上 下
34 / 50

第34話、魔王の目的は簡単だった。

しおりを挟む

 『魔王』。

 クラウスはまさかその言葉が出てくるとは思わなかったので、驚いた顔をしてカルーナに視線を向けてしまっていた。対する彼女はその視線が分かっているかのように、いつも以上にヒヒっと笑う。

「王国では『魔王』の話は出なかったのかい?」
「……『聖女』を召喚した理由は、『魔王』だったと、思う……だが、俺は――」
「魔王はおるのじゃよ、若いの……残酷に、ゆっくりとせかいを染めていっておる」
「……」
「トワイライトの聖女は、そのために召喚されたようなモノなのかもしれんが、その聖女も欲に塗れておったようじゃの」
「……周りは既に、そのような事を言う奴らはいない」

 聖女は自分で男のハーレムを作り、そしてその国から出ない。
 本来の目的すら、聖女の『魅了』により忘れ去られてしまっているあの国には、未来がないのかもしれないと感じるほど。
 追い詰められたかのような顔をしているクラウスに対し、カルーナはヒヒっと再度笑いながら話を続ける。

「最近、きな臭い香りもしておるしのぉ……」
「きな臭い、香り?」
「わしの得意分野は、『占い』と言う事になっておる。だから、色々と占う事もある。勿論、『魔王』の事もな」

 笑いながらそのように発言していたのだが、口を止めたカルーナはクラウスに目を向けた。

「危ないかもしれぬぞ、お主の王国が」

「……は?」

  突然自分の国が危ないと言われたクラウスは目を見開き、驚いた顔をしながらカルーナに視線を向ける。
 そして、そんな二人のやり取りを聞き逃さない人物がそこに居た。
 カルーナの発言により、シリウスは耳で聞いていたらしい。振り向きながらカルーナに目を向ける。

「盗み聞きかい、シリウス?」
「……あの男の事を話していたんだろう?聞き耳立てるのは当たり前だろうが」
「あんたは本当に『奴』の事、死ぬほど嫌いだからね」
「……」
「……まぁ、わしも嫌いさね、『奴』は」

 何処か悲しそうな顔をしているカルーナと、カルーナの言葉に図星を感じたのか、嫌そうな顔をしながら視線をそらしている。

「神父様?」

 ルーナはどうやらクラウスとカルーナのやり取りを聞いていなかったのか、首をかしげてシリウスに問いかけるが、シリウスは話をしようとしない。
 ルーナは今度はカルーナとクラウスに目を向けると、クラウスの様子がおかしい事に気づいた。無表情だった顔が崩れているかのように、挙動不審のようにも見えた。
 流石にまずいのではないかと感じたルーナは立ち上がり、急いでクラウスの傍に行く。

「クラウス様どうしたんですか!もしかして、何かの病気じゃ……」
「ち、違う、ルーナ……大丈夫だ」
「けど、すごい汗だし、もしかして何か変なモノ食べたとか……」
「大丈夫じゃよ、ルーナ」

 そんな二人のやり取りを見ていたカルーナが間に入り、クラウス、そしてルーナの二人を交互に見た後、笑みを零しながらルーナの頭を撫でる。

「わしが少し変な事を言ってしまったから、動揺しただけじゃ。気にせんでええ」
「……本当に?病気とかじゃなくて?」
「ああ、大丈夫」
「……それなら、良いんだけど」

 それでも心配なのか、何回かクラウスに目線配りをした後、静かに息を吐きながらカルーナに目を向ける。
 対し、カルーナはルーナとクラウスの二人に目を向けながら、先ほどの話の続きをを口に出す。

「ルーナ、以前お前に魔王の話をしたな?」
「あ、う、うん……」

『……『勇者召喚』と言うのは、さっきも言った通り、別世界の人間をこちらの世界に召喚するために、今は禁忌とされる魔術の一種だ。ある国では、何人もの魔術師を生贄にして召喚儀式を行ったと言う例もある……わしが知る限りのある小国では、一人の少年が召喚され、『勇者』と崇められた』

『しかし、だれしもその召喚された存在が、『聖人』とは限らん』

 嘗てある小国で、ある目的の為に、『勇者』が召喚された。
 召喚された存在は、小さな少年だった。
 以前話してくれた言葉を、ルーナは今でも覚えている。覚えていきたい話だったからでもある。
 勇者は過ちを犯した。

『その『勇者』は小国の王、妃、王国のやつらと民を全て殺し、目的である人物を自分のモノにしようとしたのじゃよ』

「……『勇者』は目的の為に、『魔王』になったって話、だよね?」
「そう。そしてその『魔王』がお前の近くに訪れようとしている」
「どうして、ボ……私、なの?」
「……」
「……」

 ルーナの問いかけに、カルーナは一回シリウスに視線を向けると、シリウスは首を横に振る。
 何か、話していけない事なのだろうかと思いながら、ルーナは二人の簡単なやり取りに視線を向けると、静かに息を吐きながらルーナを見る。

「あそこの保護者がまだ話すなって言うお達しだから理由は言えん。だが、目的は『お前』でもある」
「……」

 ルーナはただの孤児のはずだ。
 それなのに、どうしてその人物が近づいてくるのだろうかと言う疑問が彼女の頭の中に過る。
 鋭い視線をシリウスに向けるのだが、シリウスは気にしないかのように視線をそらしていた。

 一方、納得出来ないクラウスがカルーナに問いかける。

「じゃあ、その『勇者』は何故トワイライトに向かっているんだ?」
「はっきりした事はわからんが……一つ言える事はある。奴は『魔王』だ」
「『魔王』って呼ばれているから……?」

「――この世界を滅ぼしたいのは、『魔王』の目的なのではないか?」

 カルーナが言っている意味に気づいたクラウスは目を見開き、頭を抱える。
 つまり、『魔王』には理由がない。

 滅ぼす標的の一つとして、そこがトワイライト王国だという事をカルーナは告げたかったのであろう。

 意味を理解したクラウスは歯を噛みしめる事しかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

処理中です...