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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「パンチもろとも!」
しおりを挟む山賊たちの住処はその名の通り山にあった。道中には魔物もいたが、ロット達は危なげなく突破して山賊たちが潜む根城までやってきた。
木々が切り倒され、見晴らしの良くなった山賊の根城。その荒涼とした風景を見下ろすように、ロットたちは崖上から様子を窺っていた。洞窟のようにえぐられた入口には、山賊たちが何人もたむろしており、緊張が一層高まる。
「結構、人数いるっすね」
エレナが軽くつぶやいた。その声には若干の不安、もとい面倒くささがにじんでいる。
「そうね、これじゃ少し面倒ね。中にもまだいるかもしれないしどうにか出てきてほしいものね」
ケイトの魔法であれば洞窟を潰すことは容易だったが、その場合は死人が出かねないし、ましてやルミナリアも無事ではないだろう。
つまり一網打尽にしなければいけないので、おびき出す必要があった。
どちらにせよ魔法を使うことは必須なので手を差し出した。ロットは無言で頷き、躊躇なくその手を握り返した。
「お、おい! 根城を前に緊張するのはわかるけどよ。手なんてつないでどうしちまったんだ?まさかお前ら、そういう関係か?」
魔力譲渡を知らないパンチが見ないように目を手で隠しながらそういった。突拍子もない推測に、ロットは顔を赤くしながらすぐさま否定する。
「ち、ちがうよ!俺の魔力をケイトに譲渡してるんだ。この指輪を通じてね。」
言いながら、ロットは自分の指にはめた指輪を示す。ケイトはと言うと、冷たい目でパンチを睨みつけた。
「妙なこと言ったら、この魔法をあんたにぶつけるわよ」
「ひっ……」
ケイトの鋭い一言にトラウマを思い出したパンチは縮こまる。しかし、次の瞬間、再び威勢を取り戻したように両腕を回し始めた。
「よーし、ここは俺様が——」
それ以上の言葉を発する間もなく、パンチは崖から勢いよく飛び降りる。そのままの勢いで、彼は山賊たちに素手で突進していった。一撃を放つと気絶するかに思われたが、魔力を使った一撃ではない場合は気を失うことはなかった。
「バカ!」
既に降りて戦うパンチにケイトが小さく呟いたが、すでに止めようもなかった。
「一人で降りちゃったっすね」
エレナが少し焦った様子で眺めている。パンチは山賊たちと乱闘を繰り広げていた。一撃で気絶する姿から情けないほどの弱さをイメージしていたロット達だが、山賊相手に素手一本で渡り合っているあたりただのデクの棒ではなさそうだった。
「うわぁ……殴り合いだあ」
とはいえおびき出すことさえできればケイトが一網打尽に敵を戦闘不能にしていただろうから、ロットは唖然とした表情でその光景を見つめていた。
洞窟から次々と山賊が飛び出してくる。結果オーライとはいえパンチは囮として最高の立ち回りをしていた。
「オラオラオラァ。まだまだかかってこいやぁ!!」
山賊は剣を使っているのにも関わらず怯える様子なく突っ込んでいっている。むしろ山賊側がパンチの猪突猛進ぶりに引いていた。
ケイトはタイミングを計って呪文を唱え始める。
「でも、これだけ集まってくれればちょうどいいわ」
魔力がどんどん練られて空気がピリピリとした緊張感に包まれた。殺さないように、かつ戦闘不能を意識しているため普段よりも魔法の構築に時間をかけた。そして用意が整うと両手を前に呪文を叫んだ。
「痺れ池!」
「え?」
崖上から放たれた黄色い水は根城一帯を埋め尽くすような巨大さで、自分たちの影を奪った魔法の存在に気が付き盗賊は呆然とし、まさか自分もろとも攻撃するとは思わなかったパンチは気の抜けた声を出して攻撃の手を止めた。
時間が止まったかのようにみんな動けなくなっていきケイトの魔法が炸裂する。
山賊たちは次々と痺れて地面に崩れ落ちていった。パンチを取り囲んでいた圧倒的な数の山賊が、一瞬にして無力化される光景に、ロットは感嘆の声を上げる。
「さすがケイト……って、パンチも痺れちゃってるよ!」
ロットの言葉に、ケイトはちらりとパンチを見たが、特に気にした様子はない。
「とにかく、降りましょう。」彼女は冷静に指示を出し、ロットとエレナは彼女に続いた。
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