王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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グレン、甘い夜

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……アニエスが身動ぎしている。
俺の腕の中でじたばたする彼女の動きで
覚醒する。
何も掛けずに寝たので少し寒い。
目を開けると幾分、顔色の良くなった
アニエスの顔が目に入る。

──よかった。少しは回復したようだ。
体の冷えた俺に上掛けを掛けようとして、
固まるアニエス。

自分のエロい格好にまた変な悲鳴をあげる。
ぎょっ!ぎゃああ~んって何だろうな。
以前もこんな悲鳴を上げていた。
……アニエスは赤竜のブレスを受け、
死にかけていた俺に自分の寿命を分け与え
てくれた。

あの日の夢を思い出す。
いや、ただの夢ではなかった。

冷たく動かない体を優しく抱き起こされる。
口移しで飲まされたのは、金の鱗。
アニエスの寿命。
体に吸収され、新しい生命と魔力が
沸き上がり、ぐんぐん枝葉を伸ばす。
苗床はアニエスの命。
アニエスの命を喰らって俺は生き延びた。

命を救われるのはこれで二度目。

一度目は白竜の生贄になるはずだった俺の
代わりに自分の血と魔力を白竜に与え、
俺が生贄にならなくとも済むように
してくれた。

元々死んでもいいと思って喰われたと。
俺が喰われるよりも全然いいと思ったと
言っていた。

……全然良くないだろう。

森で倒れていたアニエスを思い出す。
あの甘く切ない強烈な匂い。
あの時、失わずに済んで本当によかった。
命と体は助けてもらっても、俺の心が死ぬ。
頼むからもう少し、自分の命と体を大事に
して欲しい。

今回も魔力枯渇した体を兄達の血を飲む事
で無理矢理動かし、辺境へ馬で早駆けして
やって来た。
そして俺を探すためだけに、どこに飛ばさ
れるか分からない『穴』に自ら飛び込んだ。

何でそんな無茶をするんだ。
──全部俺のためだ。大馬鹿野郎。

ブレスを吐き、血を啜る魔物は嫌かと、
尋ねてくるアニエス。
思わずデコピンする。
アホ、人とか、魔物とか竜とか関係ない。

俺はアニエスだから好きなんだ。

懲りずに俺に上掛けを掛けようとするので
止める。ため息が出る。
上掛けの上から抱きしめてもヤバいのに
そんな薄い夜着を着たアニエスと同じ布団
の中で寝るなんて絶対無理だ。
でも他の部屋に移る事は全く考えられない。
側にはいたい。

上掛けの上からでも分かる体の柔らかさ。
甘い、甘い匂い。
真っ赤に染まった顔。
いや、全身赤い?──物言いたげな表情。
なんだ?いつもと様子が違う。

いつも考える事がだだ漏れなのに。
今は何を考えているか分からない。

なんとなく緊張が伝わってくる。
青竜に襲われたせいで男が怖い?
俺が密着しているせいで怖がらせている?

なんだか俺も緊張してきた。
離れたくはないが、離れた方がいいか?
もう一度眠ってくれたらいいのに。
今夜は離れたくない。
眠ってくれたら安心して側にいられる。
さすがに眠っている女をどうこうしようとは
思わない。

悩んでいるとアニエスが上掛けを捲った。
露になる夜着姿。
特に短い裾からでた足が魅惑的だ。
アニエスは真っ赤になりながらうつむき、
少し震えている。

……………これはひょっとして。誘惑?
……………もしかして誘われているのでは?

そんな事があるか?

………でも、白く艶かしい足に誘われる。
太ももに口付け所有印をつける。
これで嫌ならいつもの様に変態扱いだ。
どうだ?……嫌か?それとも……。

顔を上げたアニエスと目が合う。
……プツリと理性の糸が切れた気がする。
真っ赤に染まったアニエスの顔。
欲情した潤んだ瞳。
こいつ、発情している。
は、──陥落だ。

押し倒す。

ぎゅと目を瞑るアニエス。
頼むから怖がらないでくれ。

できるだけ優しい声で囁く。

「怖かったり、嫌な事があったら言えよ?」

そっと俺の背に回されるアニエスの腕。
誘われる様にアニエスに口付けた。
後は震えるアニエスを宥めながら
甘い、甘い時を過ごす。何度も。

初めての夜は砦の一室。
甘い夜を過ごした。
裸のままお互いに抱きしめ合ったまま眠る。
柔らかい日差しが窓の隙間から
入って来る。
──もう、朝か。目覚めると幸せそうに
眠るアニエスが目に映る。
むにゃむにゃ口を動かしているのが
リスっぽい。平和な顔だなぁ。
思わずツンツンと頬を人指し指でつつく。
にへらっと笑う。
ふ、可愛い。なんだこいつ。
額に口付ける。

……はあ。ため息をつく。

おい、昨夜はいっぱい暴れたろう?
我慢しろよ?調子に乗るなよ。
自分の下半身を叱る。

さて、俺はそろそろ起きないとな。
アニエスはもう少し寝かしてやりたいが。
起きて一人は可哀想だな。
どうするかな?

鼻を摘まむ。

お、苦しんでいるぞ?
面白い。何で口で息をしない?
キスの時は逆に鼻で息をしないクセに。

寝ているクセにじたばたする。
おい、苦しいなら目を覚ませよ。
さすがに可哀想なので手を離す。

「フガ~!何、何?苦しいんだけど!」

おや、お目覚めだ。
上掛けをはね除け、がばりと起き上がる
アニエス。
おお~!朝から絶景だ。
お前、いいのか?何も身につけていないぞ。
明るい所で丸見えだ。

……それにしても。つけすぎたな。
キスマーク。
後で絶対に怒られるな。
それも楽しいかな?

「いっや~~~!!」

自分の格好に気が付き慌てて上掛けを被る
アニエス。朝から元気だな。
いや、実際元気になったな?
顔色がいい。薔薇色の頬、艶々だ。
なんだ、こんな事なら手加減しなくても
よかったな……。
いや、初心者相手にあれ以上は鬼畜だな。
あ~。そう言えば夫婦間での性行為による
魔力の譲渡とかいうのがあったな。
あれか。

俺から魔力をアニエスに渡したのか。
便利だな。
体調の良さそうなアニエスを見ると
こちらの体調も良くなる気がする。

いや、実際に体調がいい。
体が軽い。なんだか力が漲っている。
心が満たされているからか?

「昨夜はお前、夕食を食べずに寝たろ?
腹が減ったろう。何か運ばせるか?」

もぞもぞと上掛けから顔だけ出てくる。

「お腹………空きました。物凄く」

「だろうな。侍女を寄越す。食ったら
もう少し寝ろ。明らかに寝不足だ。
俺は陣営に戻る。しっかり休めよ?」

「ええ~!この状況で侍女さん呼ぶの?
やだ、やだ~!自分で何とかしますよ」

真っ赤だなぁ。
面白い。

「諦めろ。着替えがないぞ。ずっとあの
ピンクのエロい夜着を着ている訳にも
いかないだろう。それにあれ、色々汚れて
いるからな?」

「やめてぇ。生々しいから!」

真っ赤になって悶えるアニエス。
本当に見ていて飽きない。
椅子に掛けていた軍服を身につけ仕度する。
上掛けと一体化した芋虫のようなアニエスの
顎をクイっと持ちあげ啄むように口付ける。

「じゃあ、行ってくる。ちゃんと休めよ」

別れの言葉をかけるとぐいっと胸元を
引っ張られた。
頬に口付けられる。

「いってらっしゃい」

真っ赤な顔で言う。
行ってらっしゃいのキスか。
──いいな。悪くない。いや、物凄くいい。

プリシラの侍女にアニエスを頼み。
陣営に戻る。
さっさと帝国を片付けよう。
改めて心の中で誓った。






















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