辺り使わないとこうはならないもんね。いつから使ってんの?
何、まさか子供の時からじゃないよね?
使ってたからブライアン追いかけ回してたの?こわ!
だから小さいんだ~小さい時から薬なんかやってからだよ~。バカだなぁ~。」
「や、や、やってないわよ!媚薬だけよ!」
「媚薬は使ってんだね。だよね~。
で、麻薬は?いつから?
いつまで耐えられるかな?ここでは薬なんか手に入らないよ?不安になっても、怖くても、薬には頼れないよ?
ちゃんと答えたらご褒美あげるよ、ほら、正直に言っちゃいな。」
「あ、あ、わた、私はく、く、くすりなんかやってな、いわ、変なこと言って不安にさせないで!」
「不安になってきた?もうあんたの周りには誰もいないよ、薬を買いに行ってくれる使用人はいない。ここにいるのは俺達だけ。
それに後ろにいる三人はあんたを殺したいほど憎んでる。
頼れるのは俺だけ。さあ、どうする?
優しくしてくれるのは俺だけだよ、でも、あんまり待てないんだよね~、俺、忙しいから。
ご褒美、ほしくない?」
「あの、あの、ご褒美って、」
「何が欲しいの?言って。」
「何でもいいの?」
「言ってみて。」
「いつも、飲んでるお薬が、あるの…それが、欲しいの…。ジュリアーナ様から頂いたお薬がないと、眠れないの、だから、」
「ジュリアーナ様ってイザリス公爵夫人のこと?」
「そうよ、私がイライラして眠れないって言ったら、勧めてくれたの。だからご褒美はそれがいいわ。」
「いつから飲んでるの?」
「結婚して五年目くらい」
「そうなんだ。その薬飲むと眠れるの?
後は?気分が良くなるの?」
「ほんの少しの睡眠でも平気なのよ。それにとっても気分がよくなるの。なのに、ブライアンもニールも私を嫌って相手にもしない。」
「そっか。じゃあ今は?どんな気分?」
「今は…怖いわ、あなたが不安になるような事を言うから、怖くて怖くて堪らないわ…。でも、あのお薬を飲んだら安心出来るのよ。だから、持ってきてお願い。」
後ろの三人を見ると、三人とも頷いたので、
「分かったよ、後で行くから待っててもらえるかな。」
「ありがとう、あなたは優しいわ」
「じゃあ、今日はこれで終わるよ、またね」
「ええ、待ってるわ」
ドアの外の警備員にナタリアを戻すように伝え、ナタリアは出ていく。
「待ってるわね、お願いね!」
と何度も言っていた。
バタンとドアが閉まってもしばらく誰も黙ったままだった。
「ジュリアーナ…あの女が元凶だ。」
「確かにナタリアの行動が酷くなったのは五年前くらいからだった。」とブライアン。
「怒鳴りつけようと思ってたのに、途中から驚き過ぎて、何も言えませんでした。」
「ラルス、お前は知ってたのか?」
「いや、カマかけてただけだけど、まさかこんな、綺麗にかかるとは思わなかった。」
「しかし、俺より怖いよ、お前。」とエド。
「私も思いました。なんか自分が追い詰められてるみたいな感覚になりました。」とミッシェル。
「感心しました。勉強になります。」とブライアン。
うん、性格悪いのよ、俺。
嫌いな奴には容赦しないしね。
ジュリアーナ、ようやくお前の尻尾を捕まえたぞ。
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