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一章 魔法戦士養成学校編

事の顛末を説明しやがれ

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「何がどうなったら俺達が教官共と模擬戦やらなきゃならねえんだよ?」

 一同の疑問は今のチューヤの言葉に集約されているだろう。一体何がどうなったらそういう展開になってしまうのか。
 そこでシンディは事の顛末を話し始めた。
 まず、訓練生レベルでは到底討伐不能な敵であるバーサク・ベアとバーサク・エイプ。それを生徒がほぼ単独で倒してしまった。それに対して、シンディの介入が疑われた。
 生徒の危機に際して教官が介入する事は特に問題ではない。しかし彼女は生徒の戦果を正当に評価してもらいたかった。故に、自らの介入という疑惑を断固として否定した。まあ、それが事実でもあるのだから仕方がないが。
 しかし、それならば訓練生如きがどうやって強敵を倒したのかという話になる。
 そこでシンディはやむを得ず、チューヤが纏魔てんまを使った事を明らかにした。しかしそれが逆効果だった。

「つまり、やっかみじゃねえか……」

 チューヤがそれだけ口にしたあと、絶句した。
 つまり、チューヤが纏魔てんまを使った事が信じられない。よって、先ごろの実戦演習での戦果はシンディの介入あってのものだ。そういう意見が大半を占める。シンディの言い分と真実など、どうでもいいかのように。
 そもそも、纏魔の使い手というのは国家にとっても重要人物だ。それだけレアで難易度の高い技なのである。『魔法』、『身体強化』とはまた違った技術であるが、『纏魔』は努力や才能だけではどうしようもない部分がある。故に、その使い手は軍部においても重要なポジションに就く事になる。
 そのような重要人物が落ちこぼれの巣窟の脳筋クラスから排出されるなど、あってはならない事なのだろう。だから連中は決してチューヤの功績を認めないのだ。

「実際その目で見ねえと納得いかねえって奴らばっかりでな。学校長もその意見に折れちまった」

 もちろん、カールが放った一撃でバーサク・エイプを屠ったという大出力魔法も信用はされていないし、学校長もチューヤの纏魔については懐疑的だという事もある。

「……はぁ」

 もうこうなるとチューヤもため息をつくしかない。校長が許可を出したのではやるしかないのだろう。

「え……と、ボクも?」
「お前もチームで動いてっからな。連帯責任だそうだ」
「えぇ……」

 マリアンヌにしてみれば、優秀な二人と一緒のチームにいたが為のとばっちり。そう思っていた。しかしこれは、実はシンディの陰謀だ。
 シンディから見て、マリアンヌの素質も二人に勝るとも劣らないという印象だ。魔力を目視できるほどの視力強化。そして今日見せた回避能力。そんな彼女も自分の手で育ててみたい。そんな欲求がふつふつと湧き上がってきたのだ。
 事の成り行きは到底納得できるものではないが、チューヤとカール。そしてマリアンヌという原石を自らの手で育てる機会を得た事だけは、エリートクラスの教官共に感謝するシンディだった。

「よっし、じゃあ、訓練すんぞー」

 食後の紅茶を喫してから二時間ほど休憩を挟み、ニヤリと口を歪めたシンディがそう言ったのは、もう夜もとっぷりと暮れた頃だった。
 チューヤだけはその言葉にビクリと反応したが、他の二人はきょとんとしている。

「おら、モタモタしねえで裏庭へ移動しやがれ!」

 先に裏庭へと駆けだしたチューヤを呆然と見送っているカールとマリアンヌに、シンディの怒声が響き渡った。






「こ、これがなの? はぁ、はぁ……」
「バ、バカヤロ、喋ってると追加されンぞ……」

 裏庭で三人が行っていたのは筋力トレーニングだ。先程から約一時間、ずっと腕立て伏せをやらされている。そのキツさに耐えかねたマリアンヌがそっとチューヤに呟くが。

「あぁ? 喋る元気があるンならお前らもう二セット追加な!」
「ほらみろバカ!」
「あぅ……」
「はい、チューヤ、もう一セット!」
「「……」」

 その頃には、カールは早々に気を失って大の字になって伸びていた。

▼△▼

「フフフ。たかが生徒の分際で纏魔などとバカな事を。そんな者が落ちこぼれクラスにいる訳がない」

 とある貴族の屋敷の一室。豪華なソファに座りながらグラスの中のワインを回し、その芳醇な香りを楽しんでいる男がほくそ笑む。

「この僕の求愛を撥ね付けるなんてバカな女さ! 今度の模擬戦では、彼女の愛弟子を徹底的に痛めつけて、泣いて詫びを入れさせてやろう」

 グラスから一口、中の赤い液体を喉に流し込むと、昏い光が瞳に宿る。

「その上で、彼女の方からこの僕にプロポーズさせてやろう……クックック……ハーッハッハ!」

 緩くウェーブのかかったブロンドヘアを揺らしながら、含み笑いが次第に高笑いに変わっていくデヴィッドだった。

 
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