初めての異世界転生

藤井 サトル

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セブンナイト

ドジっ娘はそれだけで必殺の威力

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 大地はハンナの言っている意味がすんなりと入ってこなかった。リリアは小さくてちんちくりんでも弱くはない。何かあれば大地の下へ来ることだって出きるはず。なのに今の今までなんの音沙汰もなかったのだ。

「ハンナさん?それはどういう……」

 大地がもう一度聞こうとした時だった。慌てた様子で近づいてきたハンナが「きゃっ」と言う小さな悲鳴と共に足をもつれさせたのだ。それもハンナの両手は自信の胸より開けた状態であり……つまるところ胸の柔らかみを大地の胸に押し付ける形となった。

「おっと」

 そのままハンナを受け入れる形で抱きとめる。

「だ、大丈夫か?」

 心の中で『平常心!平常心!』と念仏のように唱えながらポーカーフェイスを維持するのがやっとの大地にハンナは少し驚いたせいで涙目になりながら「うぅ……ありがとうございます」と顔を上げてお礼を言う。

 わかるだろうか?彼女が動く度に伝わる柔らかい体の感触。そして頭を動かした事で香る女性特有の髪のいい匂い。ポーカーフェイスも限界に……。

「はっ!?」

 フルネールから視線を感じる。これはつまるところ……女性にドキドキしていることがバレた……?

 大地が恐る恐る顔を動かしてフルネールへ向くとすんごい面白そうな者を見るような顔をしている。

 ハンナが大地から離れる。それは惜しいと思える事でもあるが……それよりもフルネールにバレてしまったのは非常に不味いかもしれない。オモチャにされる……。

「ダイチさん。リリア様が……」

「ああ。そうだ!リリアが拐われたってどう言うことだ?」

 ここは勢いにまかせてごまかす作戦だ。それにリリアが拐われたなんて何かの勘違いだろう。

「これを……」

 そう言ってハンナが取り出したのは小さな紙だ。その紙には魔方陣が描かれている。

「なるほどな」

 わからん……。

 わからないなら頷かなければいいのに……。かっこよく見せたいんですか?ハンナさんに抱きつかれていい匂いでもしましたか?

 うぐぅ……。

「それって転移魔道具ですね。もしかしてリリアちゃんの部屋にそれが?」

 いつの間にかに横に立っていたフルネールが助け船を出してくれる。それに乗る形でわかってるぜと言うような顔で大地はハンナの方へ向く。

「はい。使われてしまった後ですから何処に行ったとかはわからないんですけど……」

「使われたとしたら昨日の夜中かな?まずはこの事を早く王様に伝えた方がいいかも?」

 フルネールとは逆サイドに立ったクラリスがハンナにそう助言するとハっとしたように顔を上げた。

「そ、そうでした!今からお城に行ってきます!」

 そう言って嵐のように現れたハンナはギルドの扉をバタンと開けて走って出ていった。

「それにしてもリリアちゃんが拐われたのに大地さんは落ち着いてますね」

「え?ああ。本当に拐われたのか?って思ってな。リリアだって何かあれば自衛できるほどの実力はあるからな。もしかしたら緊急な用事でついていったとかはないか?」

 争い事がないのがその証拠だろ。そう言うように大地は推測をたてたがフルネールはそれを一つのため息で一蹴した。

「大地さんのおバカさん!」

 フルネールの言葉と同時に両頬に軽い衝撃が走る。フルネールの両手で頬を勢いよく挟まれたのだ。

「いいですか?確かにリリアちゃんなら自衛はできるでしょう。でもそれは弱みを握られなかったときの話です。例えば相手がリリアちゃん以外の人を襲うと明言した場合、リリアちゃんなら黙ってしたがっちゃいますよ」

「……」

 フルネールが言った事は十分あり得る。それどころかそれこそ最低でもハンナに何か一言云えただろう。それがないと言うことは弱みを握られたか何かで嫌がるリリアを無理やり連れてった可能性の方が高い。

「そうだな……くそっ誰がリリアを……!」

 フルネールの言葉で目が覚めたように大地は苛立ちを露にする。だが、そんな大地をフルネールは冷めた目で見つめてくる。

「怒ってるところアレですけど、大地さんはリリアちゃんの恋人でもなんでもないのですよね?」

「いや、まぁそうだけど……」

「お姉さんのアーデやクルス王子が怒るならわかるんですけどね……」

 フルネールさん?その、俺の心を秒殺するのはやめてくれよぉ……。

 ハンナさんに欲情してたくらいですしリリアちゃんの事どうでもいいのかと思いまして?せっかくだから遊んじゃおうとも思いまして?

 いやあれは……。

 でも大地さんも男の子ですからね。抱きつかれたら反応しちゃいますよね!わかってます。まったくしょうがない大地さんですね。もしかしてリリアちゃんに抱きついたときもそんな風に鼻の下を伸ばしたていましたか?あ~あ、リリアちゃんがそんな事に気づいたらきっと傷ついちゃうだろうなぁ。大地さんがそんな人だなんて知ったら泣いて我慢しながら体を差し出すも知れませんね!大地さん、鬼畜ですね!!

 おま……笑顔でなんて事言うんだよ……。だいたい俺からリリアに抱きついたことなんて――。

 無いですか?

 欲を出しては……ナイデスヨ……。

「ダイチさんって誰か親しい人を作ってなの……?」

 口にしたやり取りだけを聞いていたクラリスが俯いてそう呟くとフルネールはとても優しそうな表情で頷いた。

「そうですよ」

 そしてクラリスの耳に唇を近づける。秘密の話と言うように小声で言うのだ。

「クラリスちゃんもチャンスはありますよ。だから……ね?先ほど言った事を実行してみてくださいね」

「――――――っ!?」

 恥ずかしさからか声になら無い声を抑えた声量で吐き出すとクラリスはフルネールへ勢いよく振り向く。

「あ、ついでなんですけど。それをやるのは八日以降にしてください。あとあと――」

 フルネールが再びお耳を拝借と言うようにクラリスの耳へ内緒話をする。

「――あの服屋さんで……っていう……が売ってるので…………って置いてくださいね?」

「え、えええええ!!そ、そんなの――!?」

 クラリスが飛び上がりそうな声で反応したがフルネールはそれを笑顔でいなしながら人差し指をたてる。

「まぁまぁ。クラリスちゃんが嫌だと言うなら無理にとは言いませんよ?これはお願いではなくてあくまでも提案なのですから。でも、きっと大地さんは見てみたいと思いますよ?」

「ふぇ!?そ、そうなのかな!?……ダイチさん……その、私でも……見てみたい?」

 え?な、何を!?

 大地さん。ここで頷けば大地さんにとってとってもいい事になりますから頷いておいてください。可愛いクラリスちゃんが見れますよ!

 いや、それは……気になるけど!……クラリスが辱しめられる事じゃないんだよな?

 それはに誓ってあり得ません。

 自分に誓うのな。って当たり前か?……まぁいいや。

「そうだな……可愛いクラリスの姿なら見てみたいな」

 大地がそう言うとクラリスの顔は真っ赤に染まっていく。ただ、もじもじする仕草から恥ずかしそうにしているのだとわかるが、こういうときに大地はどうしたらいいのかよくわからない。

「く、クラリス。大丈夫か?」

 だから反応がないクラリスの肩をポンと叩くと背筋を伸ばすような驚きかたの反応を示した。

「わひゃぁっ!?だ、大丈夫だよ!ダイチさん!あのね……楽しみにしていてね!」

 フルネールとクラリスがどんな話をしたのかを知る術がない大地は赤い顔のままギルドを出ていったクラリスを見送りながら『まさか変なこと言ってないよな……俺』と思わざるを得ないのだった。
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