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一章 魔法戦士養成学校編

正しい道……?

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「驚いたな。君達まで退学になりたいのかな?」

 流石にマリアンヌとスージィの二人までもが参戦してきた事は完全に予想外だったらしい。デヴィッドが女子生徒二人に向き直り、呆れた顔をする。

「このバカ共が! アタシの事でお前らが道を踏み外す事ァねえ! この学校を卒業出来れば、最低でも王立軍に編入されるのは規定路線なんだぞ!」

 確かにシンディの言う通りで、魔法戦士クラスを卒業すれば王立軍の指揮官候補、戦士養成クラスでも卒業すれば優先的に王立軍に編入される。各地の領主が抱える軍や戦の都度徴兵される兵とはスタート地点からして違うのだ。
 それを蹴ってまでシンディを救おうという彼等の行動は、彼女には如何にも若気の至りに見える。

「うらぁぁ!」

 そんなシンディの思惑なんぞ知った事かと、チューヤが殴り掛かる。デヴィッドは間一髪それを躱し、後ろに飛び退き距離を置いた。

「バカにしやがって。そんな『道』なんぞ知った事か。テメエの大事なモンを守るのに肩書きが必要かぁ?」

 チューヤは拳を握りながら笑みを浮かべシンディへと振り返る。
 彼の思考は至って単純。軍での階級や所属が何になるというのか。結局敵を倒すのは自分自身の力だろう。それがチューヤだ。恐ろしく局地戦的思想ではあるが、一兵士としては正解である一面もある。

「穿て、水流弾!」

 続いてカールのワンドの先端の魔法陣が輝きを増し、螺旋状に渦巻いた水流がでデヴィッドに襲い掛かった。

「そこの阿呆は単純過ぎる。身分や肩書きで守れるものもあるのだぞ? だが、己の誇りを捨ててまで必要なものかと問われれば、それは否だ!」

 そう叫ぶと同時に、カールが二発目の水流弾を放つ。身分でも肩書きでもなく、最後に守るべきは己の誇り。それを捨て去ったデヴィッドなど、何の価値もないとばかりに高威力の魔法を叩き込む。
 デヴィッドはそれを、咄嗟に出現させた炎の壁で威力を殺し、水蒸気に紛れて場所を変えた。
 
「ボクはどっちかっていうと、チューヤの意見に賛成かな?」

 マリアンヌは、まるでデヴィッドの回避する場所を予測していたようにその場へ移動していた。そして双剣で斬撃を叩き込む。

「くっ! 落ちこぼれ共が調子に乗りおって!」

 その斬撃を折れて二本になってしまった鋼鉄製の杖で辛うじて受け流したデヴィッドは、身体強化に魔力を振り分け、大きく後方に飛び跳ねた。
 もちろんマリアンヌの魔眼・つくもはそれを追えていたが、残念ながら身体強化されたデヴィッドの能力は、マリアンヌのそれを大きく上回っていたため追撃は叶わなかった。
 魔法戦士クラスの教官とは言え、通常の身体強化も一般生徒とは比べものにならないものを持っている。だからこその教官なのだが。

「私、教官のそういう見下す態度が大っ嫌いだったの!」

 マリアンヌから距離を取り反撃に出ようとするデヴィッドに石礫いしつぶてが数発叩き込まれた。
 それを杖で叩き落しながら、デヴィッドが尚も追撃を放とうとしているスージィに向けて残念そうに語る。

「まさか君にまで嫌われているとは残念だよ」
「だってあなたに教わるより、シンディ教官に教わってる方が、絶対強くなってるじゃない!」

 ハナから桁外れのチューヤは別格、超エリートのカールもまあ止む無し。しかし脳筋クラスと揶揄される中でも無名だったマリアンヌですら、自分が相手にもならない程強いとは思いもしなかった。 
 カールが抜けた今、魔法戦士クラスでは最強と自負していた自分がまるで歯が立たない。与えられた環境の中で、努力を怠ったとは思えない。それならばこの成長の差は何故か。

「君が負けたのが僕のせいだとでも?」
「違うのかしら?」
「君が負けたのは君が弱いからだr――うぶっ!?」

 あくまでも勝負の結果はスージィ個人の資質によるものだと主張するデヴィッドは、最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。

「もういいだろ。テメエはアタシがぶっ殺す。その上で、アタシの大事な弟子たちは守ってやンよ」

 そこには憤怒の表情で拳を振り抜いたシンディがいた。ぶっ飛ばされたデヴィッドは鼻血を流しながら蹲っている。そこへ尚も飛び掛かろうとするシンディへ、優しく肩を叩いて止める者がいた。

「やめとけよ。師匠は学校に必要な人だ。師匠が学校辞めちまったら、今の脳筋クラスの奴らはどうなるんだよ?」

 いつもと違って穏やかな、しかしどこか覚悟を決めたような緋色の瞳は、シンディの追撃を思い止まらせた。

「チューヤ、お前……」
「けど、師匠が俺達の事を思ってそこまでしてくれたのは、マジで嬉しかったッスよ」

 そうだろう? とばかりにチューヤが周囲に視線を向ければ、いつの間にか集まった、カール、マリアンヌ、スージィの姿も。

「しかし、お前ら……」

 退学になっちまったら、この先どうするんだとでも言いたげなシンディの顔を見て、四人がそれぞれ答えていった。

「なあに、俺は一人だ。どうとだってやっていけるさ」
「私の今回の行動は、父上も母上も称賛して下さるだろう」
「ボクは、まあ、お仕事探してがんばるかな?」
「私は……叱られるだろうなぁ……」

 そう言いながら、四人はデヴィッドを包囲するように四方に飛ぶ。

「おっしゃ、覚悟は決まったな? いくぜ!」

 チューヤの号令と共に、四つの攻撃がデヴィッドに襲い掛かった。



 
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