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褒め殺し?
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「やあ、ナオ。例の食事会、成功だったらしいな」
心の中で溜息をつきかけたタイミングで声をかけられたものだから、驚いてしまった。
ジョエルは、パーティーの後片付けでみんなが走りまわっている中悠然とこちらに向ってくる。
その渋カッコいい顔に、レディたちがうっとりするほどの魅惑的な笑みを浮かべて。
「宰相閣下、ご挨拶申し上げます」
あらためて挨拶をする。パトリックがお愛想で褒めてくれたメガネ面に愛想笑いを浮かべておくのを忘れない。
「宰相閣下のご協力のお蔭です」
そう応じると、ジョエルの渋カッコいい顔に苦笑が浮かんだ。
「ナオ、きみはあいかわらず謙遜家だな。きみは、もっと自分の能力を自覚し、それを誇りに思うべきだ。食事会でのメニュー、きいたよ。それにいたるまでの経緯もな。ほとほと感心している。心から敬意を表したい」
(ジョエル、あなたいったいどうしたの? わたしをおだてまくるだなんて、なにか裏があるの? なにをたくらんでいるの? もしかして、わたしを抱き込んでよからぬことをさせようとでもいうの?)
たとえば、アレックスや国王を毒殺するとか?
うなじがゾワゾワしてくる。
わたしのうなじは、こういうことに敏感なのである。
「さすがは副侍女長だ。うっかり伝え忘れた情報があったのだが、きみはちゃんと知っていた。しかも、その情報を完璧にフォローしてくれた。これはもう侍女というよりか、外交官レベルの才能や能力だ。そして、外交官以上の機転と行動力だ。働きだ。王子殿下、いや、新国王も鼻が高かっただろう。もちろん、おれも宰相として大満足している」
「ありがとうございます、宰相閣下」
パトリックに「謙遜もときには嫌味になる」、と言われたことを不意に思い出した。
パトリックのような自然で嫌味のない褒め言葉と違い、ジョエルの言葉にはどうもひっかかるものがある。
それでも一応、礼を言っておいた。
たとえしらじらしいおだて言葉とわかってはいても。
二度目の人生のわたしは、「できる侍女」なだけでなく「空気を読む侍女」でもあるから。
というか、やはりジョエルはディーマー帝国の宗教で獣肉が禁じられていることを黙っていたのだ。
(なにが『うっかり伝え忘れた』、よ)
心の中で苦笑してしまった。
「今夜の詫びと礼を兼ねて、きみをわが屋敷に招待しよう。おれがパーティー内で発表した内容、きみはきいていなかっただろう? そのことも直接伝えたいしな」
「はい?」
(なんですって? わたし、いま聞き間違えた? わたしを招待する? 直接伝えたい?)
彼の爵位が公爵で、宰相という立場で、さらにはわたしよりかなりの年長ではあるけれど、あまりにも上から目線すぎないかしら?
というか、どうしてわたしが彼に誘われるの?
今夜は、あまりにも突拍子のないことが多すぎない?
心の中で溜息をつきかけたタイミングで声をかけられたものだから、驚いてしまった。
ジョエルは、パーティーの後片付けでみんなが走りまわっている中悠然とこちらに向ってくる。
その渋カッコいい顔に、レディたちがうっとりするほどの魅惑的な笑みを浮かべて。
「宰相閣下、ご挨拶申し上げます」
あらためて挨拶をする。パトリックがお愛想で褒めてくれたメガネ面に愛想笑いを浮かべておくのを忘れない。
「宰相閣下のご協力のお蔭です」
そう応じると、ジョエルの渋カッコいい顔に苦笑が浮かんだ。
「ナオ、きみはあいかわらず謙遜家だな。きみは、もっと自分の能力を自覚し、それを誇りに思うべきだ。食事会でのメニュー、きいたよ。それにいたるまでの経緯もな。ほとほと感心している。心から敬意を表したい」
(ジョエル、あなたいったいどうしたの? わたしをおだてまくるだなんて、なにか裏があるの? なにをたくらんでいるの? もしかして、わたしを抱き込んでよからぬことをさせようとでもいうの?)
たとえば、アレックスや国王を毒殺するとか?
うなじがゾワゾワしてくる。
わたしのうなじは、こういうことに敏感なのである。
「さすがは副侍女長だ。うっかり伝え忘れた情報があったのだが、きみはちゃんと知っていた。しかも、その情報を完璧にフォローしてくれた。これはもう侍女というよりか、外交官レベルの才能や能力だ。そして、外交官以上の機転と行動力だ。働きだ。王子殿下、いや、新国王も鼻が高かっただろう。もちろん、おれも宰相として大満足している」
「ありがとうございます、宰相閣下」
パトリックに「謙遜もときには嫌味になる」、と言われたことを不意に思い出した。
パトリックのような自然で嫌味のない褒め言葉と違い、ジョエルの言葉にはどうもひっかかるものがある。
それでも一応、礼を言っておいた。
たとえしらじらしいおだて言葉とわかってはいても。
二度目の人生のわたしは、「できる侍女」なだけでなく「空気を読む侍女」でもあるから。
というか、やはりジョエルはディーマー帝国の宗教で獣肉が禁じられていることを黙っていたのだ。
(なにが『うっかり伝え忘れた』、よ)
心の中で苦笑してしまった。
「今夜の詫びと礼を兼ねて、きみをわが屋敷に招待しよう。おれがパーティー内で発表した内容、きみはきいていなかっただろう? そのことも直接伝えたいしな」
「はい?」
(なんですって? わたし、いま聞き間違えた? わたしを招待する? 直接伝えたい?)
彼の爵位が公爵で、宰相という立場で、さらにはわたしよりかなりの年長ではあるけれど、あまりにも上から目線すぎないかしら?
というか、どうしてわたしが彼に誘われるの?
今夜は、あまりにも突拍子のないことが多すぎない?
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