王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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種明かし

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抉りとられた大地、巨大な魔法陣と『穴』
青く光る溝。それらを前にして私は、
一体どのくらい呆然としていたのだろう。

ようやく思考が戻ってきた。

──知らせなきゃ。

王女宮が消失した事を知らせなきゃ。
ふらつきながら立ち上がる。

女神像の庭へと転移する。
──そんなに時間は経っていない?

そこにはまだ、国王陛下にグレン様。
マクドネル卿に黒竜、青竜がいた。

「アニエス?どうした!」

私の顔を見たグレン様が駆け寄ってくる。
震えが止まらない。
姫様、アイリスさん、アルマさん。
……どうなってしまったの。
ポロポロ涙が溢れる。
グレン様にしがみついた。
そうしていないと立っていられない。


「王女宮が……王女宮がありません。
跡形もないんです。一体、何があったの……」

「は?ない?王女宮がか?」

「まるで抉りとられたようです。
巨大な魔法陣と大きな『穴』がありました」

『穴』──そうだ、青竜!!

青竜は絶対に何か知っている。
青竜に問い質そうとすると突然、国王陛下が
笑い出す。

「くっ!マジか!あははは!!」

え?何?

「ぷ、ははは!くっ!笑うなアルバート」

え?何?グレン様まで笑い出した。

「いや、お前も笑ってるって!ふふ!」

「「あはははは!!」」

大笑いする国王陛下とグレン様。
私とマクドネル卿。竜達はぽかんとした顔
で二人が笑っているのを見ている。

「あ~。とうとうやったか。十二年か。
長かったなぁ。ははは!くそ。ロイの奴!
何か事を起こすなら先に知らせろよな」

「ふ、アルバート。笑ってないで、さっさと
キルバンに問い合わせろ。まあ、あの人の
仕業だとは思うが、帝国の可能性も
わずかだがあるからな」

「あ、それはない。ないない。間違いなく
ロイシュタールの仕業だよ」

青竜が二人の会話に割り込む。
国王陛下とグレン様は互いに頷く。

「さて、詳しい話を聞こうか?青竜」


グレン様がとてもいい笑顔で青竜に尋ねる。
立ち話も何だからと王宮へと戻り、
席を設けた。
お茶を淹れてもらい、人心地つく。
その間、私の頭の中は何?何?何なの?と
ぐるぐる回っていた。
さっぱり、事態が飲み込めない。
何が一体、起こっているの?

「結論から言う。王女宮は今はキルバンだ」

「「え?!」」

青竜の言葉に驚いたのは、
私とマクドネル卿の二人だけだ。
国王陛下やグレン様、黒竜は何があったか、
およその見当はついているようだ。

「あの王女宮は、元々白竜の封印のために
建てられたものなんだ。
だから封印を解くために最初から建物を
移動させる魔法陣の上に建造されていた。
ロイシュタールはそれを発動させたんだ」

「成る程。それ、アルフォンスが一枚噛ん
でいるな?あいつには禁書の閲覧許可を
与えている。そこから何か見つけたな。
よし。帰ってきたら締め上げる」

国王陛下が茶菓子を頬張りながら言う。
陛下、ちょっとお行儀が悪いです。
それにしても、え~!アルフォンス様が
一枚噛んでいるの?何それ!

「王女宮の移動先は本来なら、キルバン
ではないだろう。どうやってキルバンに
転移させた?」

グレン様が優雅にお茶を飲みながら
青竜に尋ねる。
こんな時なのに見惚れてしまう自分が嫌。

「元の計画では王女宮を白竜を封じる結界
から切り離して無理やりキルバンに転移
させるはずだった。
そのために十年かけて王女宮とキルバンを
繋ぐ巨大な道を作った。
ただ、それだと安全性がいまいちでな。
結界からの無理な分離はどんな反発が
くるか分からない。
建物は移動できても中の人間がどうなるか。
正直、道を作ったはいいがお手上げだった。
今回、封印解除の術式が手に入った事で
問題が解決した。
建物の本来の移動先にキルバンに繋がる
道を連結して転移させたんだ」

ごめん。青竜の説明。半分も理解出来ない。
え~と。十年かけて王女宮をキルバンに
移動させられる『穴』を掘ったって事?
あんな大きな物を移動させられるの?
『穴』ってすごい。

でも、十年もかかった。
何で青竜はそんなに大変な仕事を
ロイシュタール様のためにしたのだろう?

「何で青竜はロイシュタール様に従って
いるの?グレン様みたいに竜殺しの剣で
隷属させている訳じゃないよね?」

私は青竜に尋ねる。
グレン様に刺される前まで剣も刺青も
青竜にはなかった。

「利害が一致した事が大きいが……。
まあ。最大の理由はあいつが俺の血の契約者
だからだろうな」

血の契約者!
ちらりと黒竜を見る。
私の血の契約者は黒竜だ。

頬杖をつきながら、お菓子をポリポリ
食べている。
ちょっと、行儀悪いな!ここ王宮!
ジロリと黒竜を睨む。
すると黒竜はニッコリ笑って私の口にお菓子
を突っ込む。仕方がないから咀嚼する。
……違う。お菓子の催促じゃない。

それを見たグレン様もニッコリ笑って、
何故か私の口にお菓子を突っ込む。
仕方がないから咀嚼する。
……だから違う。
お菓子が欲しい訳じゃない。美味しいけど。

「血の契約者。ロイシュタールは青竜の
血を飲んだのか。……何でまたそんな事に」

そう。竜の血は猛毒。その血に適合する
確率はかなり低い。

「白竜の結界を解きたい。そのための力が
欲しいと言うから血をやった。
俺の望みも白竜の封印結界の解除だ。
利害が完全に一致していたからな。
元々キルバンの王家には俺の血が混じって
いたから適合する可能性があった。
勝算があったからこそ血をやったが……。
だが、あの苦しみようは凄絶だったな。
よく生き残ったよ」

そんな思いをしてまで白竜の結界を解こうと
したんだ。
それって、姫様のためだよね。

ロイシュタール様の好感度を上方修正する。
なんだ。危ない奴だけどいい奴じゃん。

でも、キルバン王家の祖は青竜なんだ。
……王家って、どこの国でも魔力が
馬鹿高いのはひょっとしたら魔物が混じって
いるからなのかな。
じゃあ、帝国の皇室は?
何か嫌な予感しかしない。


「血の契約とは結局なんなんだ?アニエスは
黒竜の血の契約者だよな」

グレン様、ナイス!
それです。私が聞きたいのは。

「血の盟約者とも言う。血を介して竜の
魔力を使えるようになる。人なのに竜の力を
使える訳だ。
ただ竜は支配される訳じゃない。
あくまで力を貸すだけだ。
血の契約者が気にくわなければ竜はそいつ
を殺せばいいだけだ。
あくまで、竜側の好意によるんだよ。
人と竜が親しかった頃の名残だな」

ちょっと寂しそうに言う青竜。
人と竜が親しくしていた時代があったのか。
そんな時代を知っていたら、今は?
人は竜に酷い事ばかりしている。
竜達はどう思っているのだろう。

「そんな訳で白竜の第一の封印は解けた。
残りの封印を解きたい。クロ。今度はお前
の力を貸して欲しい」

青竜が黒竜に言う。
そうか封印は一つじゃないんだ。
あといくつあるのだろう。

「白竜の解放は俺の悲願だ。
当然力を尽くす。
だが、ここでアルトリアの王に問う。
白竜の解放はこの国の防衛結界の消滅を
意味する。白竜を解放してもいいのか?」

全員の目が国王陛下に向く。
防衛結界が失くなったら魔物が容易く
侵入してくるようになる。
でも、それが本来の姿なんだよね。
変に結界で守られ慣れたせいで、無力に
なった。王都の護りは脆弱だ。
その方が異常なんだ。
生き残りたいなら戦わないと。
私が辺境生まれなせい?
そう思うのは。

「俺は白竜の解放を望む。剣で刺し貫き
鎖で繋がれていると聞いた。その意思に反し
使役する。あってはならない事だと思う。
この国の王として。また人として謝罪する。
すまなかった。
どうか白竜の解放に力を貸して欲しい」

頭を下げる国王陛下。
グレン様がそれにならい頭を下げる。
マクドネル卿も。
私も慌てて頭を下げる。

人と竜の新しい関係が築けますように。
祈るように頭を下げる。

「アルトリアの王よ。謝罪を受け入れる。
白竜の解放へ力を合わせよう」

黒竜が国王陛下へ手を差し出す。
国王陛下はそれを握りしめ、
二人は固い握手を交わした。

人と竜との新しい関係が始まった。














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