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会話の内容こそ聞き取れはしないが、時折紫藤ではない声が紫藤に対して物申しているのは聞いて取れた。
(うーん、入り辛い)
察するに、真面目な話をしているのだろう。流石にそれは律でも肌で感じることができる。だからこそ、その場から動けずにどうしたものかと悩んで立ち竦んでしまう。
律が悩んでいると、それを見越してかリビングのドアが開いて紫藤が顔を覗かせる。
「気にせずに入ってくればいいのに」
久しぶりに見た紫藤は、いつもと同じように穏やかな笑みを顔に貼り付けていた。不覚にもその姿にホッとして、顔が緩んでしまう。
「あ……えっと、お話の邪魔したらあれかなって」
「それこそ、キミが気にすることじゃないよ。丁度お客人も帰る頃合だから、尚更かな」
「まだこっちの話しは終わってないんですけどね」
紫藤の後ろに見える男は、腕を組みながら呆れたように紫藤を見て溜息を吐いていた。服装こそキレイめのスーツではあるが、赤味の強い髪を後ろで一つに結った男の顔には頬と鼻に大きな傷があり、一見して強面で近寄りがたい雰囲気がある。
ここで律の中で点と線画結びついて、厄介事の元凶は目の前で微笑んでいるこの男だったのだと気付いたが、時すでに遅しだった。下に止まっていた車、そしてどう見てもカタギではなさそうな男と黒スーツの男たち。きっと繋がっているのだろう。
「――望? なんで、ここに……」
素性のわからない男に怯えていると、男の口から予想もしていなかった言葉が飛び出し、律は驚きに目を見開いた。
「どうして望を知って――っ!」
少し前、望と会った日のことを思い出す。帰り際に見た黒い高級車と赤毛の男、もしかすると、この男はあの時に望を迎えに来た男なのではないだろうか?
「あなた、もしかして……うわ!」
「残念だけど、この子はお前のじゃないよ梔月」
急に腕を引かれ、紫藤の胸へ倒れこむ。倒れ込んだ拍子に鼻をぶつけてしまい、文句の一つでも言ってやろうかと腕を引いた本人を見れば、男に向ける紫藤の笑みは少し冷ややかなものに変わっていた。
「悪かったっすよ、あんまり似てるもんだから驚いただけですって」
紫藤からの視線に、赤毛の男――蘇芳梔月は困ったように笑う。その表情は先程までの強面のイメージを崩すには十分で、随分と優しい顔つきになっていた。
「まさか、望の従兄弟の同居人があんただったなんて」
「お前に言う必要もないだろう?」
口調からして、二人は親しい間柄なのだと想像はつく。それよりも、未だ紫藤に腕を掴まれた状態で抜け出せない律は展開について行けずに困惑していた。
「ほんと、相変わらずっすね。そんなんじゃ、その子に愛想尽かされますよ」
「自分を棚に上げるのはどうかと思うけどね」
古典的な表現かもしれないが、紫藤と蘇芳の背後には虎と龍が見えるような気さえした。どうやら仲はあまり良くないようだ。
(いや、それよりこの状況から開放されたい!)
紫藤の胸に抱かれた状態で二人の間に挟まれ、状況もよく分からず居た堪れない律は途方に暮れる。
(うーん、入り辛い)
察するに、真面目な話をしているのだろう。流石にそれは律でも肌で感じることができる。だからこそ、その場から動けずにどうしたものかと悩んで立ち竦んでしまう。
律が悩んでいると、それを見越してかリビングのドアが開いて紫藤が顔を覗かせる。
「気にせずに入ってくればいいのに」
久しぶりに見た紫藤は、いつもと同じように穏やかな笑みを顔に貼り付けていた。不覚にもその姿にホッとして、顔が緩んでしまう。
「あ……えっと、お話の邪魔したらあれかなって」
「それこそ、キミが気にすることじゃないよ。丁度お客人も帰る頃合だから、尚更かな」
「まだこっちの話しは終わってないんですけどね」
紫藤の後ろに見える男は、腕を組みながら呆れたように紫藤を見て溜息を吐いていた。服装こそキレイめのスーツではあるが、赤味の強い髪を後ろで一つに結った男の顔には頬と鼻に大きな傷があり、一見して強面で近寄りがたい雰囲気がある。
ここで律の中で点と線画結びついて、厄介事の元凶は目の前で微笑んでいるこの男だったのだと気付いたが、時すでに遅しだった。下に止まっていた車、そしてどう見てもカタギではなさそうな男と黒スーツの男たち。きっと繋がっているのだろう。
「――望? なんで、ここに……」
素性のわからない男に怯えていると、男の口から予想もしていなかった言葉が飛び出し、律は驚きに目を見開いた。
「どうして望を知って――っ!」
少し前、望と会った日のことを思い出す。帰り際に見た黒い高級車と赤毛の男、もしかすると、この男はあの時に望を迎えに来た男なのではないだろうか?
「あなた、もしかして……うわ!」
「残念だけど、この子はお前のじゃないよ梔月」
急に腕を引かれ、紫藤の胸へ倒れこむ。倒れ込んだ拍子に鼻をぶつけてしまい、文句の一つでも言ってやろうかと腕を引いた本人を見れば、男に向ける紫藤の笑みは少し冷ややかなものに変わっていた。
「悪かったっすよ、あんまり似てるもんだから驚いただけですって」
紫藤からの視線に、赤毛の男――蘇芳梔月は困ったように笑う。その表情は先程までの強面のイメージを崩すには十分で、随分と優しい顔つきになっていた。
「まさか、望の従兄弟の同居人があんただったなんて」
「お前に言う必要もないだろう?」
口調からして、二人は親しい間柄なのだと想像はつく。それよりも、未だ紫藤に腕を掴まれた状態で抜け出せない律は展開について行けずに困惑していた。
「ほんと、相変わらずっすね。そんなんじゃ、その子に愛想尽かされますよ」
「自分を棚に上げるのはどうかと思うけどね」
古典的な表現かもしれないが、紫藤と蘇芳の背後には虎と龍が見えるような気さえした。どうやら仲はあまり良くないようだ。
(いや、それよりこの状況から開放されたい!)
紫藤の胸に抱かれた状態で二人の間に挟まれ、状況もよく分からず居た堪れない律は途方に暮れる。
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