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第35話、では行きましょう。魔王退治へ

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 ――魔王が世界を滅ぼすのは、当たり前なのではないか?

 カルーナに言われた言葉に対し、妙に納得してしまった二人はそれ以上言葉が出ないまま、お互い顔を見回せたまま呆然としている。
 彼女の言う通り、トワイライト王国を攻め込むのに、理由なんて居るのだろうか?『魔王』であれば、なおさらだ。

「あの男のことじゃ……目的なぞ、ないのであろう。あるとすれば――」

 カルーナはそのように発言しながらルーナに視線を向ける。
 何故、彼女を狙うのか、その理由は本人すら知らない。
 知っているのは、この場ではどうやらカルーナと、そして真実を言う事がないシリウスのみ。
 シリウスは相変わらずしかめっ面な表情を見せながら、ルーナたちに目を向けているだけで何も言おうとはしない。カルーナに真実を言うつもりはないのだろうか、と言う目線を向けられても、シリウスは言葉を発する事はなかった。
 数分程沈黙が続いている中、シリウスは静かに息を吐きながら立ち上がると、そのままルーナに近づき、肩を軽く叩く。

「ルーナ」
「……神父様」
「真実はまだ言えない……もう少しだけ待っていてくれないか?」
「待っていてくれないかって……神父様はその『魔王』を知っているの?」
「ああ、よく知ってる……知っているからこそ、本当に話していいのか正直わからない……しかし、話さなければならないとは思ってる」
「……」

 シリウスにもシリウスなりの考えがあるのだろうと、ルーナは理解する。
 彼が触れた手が、微かに震えているのが分かったからだ。
 平然とした顔をしていても、シリウスの表情が変わっていなくても、この話をするのは怖いのではないだろうか?
 ルーナはシリウスの手に静かに触れた。

「神父様、大丈夫」
「……ルーナ」

「どんな真実でも、私はそれを受け止める覚悟です。だから、落ち着いた時で良いから話してください。私が、一体どんな人物なのか、と言う事を」

 静かに笑いながら答えるルーナの姿を見たシリウスは少しだけ安心したのか、安堵した表情を見せながら、彼女の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
 先ほどの表情とは打って変わって、落ち着いた姿を見せたシリウスに、ルーナは安堵を覚えた後、クラウスに目を向けた。

「それでクラウス様、どうしますか?」
「どうしますかって……何をどうするんだ?」

 突然話を振られたので驚いたクラウスだったが、ルーナはあっけらかんとした顔でクラウスに言う。

「何って、トワイライト王国に行って『魔王』を倒しちゃおうって話ですよ」

「「……は?」」

 簡単にそのように発言するルーナは全く持って、わかっていないような顔をして答えているので、クラウスとシリウスは思わず声をそろえながら発言してしまい、カルーナもその発言を聞いた瞬間、目を見開いたと同時にその場で大笑いをする。
 突然大笑いをし始めたカルーナに疑問を抱きながら首をかしげるルーナに対し、シリウスは両肩を鷲掴みにしながらルーナに詰め寄る。

「どうして、そうなるんだ!!何も考えてないのかお前は!」
「え、だって、このままだとトワイライト王国、滅んじゃうと思って……クラウスさんの国ですよ?あ、故郷って言う意味で」
「だからってなぁお前は!俺やクラウス二人だけで、勝てる相手だと思うか!!」
「え、シリウス様は世界最強じゃないんですか?」
「あー!話が通じねぇ!!」
「そう教えたのはお前さんじゃぞ、シリウス」

 ヒヒっと楽しそうに笑いながら答えるカルーナに対し、シリウスは一度目の前のババアをぶん殴ってやろうかと拳を握りしめた。
 ルーナの変わらない顔を見ながら、クラウスは驚く顔を見せたまま、呆然とルーナに視線を向けている。

「……ルーナ」
「なんですか、クラウス様?」
「俺の国は既に『聖女』の力でほとんど、滅びに向かっているようなものだ。それに俺は国を追われている……戻ってしまったら、それこそ俺は殺されるし、それに既に終わって――」

「国が終わっていても、クラウス様の家族はまだあの国に居るんでしょう?」

「ッ……」

 ルーナの言葉を聞いて、何も言えない。
 確かにあの国を出る前は、まだ家族は無事だった。
 自分だけでも、クラウスだけでもこの国から出るように助けてくれたのは、間違いなく家族だ。
 その家族はまだ、あのトワイライト王国に残ったままだ。
 ルーナはその事を言っている。
 『家族』を救えと。

「クラウス様、私の本当の家族はわかりませんし、孤児と言われていたから知らないです。けど、クラウス様には居るでしょう?」
「……ああ」
「既に終わっている国かもしれないですが、それでも、あの国はクラウス様の故郷であり、大切な場所なのでしょう?」
「……うん」

「大切な存在を失ってしまった後では遅いと思いますよ?」

 その言葉を聞いた瞬間、頭の中で色々と考えていたことが、抑えていた『糸』が一瞬にして千切れた感覚を覚えた。
 ルーナはそのままクラウスの両手を鷲掴みにし、笑顔を見せる。

「もちろん、私も一緒に行きますから、味方になるって言いましたしね」
「……本当、ルーナには敵わないな」

 笑いながら答えるルーナに対し、クラウスの無表情が一瞬にして崩れたような笑みを見せた。
 二人のそのようなやり取りに視線を向けていたシリウスはため息を吐き、カルーナは相変わらず笑っている。

「ヒヒっ、まぁ、ルーナの言い分はわかるがなぁー」
「……まぁ良い。そろそろケリをつけようとは思っていたからな」

 笑いながら答えるカルーナは持っていた杖を強く握りしめ、ため息を吐いていたシリウスは拳を強く握りしめたのだった。
 
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