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ロイシュタール回想 1
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「アルトリアから人質を求められた。
仕方がない。ロイシュタール。お前が行け」
国王である父から冷たく告げられる。
王太子である兄とは違い、
冷遇される第二王子。それが俺だ。
六つ年上の兄と二つ下の弟とは
俺は母親が違う。
父が戯れに手をつけた侍女が身籠った。
産まれたのがこの俺だ。
魔力の馬鹿高い王族の子供を
魔力の低い下位貴族の娘が産み落とす。
滅多にない事例だ。
普通は身籠らないし、育たない。
魔力の相性が良かったのだろう。
ただし腹の中で育つ俺に怯えきった母は
気が触れ、俺を産み落とすと
すぐに亡くなった。痛ましい話だ。
母と俺の存在は王妃と父の関係を
悪くした。まあ、当然だ。
父の火遊びから予期せぬ王子を生んだ。
王妃の機嫌をとるため、父の態度は
いつも冷たい。
父がこれでは、当然周りの対応も悪くなる。
ただでさえ侍女の子である俺は血筋を
疎まれていた。
さらに王妃からは目の敵にされ、四面楚歌。
使用人にすら相手にされない王子。
頼るもののない寄る辺のない身の上だった。
隣国であるアルトリア。南の辺境での
いざこざの責任を取らされる形で人質を
求められた。
当然のように俺はアルトリアへと送られた。
いい厄介払い。
俺が七歳の時の話だ。
敵国での人質生活。
俺はどんな待遇を受けるのかと怯えていた。
数人の家臣と侍女が随行員としてついて
来たものの、俺をアルトリアへと引き渡すと
すぐにキルバンへと帰ってしまった。
たった一人。
俺はアルトリアの家臣に連れられ青ざめた
顔で王宮へと歩く。
高い王宮の建物に思わず見上げる。
キルバンの王宮は低い建物で横に広い。
アルトリアの王宮は何階建てなのだろう。
既に文化の違いに戸惑う。
そんな時、突然木の上から人が降って来て
俺は潰された。
「うわ!ごめんなさい。下に人がいると
思わなくて。怪我はない?」
黒い髪、金の瞳の可愛い女の子。
心配そうに俺を覗き込む。
どう見ても高位貴族の女の子。
何で木の上から降ってきたのだろう。
びっくりした。
「大丈夫。それより君の方が怪我をしてる」
彼女の膝は擦りむけて血が出ていた。
思わず治癒魔法をかけて治してしまった。
「ほう。これはなかなか……」
アルトリアの家臣が目を細める。
不味かっただろうか。この家臣は物腰
柔らかく、人の善さそうな顔をしているが
何を考えているか読めない。
俺は常に人の顔色を伺って生きてきたので、
何を考えているか分からない奴は怖い。
「うわ!すごい!!あなたすごいわねぇ!
こんなに早い治癒魔法初めて見たわ。
子供なのにすごい。すごい!
それにあなた綺麗なお顔ね。美人だわ」
そう言いながらペタペタと俺の顔を触り
まくる女の子に俺は固まる。
反対に明け透けに好意を寄せてくる
女の子にも困惑した。
「エリザベート様。また抜け出しましたね。
お付きの者を困らせるのはやめて下さい」
俺に付き添っていたアルトリアの家臣が
彼女に文句を言う。
「オーウェン、お兄様とグレンが戻って
来たのでしょう?会いたいのに会わせて
くれないのよ。
だからこっそり会いに行くの!」
「それは構いませんがお二人とも疲れて
死んだように眠っていますよ。
もう、少し休ませてあげて下さい。
暇を持て余しているなら、この方のお相手
をして差し上げたらどうです?
隣国、キルバンの第二王子殿下です。
今日から王宮で暮らされます」
エリザベート……第二王女の名前。
この子が第二王女なのか。
それにしても王女と臣下の距離の近さに
驚く。ポンポンと会話が進む。
「私、エリザベート!あなたは?」
「ロイシュタール・クラレンス・キルバン
です。第二王女殿下」
「固い!長い!私はエリザあなたはロイ。
分かった?一緒に遊ぼう!オーウェン、
この子連れて行ってもいい?」
「お好きにどうぞ。陛下には私から話して
おきます。
お勉強の時間には戻って下さいね」
手を振って送り出された。
いや、いいのか?まだ国王陛下にご挨拶を
していないのに。
ぐいぐい女の子に引っ張られて歩く。
「ロイは馬に乗れる?」
「いえ、乗れません」
「固!私に敬語はいらない!よし。
ロイを馬に乗れるように特訓しよう!」
敵国に人質として来た初日。
その日一日、乗馬の訓練に費やされた。
頭の中を何故?の二文字がぐるぐる回る。
ニコニコ笑う年下の可愛い女の子に
振り回される。
エリザベートとの出会いはこんな感じ
だった。
アルトリア王家には四人の子供がいた。
第一王女のソフィア。
王太子のアルバート。
第二王女のエリザベート。
その三人とは別に国王の甥であるグレンが
一緒に暮らしていた。
そこに俺が加わった。
人質なのに初日にエリザベートにすっかり
懐かれた俺は、すんなりアルトリア王家の
子供達に受け入れられた。
本国ではあり得ない好遇の数々に驚く。
皮肉なもので人質として来た敵国で
初めて人の優しさに触れた。
第一王女のソフィアはとにかく優しい。
俺に本当の弟のように接する。
アルバートは王太子は思えないほど
気さくな性格ですぐに仲良くなった。
初めてできた友達だ。
エリザベートは俺にやたらと懐いた。
とにかく可愛くて、仕方がない。
あれをして、これをして。
あれを一緒にしよう。これも一緒にしようと
色々、振り回される。
それが楽しい。始めは世話のかかる妹が
できたように思っていたが、それが恋に
変わるのに時間はかからなかった。
そして、グレン。
俺と同じような境遇の子供。
だからだろうか。弟のように思えるのは。
グレンの母親も高い魔力を持って産まれた
我が子が受け入れられず、錯乱。
グレンは虐待されていたために、王家に
引き取られた。父親もグレンには無関心。
きっと傷付いているだろうに、
いつも澄ました顔だ。
その澄ました顔を崩すのが楽しい。
アルバートと二人、かまい倒した。
戸惑う顔が可愛い。
俺の幸せはすべてアルトリアにあった。
毎日が楽しい。
人質だというのに施される高度な教育。
死ぬほどきつい魔法や武術の訓練。
なかでも、黒い森に子供だけで放置される
『キャンプ』には心底驚かされた。
魔物と遭遇しても自分達だけで対処する。
食料も自分達で現地調達だ。
いわゆる従軍訓練。魔物の討伐スキルを
あげるためのもの。
アルバートやグレンも毎月、七~十日間は
『キャンプ』に強制参加させられる。
その他にも護身術と称した暗殺者の養成
過程のような教育も施された。
こんなの王族に必要か?
武術や従軍訓練にそれだけの時間を費やし、
そのくせ王族としての教育も容赦なく
詰め込まれる。過酷な教育方針。
キルバンではろくな教育を受けられなかった
俺には、そんなキツイ教育でも楽しかった。
思えばこの国は変わっている。
国王の権限が弱い。
特に王家の子供達の教育に関しては
オーウェンや宰相、魔術師塔の長老達に
裁量権がある。
彼らは次代の支配者の養成にかなりの力を
いれている。
今の国王は、ただの繋ぎとしてしか
見ていない。
特にオーウェンはこの国の影の支配者と
言っても過言ではない。
第三騎士団団長という表の顔は、人の善さ
そうな実直な騎士だが
裏の顔は……。
俺はアルトリアに来た初日、治癒魔法を
オーウェンに見られている。
お陰で変に見込まれた。
それはそれは過酷な訓練を施された。
今でも、あの一見人の善さそうな顔を
見ると鳥肌がたつ。
あいつの子供達もキャンプに強制参加させ
られていた。父親と同じ顔。
気の毒でしかない。
悪魔と同じ顔だ。
活発で物怖じしないエリザベート。
なのに、すぐに熱を出す。
良くなっては動き回り、また熱を出すを
繰り返していた。
俺の見た感じは魔力の循環不全。
高い魔力がそこかしこで滞りうまく流れて
いないようだ。
まだ、幼い。
体がもう少し大きくなったら自然に治る。
「ずっと側にいてね。ロイ兄様」
熱を出し具合が悪くなると俺に側にいて
欲しがるエリザベート。
「側にいるよ。ずっと」
「ホント?大人になってもずっとよ?」
「大人になってもずっとだ」
「約束よ?」
「約束だ」
熱で汗ばむエリザベートの手を握りしめ、
約束した。
アーサーが生まれ、さらに賑やかになる。
エリザベートは弟に夢中だ。
エリザベートに良く似たアーサーは
目茶苦茶可愛い。
俺も一緒に可愛いがる。
ずっとこんな幸せが続けばいい。
そう願っていた。
だが、ソフィアが東の遠国に嫁ぎ
いなくなった。
優しい姉上。皆の心の支えがいなくなった。
皆が寂しく思っていた。
そんな時、キルバンの王太子である兄と
エリザベートの婚約が決まった。
また、南辺境の領地紛争が原因だ。
今度はキルバンが優勢。
和平案で二人の婚姻が求められた。
目の前が真っ暗になった。
エリザベートはキルバンの次の王妃と
定められた。
ずっと一緒にいると約束した。
妹のようなエリザベートが義姉となる。
俺は臣下としてそれを見守る。
絶対に無理だ。
エリザベートは俺の物だ。
自分の力のなさを呪った。
──いや、力はある。
アルトリアで力を授けてもらった。
実行するだけの力はある。
後は、実行する覚悟とタイミングの
問題だ。
奴らには一片の情もない。
片付けるのは別にいい。
余り早くても、エリザベートと親しい俺が
疑われる。
……いつ殺る?
そうして物騒な計画を練っていると
オーウェンが俺に囁く。
「君、国王になるかい?」
「え?」
「もったいないけど、キルバンに返そう。
あの馬鹿がエリザベートの伴侶とはね。
うちの国王様も勝手にやってくれたよ。
ま、君がいるから何とかなるけど?
もったいないなぁ。
いっその事、キルバン滅ぼしちゃう?」
これは…。人の善さそうな顔は笑顔だが、
絶体に怒っている。
悪魔がお怒りだ。
「キルバンなんてどうでもいい。
エリザベートが手に入るなら何でもする」
「じゃあ、決まり。いい国王になってね。
はあ、本当は君に私の跡を継いでもらおう
と思ってたのに。がっかりだ。
うちの子供達はみんなマリーナに似たのか
人が善くてね。とても王家の影の長は無理だ。
末の子に期待するしかないね。
厳しく育てないと。もったいないなぁ」
……この、悪魔は何を言っているんだ。
国王になるか悪魔の跡取り。
どっちも嫌だ。
だが、国王になる事が必要なら是非もない。
「それで俺は何をすればいい?」
「何も。ただ、帰国命令が来たら国に帰り
なさい。後は頑張っていい国王になってね。
私に命を狙われるような王にはなるなよ?
お前の父親みたいにな……小僧」
その後すぐに帰国命令が来た。
王太子である兄は、帝国との突発的な
戦闘で戦死。弟も毒矢に倒れ危篤。
その後、闘病の末に亡くなった。
跡取りのいなくなった国。
当然のように俺は呼び戻された。
……悪魔は帝国の仕業に見せ掛けた訳か。
アルトリアと和平を結んだ直後に帝国と
開戦か。面倒な。
帝国はアルトリアを狙っていた。
だが、この件で帝国はアルトリアとでなく
キルバンと事を構える事になった。
オーウェンめキルバンを生贄にしたな。
後始末をするのは俺か。
やれやれ。
帝国との戦。
終結するまでに一年を要した。
それまでに俺はキルバンの王太子としての
地位を固め、エリザベートと婚約した。
だが、帝国との和平条約の調印式。
その後の晩餐会。
俺の婚約者として出席していた
エリザベートは、帝国の皇太子である
オズワルドに見初められ、
付きまとわれる事になる。
仕方がない。ロイシュタール。お前が行け」
国王である父から冷たく告げられる。
王太子である兄とは違い、
冷遇される第二王子。それが俺だ。
六つ年上の兄と二つ下の弟とは
俺は母親が違う。
父が戯れに手をつけた侍女が身籠った。
産まれたのがこの俺だ。
魔力の馬鹿高い王族の子供を
魔力の低い下位貴族の娘が産み落とす。
滅多にない事例だ。
普通は身籠らないし、育たない。
魔力の相性が良かったのだろう。
ただし腹の中で育つ俺に怯えきった母は
気が触れ、俺を産み落とすと
すぐに亡くなった。痛ましい話だ。
母と俺の存在は王妃と父の関係を
悪くした。まあ、当然だ。
父の火遊びから予期せぬ王子を生んだ。
王妃の機嫌をとるため、父の態度は
いつも冷たい。
父がこれでは、当然周りの対応も悪くなる。
ただでさえ侍女の子である俺は血筋を
疎まれていた。
さらに王妃からは目の敵にされ、四面楚歌。
使用人にすら相手にされない王子。
頼るもののない寄る辺のない身の上だった。
隣国であるアルトリア。南の辺境での
いざこざの責任を取らされる形で人質を
求められた。
当然のように俺はアルトリアへと送られた。
いい厄介払い。
俺が七歳の時の話だ。
敵国での人質生活。
俺はどんな待遇を受けるのかと怯えていた。
数人の家臣と侍女が随行員としてついて
来たものの、俺をアルトリアへと引き渡すと
すぐにキルバンへと帰ってしまった。
たった一人。
俺はアルトリアの家臣に連れられ青ざめた
顔で王宮へと歩く。
高い王宮の建物に思わず見上げる。
キルバンの王宮は低い建物で横に広い。
アルトリアの王宮は何階建てなのだろう。
既に文化の違いに戸惑う。
そんな時、突然木の上から人が降って来て
俺は潰された。
「うわ!ごめんなさい。下に人がいると
思わなくて。怪我はない?」
黒い髪、金の瞳の可愛い女の子。
心配そうに俺を覗き込む。
どう見ても高位貴族の女の子。
何で木の上から降ってきたのだろう。
びっくりした。
「大丈夫。それより君の方が怪我をしてる」
彼女の膝は擦りむけて血が出ていた。
思わず治癒魔法をかけて治してしまった。
「ほう。これはなかなか……」
アルトリアの家臣が目を細める。
不味かっただろうか。この家臣は物腰
柔らかく、人の善さそうな顔をしているが
何を考えているか読めない。
俺は常に人の顔色を伺って生きてきたので、
何を考えているか分からない奴は怖い。
「うわ!すごい!!あなたすごいわねぇ!
こんなに早い治癒魔法初めて見たわ。
子供なのにすごい。すごい!
それにあなた綺麗なお顔ね。美人だわ」
そう言いながらペタペタと俺の顔を触り
まくる女の子に俺は固まる。
反対に明け透けに好意を寄せてくる
女の子にも困惑した。
「エリザベート様。また抜け出しましたね。
お付きの者を困らせるのはやめて下さい」
俺に付き添っていたアルトリアの家臣が
彼女に文句を言う。
「オーウェン、お兄様とグレンが戻って
来たのでしょう?会いたいのに会わせて
くれないのよ。
だからこっそり会いに行くの!」
「それは構いませんがお二人とも疲れて
死んだように眠っていますよ。
もう、少し休ませてあげて下さい。
暇を持て余しているなら、この方のお相手
をして差し上げたらどうです?
隣国、キルバンの第二王子殿下です。
今日から王宮で暮らされます」
エリザベート……第二王女の名前。
この子が第二王女なのか。
それにしても王女と臣下の距離の近さに
驚く。ポンポンと会話が進む。
「私、エリザベート!あなたは?」
「ロイシュタール・クラレンス・キルバン
です。第二王女殿下」
「固い!長い!私はエリザあなたはロイ。
分かった?一緒に遊ぼう!オーウェン、
この子連れて行ってもいい?」
「お好きにどうぞ。陛下には私から話して
おきます。
お勉強の時間には戻って下さいね」
手を振って送り出された。
いや、いいのか?まだ国王陛下にご挨拶を
していないのに。
ぐいぐい女の子に引っ張られて歩く。
「ロイは馬に乗れる?」
「いえ、乗れません」
「固!私に敬語はいらない!よし。
ロイを馬に乗れるように特訓しよう!」
敵国に人質として来た初日。
その日一日、乗馬の訓練に費やされた。
頭の中を何故?の二文字がぐるぐる回る。
ニコニコ笑う年下の可愛い女の子に
振り回される。
エリザベートとの出会いはこんな感じ
だった。
アルトリア王家には四人の子供がいた。
第一王女のソフィア。
王太子のアルバート。
第二王女のエリザベート。
その三人とは別に国王の甥であるグレンが
一緒に暮らしていた。
そこに俺が加わった。
人質なのに初日にエリザベートにすっかり
懐かれた俺は、すんなりアルトリア王家の
子供達に受け入れられた。
本国ではあり得ない好遇の数々に驚く。
皮肉なもので人質として来た敵国で
初めて人の優しさに触れた。
第一王女のソフィアはとにかく優しい。
俺に本当の弟のように接する。
アルバートは王太子は思えないほど
気さくな性格ですぐに仲良くなった。
初めてできた友達だ。
エリザベートは俺にやたらと懐いた。
とにかく可愛くて、仕方がない。
あれをして、これをして。
あれを一緒にしよう。これも一緒にしようと
色々、振り回される。
それが楽しい。始めは世話のかかる妹が
できたように思っていたが、それが恋に
変わるのに時間はかからなかった。
そして、グレン。
俺と同じような境遇の子供。
だからだろうか。弟のように思えるのは。
グレンの母親も高い魔力を持って産まれた
我が子が受け入れられず、錯乱。
グレンは虐待されていたために、王家に
引き取られた。父親もグレンには無関心。
きっと傷付いているだろうに、
いつも澄ました顔だ。
その澄ました顔を崩すのが楽しい。
アルバートと二人、かまい倒した。
戸惑う顔が可愛い。
俺の幸せはすべてアルトリアにあった。
毎日が楽しい。
人質だというのに施される高度な教育。
死ぬほどきつい魔法や武術の訓練。
なかでも、黒い森に子供だけで放置される
『キャンプ』には心底驚かされた。
魔物と遭遇しても自分達だけで対処する。
食料も自分達で現地調達だ。
いわゆる従軍訓練。魔物の討伐スキルを
あげるためのもの。
アルバートやグレンも毎月、七~十日間は
『キャンプ』に強制参加させられる。
その他にも護身術と称した暗殺者の養成
過程のような教育も施された。
こんなの王族に必要か?
武術や従軍訓練にそれだけの時間を費やし、
そのくせ王族としての教育も容赦なく
詰め込まれる。過酷な教育方針。
キルバンではろくな教育を受けられなかった
俺には、そんなキツイ教育でも楽しかった。
思えばこの国は変わっている。
国王の権限が弱い。
特に王家の子供達の教育に関しては
オーウェンや宰相、魔術師塔の長老達に
裁量権がある。
彼らは次代の支配者の養成にかなりの力を
いれている。
今の国王は、ただの繋ぎとしてしか
見ていない。
特にオーウェンはこの国の影の支配者と
言っても過言ではない。
第三騎士団団長という表の顔は、人の善さ
そうな実直な騎士だが
裏の顔は……。
俺はアルトリアに来た初日、治癒魔法を
オーウェンに見られている。
お陰で変に見込まれた。
それはそれは過酷な訓練を施された。
今でも、あの一見人の善さそうな顔を
見ると鳥肌がたつ。
あいつの子供達もキャンプに強制参加させ
られていた。父親と同じ顔。
気の毒でしかない。
悪魔と同じ顔だ。
活発で物怖じしないエリザベート。
なのに、すぐに熱を出す。
良くなっては動き回り、また熱を出すを
繰り返していた。
俺の見た感じは魔力の循環不全。
高い魔力がそこかしこで滞りうまく流れて
いないようだ。
まだ、幼い。
体がもう少し大きくなったら自然に治る。
「ずっと側にいてね。ロイ兄様」
熱を出し具合が悪くなると俺に側にいて
欲しがるエリザベート。
「側にいるよ。ずっと」
「ホント?大人になってもずっとよ?」
「大人になってもずっとだ」
「約束よ?」
「約束だ」
熱で汗ばむエリザベートの手を握りしめ、
約束した。
アーサーが生まれ、さらに賑やかになる。
エリザベートは弟に夢中だ。
エリザベートに良く似たアーサーは
目茶苦茶可愛い。
俺も一緒に可愛いがる。
ずっとこんな幸せが続けばいい。
そう願っていた。
だが、ソフィアが東の遠国に嫁ぎ
いなくなった。
優しい姉上。皆の心の支えがいなくなった。
皆が寂しく思っていた。
そんな時、キルバンの王太子である兄と
エリザベートの婚約が決まった。
また、南辺境の領地紛争が原因だ。
今度はキルバンが優勢。
和平案で二人の婚姻が求められた。
目の前が真っ暗になった。
エリザベートはキルバンの次の王妃と
定められた。
ずっと一緒にいると約束した。
妹のようなエリザベートが義姉となる。
俺は臣下としてそれを見守る。
絶対に無理だ。
エリザベートは俺の物だ。
自分の力のなさを呪った。
──いや、力はある。
アルトリアで力を授けてもらった。
実行するだけの力はある。
後は、実行する覚悟とタイミングの
問題だ。
奴らには一片の情もない。
片付けるのは別にいい。
余り早くても、エリザベートと親しい俺が
疑われる。
……いつ殺る?
そうして物騒な計画を練っていると
オーウェンが俺に囁く。
「君、国王になるかい?」
「え?」
「もったいないけど、キルバンに返そう。
あの馬鹿がエリザベートの伴侶とはね。
うちの国王様も勝手にやってくれたよ。
ま、君がいるから何とかなるけど?
もったいないなぁ。
いっその事、キルバン滅ぼしちゃう?」
これは…。人の善さそうな顔は笑顔だが、
絶体に怒っている。
悪魔がお怒りだ。
「キルバンなんてどうでもいい。
エリザベートが手に入るなら何でもする」
「じゃあ、決まり。いい国王になってね。
はあ、本当は君に私の跡を継いでもらおう
と思ってたのに。がっかりだ。
うちの子供達はみんなマリーナに似たのか
人が善くてね。とても王家の影の長は無理だ。
末の子に期待するしかないね。
厳しく育てないと。もったいないなぁ」
……この、悪魔は何を言っているんだ。
国王になるか悪魔の跡取り。
どっちも嫌だ。
だが、国王になる事が必要なら是非もない。
「それで俺は何をすればいい?」
「何も。ただ、帰国命令が来たら国に帰り
なさい。後は頑張っていい国王になってね。
私に命を狙われるような王にはなるなよ?
お前の父親みたいにな……小僧」
その後すぐに帰国命令が来た。
王太子である兄は、帝国との突発的な
戦闘で戦死。弟も毒矢に倒れ危篤。
その後、闘病の末に亡くなった。
跡取りのいなくなった国。
当然のように俺は呼び戻された。
……悪魔は帝国の仕業に見せ掛けた訳か。
アルトリアと和平を結んだ直後に帝国と
開戦か。面倒な。
帝国はアルトリアを狙っていた。
だが、この件で帝国はアルトリアとでなく
キルバンと事を構える事になった。
オーウェンめキルバンを生贄にしたな。
後始末をするのは俺か。
やれやれ。
帝国との戦。
終結するまでに一年を要した。
それまでに俺はキルバンの王太子としての
地位を固め、エリザベートと婚約した。
だが、帝国との和平条約の調印式。
その後の晩餐会。
俺の婚約者として出席していた
エリザベートは、帝国の皇太子である
オズワルドに見初められ、
付きまとわれる事になる。
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