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「コーヒーでも淹れます?」
「そうだね、お願いするよ」
ドリップコーヒーにお湯を注ぎ、出来上がるのをゆっくりと待つ。その間部屋は沈黙に包まれているが、一人の時に感じた静けさとは違って嫌な気はしなかった。
紫藤は携帯で文字を打ち込んでいるのがチラリと見えた。先程の蘇芳とメールでやり取りでもしているのかもしれない。
蘇芳といえば、紫藤と彼はどういった関係で何の繋がりがあるのだろうか? 人の交友関係をあれこれ詮索するのは趣味ではないが、蘇芳は望の番だ。もしも蘇芳が見た目通りの職業の人だとしたら、望は危ない目に合わされていないだろうか?
(我ながら想像力がすごいなぁ)
ああだこうだと想像しながらも、律の手は器用に動いている。出来上がったコーヒーを紫藤の元へと運べば、湯気の立つマグカップを笑顔で受け取った。
「ありがとう」
「いえ、僕も飲みたかったですし」
急な来客でバタバタとしてしまっていたが、紫藤の近くにいても変に緊張することはなく至って普通に過ごすことが出来ている。
逆にあの来客があったからこそこの状況をつくれたのだとすれば、蘇芳には感謝をしたくなってしまう。
「律くんは、梔月と面識があったのかい?」
「いえ……以前一度だけ遠目から見た程度ですね」
ふうふうとコーヒーを冷ましながら、紫藤の質問に答える律。そんな律を他所に、紫藤は普通にコーヒーを飲んでいる。
「その、蘇芳さんって……紫藤さんと同じお医者さん、とかですか?」
ヤのつく危ない職業の方ですか? とは聞けず、当たり障りなく聞いてみた。
仕事絡みであれば、紫藤と同じ医者という可能性もないわけではないだろうと踏んでみたが、問を投げた相手はまさかと言った風に笑う。
「梔月は輸入会社を経営してるただの弟だよ」
「へぇー、会社経営……って」
経営者という事は肩書きは社長という事だ。凄い知り合いが居たものだと関心しそうになったが、その後聞こえたセリフに飲んでいたコーヒーが器官に入って噎せてしまう。
「っ、紫藤さ……弟いたんですか?」
「腹違いだけどね」
涙目になりながら聞き返せば、更に重要なことをしれっと言ってのけた。
人様の家の事情など知りはしないが、比較的大事なことをそんなに簡単に話してしまって問題がないのだろうか。聞いていた律の方がハラハラしてしまう。
「君たちのように仲良くはないさ」
あのやり取りを伺えば、仲がよろしくないのは一目瞭然だ。そもそも、紫藤が誰かと仲良くしている姿すら律には想像が難しい。
「梔月のことは気にしなくて良いよ。きっとここへはもう来ないだろうからね」
向けている感情はどうであれ、珍しく他人に対して感情を顕にしている紫藤。離れていた間、一体蘇芳との間に何があったのか。気にはなるところだが、聞いてもはぐらかされることは間違いないので、律は話題を変えようとテレビの電源を入れた。
「そうだね、お願いするよ」
ドリップコーヒーにお湯を注ぎ、出来上がるのをゆっくりと待つ。その間部屋は沈黙に包まれているが、一人の時に感じた静けさとは違って嫌な気はしなかった。
紫藤は携帯で文字を打ち込んでいるのがチラリと見えた。先程の蘇芳とメールでやり取りでもしているのかもしれない。
蘇芳といえば、紫藤と彼はどういった関係で何の繋がりがあるのだろうか? 人の交友関係をあれこれ詮索するのは趣味ではないが、蘇芳は望の番だ。もしも蘇芳が見た目通りの職業の人だとしたら、望は危ない目に合わされていないだろうか?
(我ながら想像力がすごいなぁ)
ああだこうだと想像しながらも、律の手は器用に動いている。出来上がったコーヒーを紫藤の元へと運べば、湯気の立つマグカップを笑顔で受け取った。
「ありがとう」
「いえ、僕も飲みたかったですし」
急な来客でバタバタとしてしまっていたが、紫藤の近くにいても変に緊張することはなく至って普通に過ごすことが出来ている。
逆にあの来客があったからこそこの状況をつくれたのだとすれば、蘇芳には感謝をしたくなってしまう。
「律くんは、梔月と面識があったのかい?」
「いえ……以前一度だけ遠目から見た程度ですね」
ふうふうとコーヒーを冷ましながら、紫藤の質問に答える律。そんな律を他所に、紫藤は普通にコーヒーを飲んでいる。
「その、蘇芳さんって……紫藤さんと同じお医者さん、とかですか?」
ヤのつく危ない職業の方ですか? とは聞けず、当たり障りなく聞いてみた。
仕事絡みであれば、紫藤と同じ医者という可能性もないわけではないだろうと踏んでみたが、問を投げた相手はまさかと言った風に笑う。
「梔月は輸入会社を経営してるただの弟だよ」
「へぇー、会社経営……って」
経営者という事は肩書きは社長という事だ。凄い知り合いが居たものだと関心しそうになったが、その後聞こえたセリフに飲んでいたコーヒーが器官に入って噎せてしまう。
「っ、紫藤さ……弟いたんですか?」
「腹違いだけどね」
涙目になりながら聞き返せば、更に重要なことをしれっと言ってのけた。
人様の家の事情など知りはしないが、比較的大事なことをそんなに簡単に話してしまって問題がないのだろうか。聞いていた律の方がハラハラしてしまう。
「君たちのように仲良くはないさ」
あのやり取りを伺えば、仲がよろしくないのは一目瞭然だ。そもそも、紫藤が誰かと仲良くしている姿すら律には想像が難しい。
「梔月のことは気にしなくて良いよ。きっとここへはもう来ないだろうからね」
向けている感情はどうであれ、珍しく他人に対して感情を顕にしている紫藤。離れていた間、一体蘇芳との間に何があったのか。気にはなるところだが、聞いてもはぐらかされることは間違いないので、律は話題を変えようとテレビの電源を入れた。
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