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しおりを挟む結局のところ、獣だと思っていた亡骸が実は獣人出会ったことと彼の死因には刃物を扱える人間などが関わったということが判明した訳だ。しかしそれ以上のことは分からず仕舞いだ。
そして、森の異変には魔物、動物避けの香などが使われた可能性が高いだろうと結論付けられた。しかしそれにしては効果が長すぎる気もするが…
魔物、動物避けの香は普通森の中で野営をしたりするときに使用される。しかし大量に使用したり、魔物の誘導などを目的としての使用は禁止されている。今回それが使われているのなら、犯罪だ。国の兵が動くだろう。
また被害にあったのが獣人だということもあって、国際的な問題にもなりかねず、国にも報告が必要だということになった。ギルドからの報告として提出してくれるそうなので、俺が何かする必要はないそうだ。
「…ご協力ありがとうございました。情報提供のお礼です。一応情報を言いふらすのはお控えください。」
「ああ…もう森の家に帰っても問題ないんだよな?」
「ええ、しかしお気をつけ下さい」
「わかってる」
報酬を受け取ったりしてかなり遅くなってしまった…。コクヨウ怒ってるかもな。扉に近付けばカリカリと扉を引っ掻くような音がした。なんとか扉を開けようと奮闘しているんだろう。
「コクヨウ、戻ったぞ。開けるから扉から離れてろ」
爪音が聞こえなくなったので離れてくれたんだろう。それでも扉をぶつけない様にゆっくりと押し開く。俺が部屋に入るよりも前にヒラリとコクヨウが飛び出してきた。
「がるるる!!」
「遅くなって悪かったな。そう怒るなよ。臨時収入があったんだ。美味い肉買って帰ろうな」
「がるる」
撫でようとすると甘噛みされた。血が出るほどでもないので本気ではないだろう。そこそこ痛いけどな。事情があったとはいえ一人で部屋に置いて行ったのは可哀想だったよな…。
目線を合わせるように屈み、許しを乞う。
「コクヨウ、ごめんな。許してくれ。帰ろう?」
「…み」
「待っててくれてありがとな。」
まだ機嫌は悪そうだがそれでも一緒に来てくれるようだ。来たときのように肩に乗せてギルドを後にする。
「コクヨウ、肉買ったら森の家に帰るぞ」
「みー?」
「俺が暮らしてる…いや、暮らす予定の家だ。お前の家でもあるんだぞ。狭いけどな。」
そう、家が出来た途端に宿暮らしをしていたのだ。まだ暮らしてるとは言えないだろう。コクヨウのためのベッドなんかも準備してやった方がいいかも知れないが、小さい内は一緒にベッドで寝ればいいだろう。宿でもそうしていたしな。
仕事をしなければいけないが、今回の報酬は中々良かった。銀貨30枚だったからな。報告報酬は相場銀貨5~20枚くらいだ。幅があるのは報告内容の重要度によって変わってくるからだ。今回のは口止め料も含まれるから相場より上がったのだろう。なんにせよ、金は大事だからな。
コクヨウの為の高めの肉を買って宿にも寄って、銀貨10枚を修理費として返して街を出た。残りの手持ちは銀貨15枚。もらった分がもう半分だ。仕方ねぇよな。頑張って働くとしよう。
「なぁ、コクヨウ、街からの道ちゃんと覚えるんだぞ。お前一人で街に来ることは暫くねぇと思うが、もしまた何かあってもちゃんと帰ってこられるようにな。」
「みー」
「おし、じゃあまず出る門だが、南の門だ。水の紋章がついてるとこだ。よく見とけ」
「み!」
それからも別れ道はどっちだとか、目印はなんだとか言い聞かせながら帰り道を歩いた。コクヨウがどれくらい覚えたかは分からないが、これからも教えよう。地理は大事だからな。そして帰り着いた我が家。久しぶりだが特に変わった様子もなくそこに佇んでいた。
「ここが俺達の暮らす家だ。」
「み」
「ただいま。コクヨウ、おかえり」
「みー!」
「腹減ったな。取り敢えず飯だ!」
「みー!」
部屋に入ったコクヨウはきょろきょろと周りを見回して、落ち着かなさそうにうろちょろしていた。そして結局俺のところに戻ってきて、俺の足に身体を擦り付ける。
「どうした?落ち着かねぇか?」
「みゃう」
「ま、ずっとここで暮らしてくことになるからな、そのうち馴れるだろうよ。」
「みー…」
「飯皿に盛ったから食え食え!今日のは特別美味いぞ!」
「みー!」
目の前に高級肉を置いてやれば、肉に釘付けになる。尻尾もご機嫌に揺れている。俺も自分用の安い肉を皿に盛った。
「いただきます」「み!」
肉を口にしたコクヨウが一瞬固まる。肉の柔らかさに驚いたみたいだ。また直ぐに食べ始めたので気に入ったのだろう。俺も安くて少し噛みごたえがあるが美味い肉を食い始める。
「みー!」
「食い終わったのか?他の肉ならあるが…ん?残したのか?」
美味い肉だった筈だが…3分の1程残してこちらに差し出してくる。もういらないのか?凄く食欲旺盛だし、盛ってやった量くらいなら普段食べているんだが…聞いてみてもフルフルと首を振るので残した訳ではないらしいが。
「じゃあなんだ?俺にくれんのか?」
「み!」
「…マジか…お前どんだけ良い子なんだ!!ありがとな、でもお前が食っていいんだぞ。俺はいつもの肉も好きなんだ。」
「み?」
ほんと?と首を傾げた姿も可愛い。もう一度進めてやると肉を食べ始めた。それにしても美味い肉を俺にもくれようとするなんて…コクヨウは優しいな。
そんなコクヨウに癒やされて食事を終えた。その後、家の隣辺りに簡単な土魔法で穴を開けた。そしてそこに亡骸をそっと埋める。コクヨウはその様子を少し離れたところからじっと見ていた。埋めた場所の上に墓標を立てる。
俺は彼の名前も知らないので、何も刻むことはしなかった。墓が出来上がると、コクヨウは墓の前で祈るように目を閉じてじっとしていた。その隣で俺も彼の冥福を祈る。
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