私は貴方から逃げたかっただけ

jun

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荒れる谷川父

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友利弁護士視点


高校の同級生の谷川から娘の結婚が相手の不貞と浮気相手の妊娠でダメになったから、その事で相談したいと連絡が来た。

たまに会って飲みに行く仲だが、まさか依頼者になるとは思っていなかった。

事務所ではなく、居酒屋の個室を予約し、酒でも飲みながら話しを聞こうと誘った。

谷川は明るくて面白い、クラスの人気者だった。誰とでも仲良くなり、誰にでも話しかけた。
俺は出席番号が谷川の次だったので、すぐに仲良くなった。

大学は別々だったが、付き合いは途切れる事なく今に至るが、こんなに殺気立った谷川は初めて見た。

「おい、凄い顔だぞ、大丈夫か?」
開口一番、そう谷川に声をかけると、

「俺は生まれて初めて殺したい程憎い奴がいっぺんに二人出来た。」と言った。

とにかく何か頼もうと、生ビールと適当なツマミを頼み、ビールを飲んだ谷川は、

「傷付いて大阪に帰ってきた娘は、ストレスで一瞬耳が聞こえなくなった。
そして倒れて救急車で運ばれて、診察終わった後、医者に言われた。
娘さんは妊娠2ヶ月です、だってよ!
ウチでゆっくり身体も心も休ませようと思ったんだ。
なのに!
相手の浮気相手が家に来た。
ずっと家の前にいたのを娘が見つけてしまった。それで、娘は家にはいられなくて友達の家に避難してしまった。
それからは一度も帰ってきていない。
体調が悪くて今は寝込んでるらしい。
もうすぐ結婚式で、娘は本当に幸せそうだったんだ。
娘は何も悪い事なんてしてないのに、なんでここまで傷付けられるんだよ!
耳聞こえなくなるほどのストレスってどんだけなんだよ!
俺は・・・・・アイツらを絶対許さない!」

ここまでを一気に話すと、谷川は悔しさで泣いていた。

俺にも娘がいる。二十歳だが、自分の娘がと思ったら、谷川の悔しさは痛いほど分かった。

「分かった、谷川。俺が弁護する。とりあえず落ち着け、食って飲んで、落ち着いたら最初から話せ。」

谷川は、ビールを追加し、一気に飲むと、落ち着いたのか、

「すまん…お前の顔見たら気が抜けた。家で俺がデカい声でキレたら娘が気にするからな、ずっと気を張ってた。
娘が友達んとこ行ったら、今度は彼氏からの電話と週末になる度家に来ては土下座してる男の相手に、ほとほと疲れた…」

「大丈夫かって、大丈夫ではないわな。
浮気と妊娠は本当なんだな?」

「娘はそう言っている。正直、相手の話しも聞けば良いんだろうが、今は聞きたくない。殺してしまいそうだ…。」

「おい、滅多な事言うなよ。でも、父親の心情としてはそうなるわな。」

「娘は優しくて明るい子なんだ…カミさんに似て賢くて自慢の娘なんだ…。
その娘が…。
彼氏も少し抜けてる所はあるが、明るくて娘を大事にしてくれてる良い奴だと思ってた。なのにあの男は娘を裏切った! 
そして浮気相手に実家まで教えて追い詰めやがった!」

「谷川はまだ相手の話しを聞いてないんだな?」

「ああ、俺一人ではダメだと思ったから友利と一緒にアイツの話しを聞いてほしいんだ。」

「なるほど。お前が話す事が全て真実なら慰謝料ガッポリもらえるレベルだ。
でも、一番厄介なのは、その相手の女だ。
お前の娘さん、えーと、麻美ちゃん?麻美ちゃんに向けての悪意が少し危険だ。
とにかく彼氏の話しを聞く必要があるな。
俺と同席するから一度その彼氏こっちに呼べ。」

「毎週末来るから、その時にでも聞こう。」

「毎週って…そんなに好きなら浮気なんてしなきゃいいのにアホやな。」

「知らん!浮気する男の気持ちなんて俺は知らん!」

その日の谷川は荒れに荒れ、早々にタクシーに乗せ、帰らせた。
週末に谷川の家に行く約束をして。

飲んだ次の日の夜、谷川から連絡が来て、

「娘が一人で高知にいた。倒れて入院してたらしい。今日、娘から連絡が来たらしい。
もう退院はしたらしいが、カミさんが今日高知に向かった。
俺も行きたいが、とりあえずアイツの話しをお前と聞いてからあっちにいこうと思う。
今週の金曜にアイツには大阪に来てもらう。
友利は予定大丈夫か?」

「なんか色々急展開だな。とにかく麻美ちゃんの体調が良くなって良かったな。
金曜は何時頃行けば良い?」

「19時位でいいか?」

「じゃあそれで。お前、大丈夫か?」

「とにかくカミさんが付いててくれるなら安心だ。あの行動力は誰に似たんだか…」

そうして金曜、谷川の家に行き、彼氏の雅彦くんに全てを聞いた。
正直驚いた。
こんな話し聞いた事がなかった。
民事より刑事裁判になりそうな案件だ。

とにかく娘さんの話しも聞きたいし、皆で高知に行く事になったが、俺は一度帰ってから明日出発すると言ってその日は帰った。

谷川達はその日に車で出発するらしい。


そして、俺も午前中に車で出発し、休憩や渋滞などで到着は夜になった。

駐車場に車を止め、娘さんが借りている家に向かっていると、玄関前でウロウロしている女性がいた。

「何かこの家に御用ですか?」

「この家に友人がいると聞いて伺ったんですが…約束はしていなかったので、帰ろうかと思っていた所です。
お客様のようですし、今日は帰ります。」
そう言って帰ろうとしてる女性を、

「私も行きますので、一緒に行きましょう。」
と言って腕をとり、インターフォンをならした。

ひょっとしたらと思ったのだ。



そこからが大変だった。
インターフォン越しでも分かる、奥さんのブチ切れ具合、そして、中でバタバタしている音。
俺が捕まえてる女性は、逃げようと暴れているが、

「あなた、雅彦の浮気相手でしょ?って言うか浮気相手になろうとしてる人が正しいのかな?」

そう言うと、ピタっと固まった。

玄関が開き、

「友利ーーーー!どういう事だ!テメェ、もし分かって連れてきたんなら、どうなるか分かってんだろうなぁーーーーーー!」

「おいおい、弁護士捕まえて脅してどうする。ウロウロしてたから捕まえておいた。」

「ここにはあげない。娘が倒れた。
おい、お前、家に来た女やな、こんなとこまでよう来れるなぁ~そんなに男に縋っとんのか?それとも麻美をとことん追い詰めようってか?
そっちがそのつもりならこっちも弁護士立てて、きっちり片、付けたるわ!
ほら友利、行くぞ、ファミレスでも何処でも良い!とにかくここから離れる!」

「麻美ちゃん、大丈夫か?」

「大丈夫な事あるか!大丈夫じゃねえから離れんだろうが!」

「分かった分かった、落ち着け!」

「俺の車にこの女を乗せるのなんて、絶対嫌だ。友利の車で行こう。」

谷川の怒りが半端ない。
ちょっと失敗したな…帰らせれば良かった。


ハァ~とため息を付いてから三人で俺の車に乗った。















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