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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「金貨300枚」「のった!」
しおりを挟む「なに面白くねー冗談いってんだよ。いくら俺が無断で出てきたからってそりゃないだろ?」
荒れた庭に争った形跡。何か起こったであろうことは予想していたが、まさかの街なかで堂々とした誘拐が行われていたことにロットたちは驚いた。
しかも道を歩いていたとかではなく、おそらく屋敷にパンチがお嬢と呼ぶ人物を目掛けての誘拐だ。
パンチは信じられない様子で声を荒げるが、グロースは深いため息をつき、彼女が襲撃された夜のことを語り始めた。
「冗談ではないわい。昨日の夜、お嬢様も寝入り私たちもそろそろ交代で寝ようと考えていた頃に、なにかが忍び込んでくるのを察知した。侵入者じゃよ。すぐに使用人が集まり対応したが、年寄ばかりで戦闘になってしまうと力が足りんかった。その騒ぎに目を覚ましたお嬢様は私たちを庇って連れて行かれてしまったんじゃ」
彼女は自らの頭に巻かれた包帯と、庭の壊れた銅像を指し示した。パンチの焦りは頂点に達し、今にも飛び出そうとするが、グロースは彼を松葉杖で引き止める。
杖のエッジの部分がパンチの首に引っかかりうまい具合に捕まった。
「ちっとはない頭で考えることじゃな。私達老人ばかりで行っても返り討ちに遭うだけじゃ。しかしほかを頼もうにも、表立って動きづらい。ましてやお主一人で言ってお嬢様の気遣いを無駄にするわけにいくまい」
その言葉に、パンチは困惑し、肩を落としてしまう。ルミナリアの祖父はこの街の裏を牛耳るエグランティーヌ家の頭首だが、ルミナリアについては特に公表していなかった。
それは配慮であり、孫娘を巻き込まんとする親心からであった。なので屋敷自体も一般的には使用人たちの家になっている。
しかしそのせいで今回やすやすと冒険者などに誘拐を救出する依頼なども出しにくいのが現状だった。
そして不幸にもエグランティーヌ家頭首は今街を出ており、帰還は数週間後になる予定だった。そのため直接お家に頼むこともできずに途方に暮れていたのだった。
すると、ロットが一歩前に出て、決意を込めて声を上げた。
「俺たちが協力します!」
ケイトは驚きの声を上げる。
「ちょ、ロット!」
ケイトからしてみればこんなに危ない橋をろくに話を聞かないで了承するのはいただけず、困惑を表していた。それでもロットは助けたい気持ちが優先した。
「俺たちは冒険者でもあるんです。お嬢さんが連れ去られた場所がわかるなら、俺たちが行きます!」
パンチが破顔する。彼はロットの肩を力強く叩き、肩を組んで喜びを分かち合った。
「よく言った、相棒!グロース、こいつらはかなりの実力者だ。俺のお墨付きだぜ」
ロットもフランクに接する兄のような存在は憧れの一つだったのでまんざらではないようだった。グロースはパンチの言葉に冷ややかに答える。
「ふん、お前の墨なぞつくほうが価値が下がるわい。しかし、その申し出ありがたい。是非お願いしたいのじゃが、これしか用意できんが、構わんかな?」
グロースは指を前に3本立ててみせた。
「おー、金貨3枚っすね」
エレナがそれを見て呟くが、グロースは首を振る。
「いやいや、金貨300枚です」
ケイトはその額に目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。夢のような大金をまた手に入れるチャンスに慎重さはあっという間に破壊された。
「さささ、300枚!?!グロースさん、私たちにお任せください!是が非でも救出してみせますから!」
その瞬間、ケイトは急に愛想良くなり、ロットは呆れた表情でそのやりとりを見つめていた。
屋敷の中に入ると、唯一の怪我人はグロースだけだった。話によると、グロースは杖をもち、賊を3人相手に大立ち回りだったらしい。他の使用人たちはルミナリアが自ら止めたおかげで無事だった。その話に、パンチは感動し、感謝の言葉を漏らす。
「さすが、お嬢。俺がいなくてもみんなを守ってくれたんだな」
太陽を全身で浴びるような仕草だった。少しナルシズムてきなパンチは喜びもつかの間冷静になる。
「それで、お嬢を連れ去ったのはどこのどいつだ?」
グロースは重々しい声で答えた。
「おそらく、マヤの山を根城とした山賊の仕業じゃな」
「マヤの山賊っていやぁ、レナとかいう女頭がいるとこだよな?」
「そうじゃ、悪しきに逆らう義賊かと思っておったが、人攫いなど堕ちたものよ」
マヤの山賊、恵まれない子どもなどに貴族から略奪したモノを分け与える義賊と呼ばれるモノたち。それが人さらいをしているなど、きっと街の人も信じないだろう。
その話を聞かされてロット達は誰にも話さずこのメンバーだけでの救出を試みることにした。
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