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「仕方ないんで、今日はこれで大人しく帰りますよ」
やれやれといった風に肩を竦め、蘇芳は床に置いてあった荷物を取り帰り支度を始めた。
「これ以上の厄介事は御免被りたいんだけどね……仕方ないからもうしばらくは付き合ってあげるよ」
「そりゃどうも」
紫藤の言葉に苦笑しながら答えた蘇芳は、律に向き直りその顔を遠慮がちに眺めている。見られていることに少し居心地が悪い感じはしたが、この男が望の番なのだと言うことに興味が沸いてしまい、律も許される範囲で蘇芳の様子を伺っていた。
タイミングよく紫藤の腕からも解放されたこともあり、蘇芳との距離が近くなる。
「双子、じゃあないんっすよね」
「よく間違われますけど、従兄弟ですよ」
律越しに望の姿を見ているのだろうか、蘇芳の視線はとても優しいものだった。些かくすぐったかったが、それは望がこの男に愛されている証拠でもあるので。
「望がきみに会いたがってたんで、今度また相手してやってくれますかね?」
「勿論ですよ。僕も会って色々話しがしたいですし」
「そりゃあ良かった」
にこりとした笑顔は、誰かと違いってしっかりと感情がこもっているものだった。その笑顔につられて、律も思わず微笑んだ。この笑顔を向けられている望は、正直に言って羨ましいと感じてしまう。
そんな律の頭を撫でようと伸ばされた蘇芳の手は、律が再び紫藤に腕を引かれたことにより、行き場がなくなり宙を彷徨う。
「わっ」
「梔月、下に車を待たせているんじゃないのか?」
珍しく露骨な態度を取る紫藤に、蘇芳は困ったように笑いながら肩をすくめ、律は目をぱちくりとさせる。
「はいはい、邪魔者は退散しますよ」
そんな態度には慣れているのか、蘇芳は気にも止めることなくひらひらと手を振って返す。
「じゃあ、また連絡するんで」
そう言い残し、律に手を振って蘇芳は部屋を出て行った。蘇芳の気配がなくなってからも暫く沈黙が続いていたが、紫藤の溜息によってその沈黙が破られる。
「ふぅ……」
「あの、紫藤さん」
「ん? どうかしたかい?」
首を傾げながら律を見る紫藤の表情は、いつもと変わらない笑みを携えていた。ただ、目の下に薄らと隈があり、疲れている様子は窺い知れる。
「えっと、そろそろ手を離してほしいなって」
「あぁ、すまないね……」
言えばすぐに紫藤は腕を解放してくれた。余りにあっさりと離してくれたので、少々名残惜しさを感じてしまったが。
そんな律を他所に、紫藤はリビングのソファーに座り込むと着ていたスーツのネクタイを緩めた。それだけの動作なのにどこか色気があり、律は思わず見入ってしまう。それに気付いた紫藤にくすりと笑われ、慌てた律は顔を赤くしながらそれを誤魔化すように買い物袋の中身を冷蔵庫へと突っ込んだ。
やれやれといった風に肩を竦め、蘇芳は床に置いてあった荷物を取り帰り支度を始めた。
「これ以上の厄介事は御免被りたいんだけどね……仕方ないからもうしばらくは付き合ってあげるよ」
「そりゃどうも」
紫藤の言葉に苦笑しながら答えた蘇芳は、律に向き直りその顔を遠慮がちに眺めている。見られていることに少し居心地が悪い感じはしたが、この男が望の番なのだと言うことに興味が沸いてしまい、律も許される範囲で蘇芳の様子を伺っていた。
タイミングよく紫藤の腕からも解放されたこともあり、蘇芳との距離が近くなる。
「双子、じゃあないんっすよね」
「よく間違われますけど、従兄弟ですよ」
律越しに望の姿を見ているのだろうか、蘇芳の視線はとても優しいものだった。些かくすぐったかったが、それは望がこの男に愛されている証拠でもあるので。
「望がきみに会いたがってたんで、今度また相手してやってくれますかね?」
「勿論ですよ。僕も会って色々話しがしたいですし」
「そりゃあ良かった」
にこりとした笑顔は、誰かと違いってしっかりと感情がこもっているものだった。その笑顔につられて、律も思わず微笑んだ。この笑顔を向けられている望は、正直に言って羨ましいと感じてしまう。
そんな律の頭を撫でようと伸ばされた蘇芳の手は、律が再び紫藤に腕を引かれたことにより、行き場がなくなり宙を彷徨う。
「わっ」
「梔月、下に車を待たせているんじゃないのか?」
珍しく露骨な態度を取る紫藤に、蘇芳は困ったように笑いながら肩をすくめ、律は目をぱちくりとさせる。
「はいはい、邪魔者は退散しますよ」
そんな態度には慣れているのか、蘇芳は気にも止めることなくひらひらと手を振って返す。
「じゃあ、また連絡するんで」
そう言い残し、律に手を振って蘇芳は部屋を出て行った。蘇芳の気配がなくなってからも暫く沈黙が続いていたが、紫藤の溜息によってその沈黙が破られる。
「ふぅ……」
「あの、紫藤さん」
「ん? どうかしたかい?」
首を傾げながら律を見る紫藤の表情は、いつもと変わらない笑みを携えていた。ただ、目の下に薄らと隈があり、疲れている様子は窺い知れる。
「えっと、そろそろ手を離してほしいなって」
「あぁ、すまないね……」
言えばすぐに紫藤は腕を解放してくれた。余りにあっさりと離してくれたので、少々名残惜しさを感じてしまったが。
そんな律を他所に、紫藤はリビングのソファーに座り込むと着ていたスーツのネクタイを緩めた。それだけの動作なのにどこか色気があり、律は思わず見入ってしまう。それに気付いた紫藤にくすりと笑われ、慌てた律は顔を赤くしながらそれを誤魔化すように買い物袋の中身を冷蔵庫へと突っ込んだ。
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