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セブンナイト
リリアとソルシャのお茶会
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ソルシャと言う女の子はリリアが感じた通りの女の子だった。真っ直ぐで素直で正直で……そして裏表がなく、思ったことが良いことであれ悪いことであれ口に出してしまうのだ。
だからこそ、年齢が近くて親しく接してくれたルーナとはまた違った形でとっつきやすかった。
「あーはっはっは。それで大量の虫に追いかけられたの?」
「笑いごとじゃないんですよー!」
今は二人で交互に自分の話をしているのだ。ソルシャからは尊敬する女性の騎士の話や自分がその人の代わりに偉い役職に選ばれたことの話を。
リリアは砂漠の下の街の話や雪山にスノーパールと言う果実を取りに行った話を。もちろんその話では大地と抱き合ったことや……普段なら自分が言わないことを大地に言った件については一切振れずにだが。
そして最近大地と調査した森の中の遺跡の話でソルシャは多いに笑っている。しかし、言葉にした通りリリアとしては二度と体験したくないほど恐ろしい出来事だったのだ。その事を知らないソルシャにリリアはむくれ顔で口を尖らせて言った。
「本当に怖かったんですから……」
「ごめんごめん……プッ……クク……」
リリアの話を聞いたソルシャはツボにはいったようでリリアに悪いと思いながらも両手で抑えた口の端から笑いを溢してしまう。
「もー!もーー!!」
自分の失敗談のせいもあってリリアは体いっぱいを使って抗議をするしかなかった。
「それでも、そのダイチ?って人と一緒に逃げ切ったんでしょ?」
「一緒にといいますか、私は大地さんに抱きついて抱えられたので……」
いまでも思い出せるのは大地のたくましい腕に抱かれていた時の事だ。あんなふうに抱きつけるのは大地くらいだが思い出すとあの時の恐怖心も忘れ不思議と耳が熱くなってくる。
「へぇー!へぇー!リリアちゃんが抱きついてねぇ。そうやって抱きつける人がいるのはちょっと羨ましいな」
「そ、そうですね。ソルシャちゃんはそういう人はいないんですか?」
憧れのように言うソルシャへ振るとソルシャは両手をブンブンと動かして大袈裟なまでに否定した。
「わ、私ぃ!?ない!ないよ!抱きつける人なんていない!」
「そ、そうなんですか?」
リリアも当たり前のように話しているが実際のところ何もなければ大地に抱きつくのは難しい。しかし慣れている感じを出したくて見栄を出してしまうくらいは良いかな?と胸の内を隠す。
「うん!だって僕は騎士になるために子供の頃からずっと修練ばかりだったから。リリアちゃんはやっぱり何度かあるの?」
「わ、私は……抱きつくよりも抱き抱えられる方が多いです……」
いろんな所で抱き抱えられたことを思い出したが、一番の思い出としては自分が病気の時だろうか。フルネールからパジャマを貰って着た後にふらっとした時だ。
数ある中でもあの時程、体を大地に預けたことはないだろう。
「もしかして全部ダイチって人に?」
「は、はい」
「へぇー!リリアちゃんはそのダイチって人の事が好きなの?」
「はい!好きですよ!とても大事な人です」
「やっぱり恋してるんだね!」
「恋?皆さんが言うその恋って何なのでしょう?」
何時もダイチの話をすると『恋』や『好き』と言う言葉が出てくる。それが不思議でならない。
「え?うーん、ごめん僕もちゃんとはわからないや!」
少しだけ考えたソルシャはすぐに考えるのをやめた。思えば自分も恋愛らしい事なんてしてこなかったのだ。
「えー!ソルシャさんが振った話なのに……」
「でもリリアちゃんがそうであるようにダイチって人もリリアちゃんの事が好きなんだろうね!」
話をそらす意味合いも込めて言った言葉だが、リリアの顔は少しだけ曇りがかった。
「ど、どうなのでしょう?出会ったときなんて私の事をちんちくりんって呼んだんですよ!」
かと思えば思い出したかのようにムッとした顔にもどって言うものだから、台詞と合間ってソルシャは再び笑う。
「ちんちく……あっはっは。背が低いからね!」
「ソルシャさんも同じくらいの背丈じゃないですかー!」
「それでも僕はリリアちゃんよりも(少しだけど)背が高いもんね!それに僕は17歳だし!」
自分の頭の上に動かして軽く振るうことで自分の方が背丈があるアピールをソルシャがすると、リリアはさらに抗議の色を強める。
「私は16歳で一歳しか違いませんよー!もー!」
それでまたひとしきり笑いが出るのだがソルシャがふと外を眺めると夕日が落ちてくる時間になっていた。
「あ!もうこんな時間なんだね。そろそろ行かなきゃ」
ソルシャが椅子から降りるとリリアは少しだけ残念そうな表情を顔に出した。
「また、お話に付き合ってくれますか?」
やはり一人より二人の方がとても楽しい。特にソルシャのような女の子だと砕けて接することが出来るのもあって惜しい時間なのだ。
「もちろん!」
たった一言だけれどソルシャは笑顔でそういうと扉を開け部屋の外へ出ていった。それをぼんやり眺めながらリリアは楽しいおしゃべりを思い出して少しだけクスリと笑うのだった。
リリアの部屋から出たソルシャは来た道を戻るように廊下を歩く。何だかんだで10年以上は住んでいる場所なのだ。滅多なことでは迷うものでもない。
「あ!ギルニア!」
目の前からギルニア公爵がやってくるのを見つけたソルシャがその名前を気安く呼んだ。
「ソルシャ様。リリア様とのお話はどうでしたか?」
そんなソルシャにたいしてギルニア公爵は一礼をもって返す。
「うん!たくさんお話ししたよ!僕の話もリリアちゃんのお話もね!」
「それは何よりです。少しは楽しめましたか?」
「うん!!楽しかったよ!でも、これって本当に王様からのご命令なの?」
「ええ。そうです」
「あはは。変わった命令だよね。僕は王様に直接あってないから信じるけど……ねえ?リリアちゃんを無理やり拐ってきた。なんて事はないよね?」
小さいながらもソルシャは鋭い視線をギルニア公爵へ向けられ、ギルニアはやや圧倒されながらもなんとか口を開く。
「え、ええ!もちろんですとも。ご命令も某お姫様の不安を少しでも取り除くようにとの事ですので……」
「その某お姫様としか聞いてないけどリリアちゃんは何処の国のお姫様なの?」
「そ、それが答えられないので某お姫様と濁しているのですよ。ですからソルシャ様もここにお姫様がいる事はご内密に」
秘密にする意味もわからないが少なくともリリアからは『無理やり連れてこられた』や『助けて』といった言葉は聞いていない。
「わかった!それにリリアちゃんにもいっぱい笑って貰ったから不安は減ったと思うよ!」
「それは……本当に何よりです」
「おっとと。それじゃあ僕は修練所に顔出してくるねー!」
「はい。行ってらっしゃいませ」
そうして修練所にいくソルシャを見送ったギルニア公爵は肺の空気を吐き出しながら胸を撫で下ろした。一つの綱を渡り終わったのだ。だが、これでお姫様の話し相手が作れたのは喜ばしい。
もう少しで自分の望みが成就するのだから今がきつくても耐えどころなのだ。
「我が七騎士も地方から召集せねばな……」
いずれあのソルシャも屈服させて見せる。その思惑が楽しくてギルニア公爵は喉の奥でクックと笑う。
「今からが楽しみだ!」
日がもうじき落ちる。なれば今日が無事に終わると言うことだ。それがこんなに待ち遠しいと思うのはどれくらいぶりだろう。
ギルニア公爵は夜の帳がやってくることに安堵しつつ暗く成りゆく廊下へと姿を消していった。
だからこそ、年齢が近くて親しく接してくれたルーナとはまた違った形でとっつきやすかった。
「あーはっはっは。それで大量の虫に追いかけられたの?」
「笑いごとじゃないんですよー!」
今は二人で交互に自分の話をしているのだ。ソルシャからは尊敬する女性の騎士の話や自分がその人の代わりに偉い役職に選ばれたことの話を。
リリアは砂漠の下の街の話や雪山にスノーパールと言う果実を取りに行った話を。もちろんその話では大地と抱き合ったことや……普段なら自分が言わないことを大地に言った件については一切振れずにだが。
そして最近大地と調査した森の中の遺跡の話でソルシャは多いに笑っている。しかし、言葉にした通りリリアとしては二度と体験したくないほど恐ろしい出来事だったのだ。その事を知らないソルシャにリリアはむくれ顔で口を尖らせて言った。
「本当に怖かったんですから……」
「ごめんごめん……プッ……クク……」
リリアの話を聞いたソルシャはツボにはいったようでリリアに悪いと思いながらも両手で抑えた口の端から笑いを溢してしまう。
「もー!もーー!!」
自分の失敗談のせいもあってリリアは体いっぱいを使って抗議をするしかなかった。
「それでも、そのダイチ?って人と一緒に逃げ切ったんでしょ?」
「一緒にといいますか、私は大地さんに抱きついて抱えられたので……」
いまでも思い出せるのは大地のたくましい腕に抱かれていた時の事だ。あんなふうに抱きつけるのは大地くらいだが思い出すとあの時の恐怖心も忘れ不思議と耳が熱くなってくる。
「へぇー!へぇー!リリアちゃんが抱きついてねぇ。そうやって抱きつける人がいるのはちょっと羨ましいな」
「そ、そうですね。ソルシャちゃんはそういう人はいないんですか?」
憧れのように言うソルシャへ振るとソルシャは両手をブンブンと動かして大袈裟なまでに否定した。
「わ、私ぃ!?ない!ないよ!抱きつける人なんていない!」
「そ、そうなんですか?」
リリアも当たり前のように話しているが実際のところ何もなければ大地に抱きつくのは難しい。しかし慣れている感じを出したくて見栄を出してしまうくらいは良いかな?と胸の内を隠す。
「うん!だって僕は騎士になるために子供の頃からずっと修練ばかりだったから。リリアちゃんはやっぱり何度かあるの?」
「わ、私は……抱きつくよりも抱き抱えられる方が多いです……」
いろんな所で抱き抱えられたことを思い出したが、一番の思い出としては自分が病気の時だろうか。フルネールからパジャマを貰って着た後にふらっとした時だ。
数ある中でもあの時程、体を大地に預けたことはないだろう。
「もしかして全部ダイチって人に?」
「は、はい」
「へぇー!リリアちゃんはそのダイチって人の事が好きなの?」
「はい!好きですよ!とても大事な人です」
「やっぱり恋してるんだね!」
「恋?皆さんが言うその恋って何なのでしょう?」
何時もダイチの話をすると『恋』や『好き』と言う言葉が出てくる。それが不思議でならない。
「え?うーん、ごめん僕もちゃんとはわからないや!」
少しだけ考えたソルシャはすぐに考えるのをやめた。思えば自分も恋愛らしい事なんてしてこなかったのだ。
「えー!ソルシャさんが振った話なのに……」
「でもリリアちゃんがそうであるようにダイチって人もリリアちゃんの事が好きなんだろうね!」
話をそらす意味合いも込めて言った言葉だが、リリアの顔は少しだけ曇りがかった。
「ど、どうなのでしょう?出会ったときなんて私の事をちんちくりんって呼んだんですよ!」
かと思えば思い出したかのようにムッとした顔にもどって言うものだから、台詞と合間ってソルシャは再び笑う。
「ちんちく……あっはっは。背が低いからね!」
「ソルシャさんも同じくらいの背丈じゃないですかー!」
「それでも僕はリリアちゃんよりも(少しだけど)背が高いもんね!それに僕は17歳だし!」
自分の頭の上に動かして軽く振るうことで自分の方が背丈があるアピールをソルシャがすると、リリアはさらに抗議の色を強める。
「私は16歳で一歳しか違いませんよー!もー!」
それでまたひとしきり笑いが出るのだがソルシャがふと外を眺めると夕日が落ちてくる時間になっていた。
「あ!もうこんな時間なんだね。そろそろ行かなきゃ」
ソルシャが椅子から降りるとリリアは少しだけ残念そうな表情を顔に出した。
「また、お話に付き合ってくれますか?」
やはり一人より二人の方がとても楽しい。特にソルシャのような女の子だと砕けて接することが出来るのもあって惜しい時間なのだ。
「もちろん!」
たった一言だけれどソルシャは笑顔でそういうと扉を開け部屋の外へ出ていった。それをぼんやり眺めながらリリアは楽しいおしゃべりを思い出して少しだけクスリと笑うのだった。
リリアの部屋から出たソルシャは来た道を戻るように廊下を歩く。何だかんだで10年以上は住んでいる場所なのだ。滅多なことでは迷うものでもない。
「あ!ギルニア!」
目の前からギルニア公爵がやってくるのを見つけたソルシャがその名前を気安く呼んだ。
「ソルシャ様。リリア様とのお話はどうでしたか?」
そんなソルシャにたいしてギルニア公爵は一礼をもって返す。
「うん!たくさんお話ししたよ!僕の話もリリアちゃんのお話もね!」
「それは何よりです。少しは楽しめましたか?」
「うん!!楽しかったよ!でも、これって本当に王様からのご命令なの?」
「ええ。そうです」
「あはは。変わった命令だよね。僕は王様に直接あってないから信じるけど……ねえ?リリアちゃんを無理やり拐ってきた。なんて事はないよね?」
小さいながらもソルシャは鋭い視線をギルニア公爵へ向けられ、ギルニアはやや圧倒されながらもなんとか口を開く。
「え、ええ!もちろんですとも。ご命令も某お姫様の不安を少しでも取り除くようにとの事ですので……」
「その某お姫様としか聞いてないけどリリアちゃんは何処の国のお姫様なの?」
「そ、それが答えられないので某お姫様と濁しているのですよ。ですからソルシャ様もここにお姫様がいる事はご内密に」
秘密にする意味もわからないが少なくともリリアからは『無理やり連れてこられた』や『助けて』といった言葉は聞いていない。
「わかった!それにリリアちゃんにもいっぱい笑って貰ったから不安は減ったと思うよ!」
「それは……本当に何よりです」
「おっとと。それじゃあ僕は修練所に顔出してくるねー!」
「はい。行ってらっしゃいませ」
そうして修練所にいくソルシャを見送ったギルニア公爵は肺の空気を吐き出しながら胸を撫で下ろした。一つの綱を渡り終わったのだ。だが、これでお姫様の話し相手が作れたのは喜ばしい。
もう少しで自分の望みが成就するのだから今がきつくても耐えどころなのだ。
「我が七騎士も地方から召集せねばな……」
いずれあのソルシャも屈服させて見せる。その思惑が楽しくてギルニア公爵は喉の奥でクックと笑う。
「今からが楽しみだ!」
日がもうじき落ちる。なれば今日が無事に終わると言うことだ。それがこんなに待ち遠しいと思うのはどれくらいぶりだろう。
ギルニア公爵は夜の帳がやってくることに安堵しつつ暗く成りゆく廊下へと姿を消していった。
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