王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、拐われる 1

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グレン様と一夜を共にした。
幸せだけれど、物凄く恥ずかしい。
アルマさん。からかってすみませんでした。
全身にキスマークはダメージが大きいもの
ですね。
思い出して身悶えるのは仕方がありません。
身をもって分かりました。

私を見るなり、ドーラが真っ赤になりながら
治癒魔法できれいに消してくれました。
ありがとう!もう、あなたは残念ピンクじゃ
ありません。命の恩人です。
すごい恥ずかしい!!

治癒魔法!練習する。
キスマークを消せるように!
心の中で誓った。


砦の負傷者はほとんど治癒が終わった。
砦への奇襲攻撃以来、ここ数日の間、
帝国からの攻撃がない。

以前は休戦したと偽情報が流され、
それを信じた領民が砦の外に出て危険に
晒された。

敵が静かだと何か企んでいそうで怖い。

グレン様はお館様と二人で、捕虜にした
帝国の兵士、騎士、魔法士を尋問中。
交渉に使えるほどの大物がいるみたい。


只今、私は砦から出て、ピイちゃん達の
引っ込め方を練習中。
魔物を数日、食べていないピイちゃん達。
鋸歯が消えて静かにゆらゆら動く豆花に
なりました。
引っ込め……られないなぁ。
引っ込められないなら、小さくするのは
どうだろう?
近くにいたピイちゃん一匹に魔力をこめる。
小さいピイちゃん。小さいピイちゃん。

お!小さくなったぞ。

スゴいミニサイズになった。
手乗りピイちゃん。これ、可愛いかも。
このくらいの大きさなら全部
収納できるかな?
……どうだろう。
ピンクの手乗りピイちゃん。
これ、ドーラにあげようかな。
ピンクで可愛いから喜びそう。
あの子、ピンクが好きだものね。
とりあえず手乗りピイちゃんは、なんとなく
胸ポケットに入れる。
ふふ、ピンクのコサージュみたい。

小さいピイちゃんで小さくなるなら、
大きいピイちゃんで大きくなるのかな?
また別のピイちゃんに近付き、
大きいピイちゃん。大きいピイちゃんと
唱える。

お、大きいなったぞ。よし。
……いや、ちょっと待って。いや、いや。
どこまで大きくなるの?
ぐんぐん大きくなるピイちゃん。
見上げる高さの豆花。
まだまだ伸びる身長?
──でか!大ピイちゃん完成。

あれ?大きいなら、大型の魔物も捕食できる
かもしれない。
よし、この子はこのまま置いておこう。
でも、巨大な豆花。遠くからでも目立つ。

「アニエス、引っ込める練習じゃなかった?
何、大きくしてるの。うわ、でかい!」

アルフォンス様が呆れたように大ピイちゃん
を見上げる。

「これ敵襲ですか!?」

あ、見張りの兵士様。ごめんなさい。
怪しいけど違います。

「あ~、違う。気にしないで実験だから」

アルフォンス様が説明してくれた。
ピイちゃん引っ込め練習、失敗。
今日は手乗りピイちゃんと大ピイちゃんを
生み出して終わり。
まあ、練習に失敗は付き物だ。
次に行こう。次に。

「アニエス、そろそろ砦に戻ろうか」

「はい。でも上手くいかないものですね。
私、やっぱり植物魔法は苦手です」

「仕方ないさ。使い初めて日が浅いからね。
慌てないで気長に考えたら?
ここは土地が広いし、邪魔にはならないさ。
今は寧ろ魔物退治の切り札だし。
アニエス、本当に面白いのを生み出したよ」

アルフォンス様はそう言うとうっとりした
顔でピイちゃん達の群れを眺める。
アルフォンスのうっとり顔。レアだ。
ドーラが喜びそう。
ピイちゃん達を見てうっとりするのは
たぶんアルフォンス様だけだと思います。
意外と変な人だな。
魔術オタクとアルマさんが言うのも分かる。

砦に戻ろうと二人で歩き出す。
すると見張りの兵士様達から声が上がる。

「町から煙が上がっています!」

町の方向を見ると確かに煙が上がっている。
一ヶ所が二ヶ所に、さらにどんどん増える。
これ、敵襲なのでは。

「アルフォンス様!」

「アニエス、駄目だ。戻るよ」

え~!生まれ育った場所が燃えているのに。
私の家もあそこにあるのに。
アルフォンス様は黄色い伝令鳥を飛ばす。
住民は避難して無人だけれど、
みんな生活があるのに。

町に火を放つなんて。
帝国の奴!

町の様子を気にしながら、渋々砦に戻ると
マックス義兄様が待っていた。

「よかった。ちゃんと帰ってきたね。
町に火の手が上がったと伝令鳥が来たから
また一人で暴走していないか心配したよ」

自業自得とはいえ、マックス義兄様からの
信用がない。

「避難している住民は大丈夫でしょうか?」

「町に戻せと一部の住民が騒いでいるね」

そりゃ、自分の家が心配だよね。
国軍も辺境伯領軍も偵察を兼ねて消火に
町に向かっているけど。
もう、二ヶ月近く砦に避難させられている。
領民はそろそろ我慢の限界な気がする。
こちらも防戦一方だし、不満がたまるな。

翌日、消火作業は終了。
父様、マックス義兄様と町に被害状況の
確認に来た。
結構な被害が出ている。
町にも町の周りにも兵士が見張りで配置され
ていたのに。嘲笑うようにそれを掻い潜って
の犯行。嫌な感じだ。

まだ煙の臭いが漂う町。焼け落ちた邸宅の
前で父様が肩を落としている。
代々受け継がれてきたアシェンティ子爵邸。
すっかり焼け落ちていた。

生まれ育った場所が燃えて失くなった。
母様の遺品も思い出の品も。
セドリック兄さんの集めた蔵書も。
私の部屋も、薬草小屋も。
マリック兄さんの下手くそなピアノで
父様と踊った小ホールも。
すべて、灰になった。

「アニエス、大丈夫?」

マックス義兄様が声をかけてくれる。
私は力なく笑う。
人的被害がなくても、精神的な被害は
計り知れない。

今回はこんな思いをする人が沢山出た。
しんどいな。
父様の腕に手を添える。
気落ちしているが私の顔を見て笑う。

「ま、生きてさえいれば、思い出はまた
出来るさ。それに燃えてしまっても……。
忘れる事などない。な?アニエス」

「うん」

しばらく父様と二人で、燃えてしまった
我が家をじっと黙って見つめていた。

しばらくして、ざっと被害にあった地区を
見回る。
町の住民は何人かのグループに分けられ
それぞれ護衛付きで被害にあった住宅を
見に来ている。

また、いつ戦闘が始まるか分からない。
護衛する兵士達の表情は固い。

子供の泣き声がする。ふと見ると金髪の
おかっぱ頭の小さな女の子が焼けた家の前で
わんわん泣いている。

ああ、大人でもショックなのに、子供は
もっとショックだよね。可哀想に。
父親らしき男の人が護衛の兵士と何か
揉めている。

「地下室があるんです。きっと延焼を逃れ
たはずです。中に入らせて下さい!」

「駄目だ。ここはまだ煙が燻っている。
危なくて許可できない!」

あ、確かにまだ煙が……。
それに崩れかけの家屋だ。倒壊する危険が
あるから。兵士様も止める訳だ。

「この子の母親の婚礼衣装がしまって
あるんです。……大事な形見なんです」

うちの母様の婚礼衣装はもう灰だ。
この子の母様の衣装は間に合うかな?

私と父様は視線が合うと互いに頷く。
マックス義兄様はため息をつく。
ごめんなさい。
マックス義兄様、少し待っててね。

「地下室はどの辺だ」

父様が男の人に声をかける。

「え?子爵様?……階段下のスペースです」

……涙声。待っててね。今何とかするから。

まだ燻る家屋に私が氷結魔法をかける。
父様が大剣で倒壊しそうな家屋の柱を
ぶった斬る。バラバラになる家屋。

──ああ、父様の壊し方が派手だから
男の人を怯えさせているよ。
青い顔で家が壊されるのを見守っている。

髭面の大きな熊男が暴れているように
しかみえないもんね。気はいいけど、
見た目が熊だからねぇ。うん。

女の子を抱きしめて震えている。
大丈夫。地下室の鉄の扉が見えましたよ。

「扉、開きますか?熱で歪んでませんか?
火傷に気をつけて下さい」

充分冷やしたけれど念のため声をかける。
男の人が、恐る恐るガチャリと扉を開けた。

「開きました!中は……大丈夫そうです。
ちょっと下りて来ます。その子をお願いし
てもいいですか?」

まだ、ぐする女の子を預かった。
笑いかけると、きょとんとした顔になる。
それから少し笑う。ふふ、可愛いな。
四、五歳かな?
手を繋いで父親が戻るのを待つ。

「ありました!無事です!子爵様!
ありがとうございました!」

婚礼衣装が入った衣装ケースを持って
無事に戻って来た。
よかった。思い出の品が燃えなくて。
ホッとした瞬間、手を繋いでいた女の子が
突然、走り出す。え?どうしたの!

私は女の子を追いかける。
すぐ側の袋小路で捕まえた。

「どうしたの。いきなり走りだして!」

女の子が大きなお人形を持っている。
え?こんな人形さっきは持ってなかったよ。

「この子が歩いてたの。火事で焼けなくて
よかった。この子、ママが作ってくれたの」

……笑顔の女の子に血の気の引く私。
──嫌な予感。罠?

「久し振り。元気そうね」

振り向くと懐かしい顔。
でも、苦手な幼馴染みがそこに立っている。
焦げ茶色のまっすぐな髪。
ぱっちりした青い瞳。それこそ人形のよう
に可愛らしい容姿。子供の頃の面影がある。
大人になっても変わらないなぁ。

「モニカ、火事はあなたの仕業?」

「違うわよ!私、嵌められたの。もう、
どうしていいか分からないの。
助けて、アニエス。アイザック様にも
私、疑われているの。怪我をしていて
どこにも逃げられない」

手首を庇い泣き出すモニカ。

「お父様亡くなったわよ」

「うそ!お父様が?嘘よ!ああ、駄目。
私、もう死ぬしかないわ……」

あれ?モニカは父親に利用されてただけ?
憔悴している。

「砦に戻ろう?利用されただけなら情状酌量
の可能性があるよ?」

「無理よ。戻ったら殺されるわ」

「大丈夫。一緒に戻ってあげるから」

「……本当?一人じゃ怖いの。一緒に戻って
くれるアニエス」

ホッとした顔のモニカ。
あ、私を呼ぶマックス義兄様の声がする。
女の子の手を握り、モニカに手を差し出す。

「ほら、行こう?」

泣き顔のモニカが頷く。
私の方へ歩き出すと私の手を取った。
よかった。
そう、安心した瞬間、
私の腕に何かが嵌められた。

にっこり笑うモニカ。

「よかった。変わらないわね。アニエス。
馬鹿でお人好し。火事は私よ?」

頭に衝撃が走る。
後ろから殴られた。もう、一人いた?
赤い髪の男?
地面に倒れ込む私に女の子が泣き叫ぶ。

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」

「……モニカ、この子は見逃して」

額に血が流れる。
もうろうとした意識。
右手首に見慣れた金の腕輪が見える。
帝国の隷属の腕輪。
私を後ろから殴った男が近付いて来る。
赤い長い髪、金の瞳。
黒いローブ姿。

嘘、でしょう?
──赤竜?

虚ろな瞳。何か変。以前見た赤竜はこんな
感じじゃなかった。
皮膚がちりちりする。
竜化の時に刺さっていた剣。
あれのせい?
人化した今は顔から首に黒い刺青。
以前、黒竜の首にあったものと同じ刺青。
これか。これのせいか。

「大丈夫よ。こんな子いらない。
あんたがいれば充分よ。アニエス、
一緒に戻りましょう?帝国にね」

優しく微笑む幼馴染み。
遠くでマックス義兄様の叫ぶ声が聞こえた。
助けて、マックス義兄様。

──助けてグレン様。
モニカに命じられ、赤竜が私を担ぎ上げる。
袋小路の行き止まり。『穴』が見える。
モニカが飛び込む。

赤竜に担がれたまま私は『穴』に落ちる。


グレン様、グレン様……ごめんなさい。

暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。










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