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しおりを挟むセンリが獣人についての常識的な話を教えてくれたが、やはり家族とは言っても俺とコクヨウの距離は近過ぎるのかもしれない。一緒に寝ているのが原因なのだろうか…?匂いがついてる、みたいなことも言われたし。
「なぁコクヨウ、お前俺に匂いつけてたりするか?」
「ん?なんで?」
「あー、いや、今日話した獣人の冒険者がそう言ってたからな…」
「ふーん、気にしなくていいよタカミ。僕、自分の匂いがする方が安心するんだよね。だから匂い移してるけど…やだ?」
「いや、嫌ではねぇけど…普通はあんまりしねぇって聞いたからよ。一応確認しただけだ。」
「そうなんだ。」
安心する、か。それならそれでいいだろう。これからも別に匂いくらい付けてくれてもいい。俺にはどうせ分かんねぇし。それが分かるのは多分獣人くらいなんだろう。
この話題から話を逸らすべく、学校のことを聞いてみた。
「おう…ところで学校はどうだ?クラスの子らとは上手くやれてるか?」
「さぁね。あんまり話したことないし。」
「…少しくらい話してみたらいいだろ?」
「嫌だよ。少し話しただけで勝手に友達面してきたり、恋人だって虚言を言われたりするからね。」
「は?なんだよそれ…実体験か?」
「うん。でも本当に少しの間だけだよ。サク達と友達になってからは三人が守ってくれてたから。」
「聞いてねぇぞ?」
これは思わぬ藪蛇だ…まさかコクヨウがスールエの学校でそんな目に合っていたなんて全く知らなかった…。あっさりと、まるでなんでもない事のように言い放たれた過去。いくらコクヨウが気にしていなくても、俺はそのことに気付いてやることさえ出来なかったらしい。
確かにコクヨウの見た目ならあり得る話だ。その上、あの頃から成長して更に逞しくなったし、美男である。勉強も出来る上、剣も出来る。利用しようと寄ってくる者は跡を絶たないだろう。
「だって言っても心配かけるだけだし」
「…それでも相談くらいしてくれ…俺は親としてそんなに頼りなかったか?」
そう…俺は何よりも悲しいのだ。コクヨウが嫌な目にあった時にそれを話してさえ貰えなかった事が…
「そうじゃない…そうじゃなくて」
「それ以外にどんな理由があるってんだ!!」
ついコクヨウが言い募るのを怒鳴り付けて遮ってしまう。コクヨウは必死に伝えようとしてくれているのに俺は…本当に情けない。
「…僕はただ…僕のこと必死に育ててくれてるタカミの負担を増やしたくなかった…」
「それは頼りないってことだろ?…悪かったな…俺みたいな親でよ…お前はもっと裕福な奴らに引き取られたほうが幸せになれたんだろうな…」
昔から心の片隅で考えていたことがつい、口からこぼれ落ちる。これは言ってはいけないことだ…。でも考えずにはいられなかった。
昔、コクヨウが学校で頭が良い事が分かった時、明らかに上層階級みたいな奴らがコクヨウを引き取りたいと申し出てきたのを俺は…俺のエゴと独断で断ってしまったから。
俺の言葉に悲しげに顔をくしゃりと歪ませたコクヨウが抱き着いてくる。随分大きくなった。そっと抱き締め返し、震えるコクヨウに寄り添う。
「なんで…なんでタカミがそんなこと言うの…?僕はタカミが拾ってくれて良かったって思ってる。大好きだよタカミ。」
「……わりぃ…忘れてくれ。俺もお前といられて幸せだ。愛してるコクヨウ」
「うん…タカミ、ずっと一緒にいてね。それだけで僕、幸せだから」
「おう、俺もだ。」
その日は抱き締めあって眠りについた。本当ならセンリの忠告に従って、ベッドを分けるつもりだったが、俺のせいで泣かせてしまった可愛い息子を無理に離すことは出来なかった。明日こそは…
俺も子離れが必要だろうしな…来る日の別れに備えておかなければいけないと思うのだ。コクヨウだってその内恋人が出来て、結婚して…俺とは別の道を歩むことになるんだからな。
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