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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑥

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「火と、光……」

 リィカは目の前の魔法を見て、思わずつぶやいていた。
 魔王の攻撃を受けて傷を負った腹部がまだ痛む。自分の《回復ヒール》で回復させたといっても、とりあえず出血が止まっただけだ。

 けれど、ユーリの魔法に痛みを忘れた。
 ユーリの放った凄まじい威力の魔法。それは間違いなく混成魔法だ。そして、それが火と光の混成魔法であることも、すぐに気付く。

 カトリーズの街でデウスの事を知ってから、ユーリは光だけではなく、火と水にも適性があることは分かっていた。
 しかし、どれだけ練習してもその二つの属性の魔法が発動することはなく、結局ユーリは練習するのをやめた。

 諦めたわけではないだろう。しかし、発動する気配すらない魔法の練習をするより、もっとやるべき事があったというだけだ。

 しかし、今ここで発動した。混成魔法という形で、火の魔力が発動したのだ。

「すごい……」

 呆然とつぶやいて、その爆発の中心で高まる魔力に我に返る。

 ――ドオオオォォォォォォォオォン!!

 魔王自身が放った魔力の津波、そしてユーリの放った混成魔法《太陽爆発ソーラー・フレア》が、更なる魔力によって周囲に飛び散ったのだ。
 その更なる魔力が、魔王のものであることなど、疑いようがない。

 リィカは、とっさに土の初級魔法《石柱ストーンピラー》を唱えて、自らの前に出現させる。どれだけ魔力を込めたところで、初級魔法だ。一瞬で破壊される。それでも、発動までに一番早いのが、初級魔法なのだ。

 そして、その一瞬でも時間を稼げれば、それで良かった。

「《火防御フレイム・シールド》!」

 混成魔法の防御魔法を唱える余裕ができるからだ。
 けれど、それもできたのは自分の眼前のみ。一番魔王の近くにいたのは自分だから、当然一番ダメージを受けるのも自分だろうが、だからといって、他の皆に攻撃がいかないわけじゃない。

 先ほど大ダメージを受けていた暁斗が気になる。けれど、それを気にしている余裕はなかった。

「…………え……っ!?」

 魔王の魔力の位置が、動いた。

 リィカはつぶやくだけで精一杯だった。魔王の魔力の気配は、あっという間にリィカの側を抜き去っていく。反射的に後ろを振り向いた。

「がっ……!」

 同時に聞こえた悲鳴は、ユーリのものだ。
 腹部……ではなく、胸部に魔王の拳が当たっているのがリィカの目に映る。そして、そのままユーリは後ろの壁に激突した。

 だが魔王はそれを見届けることなく、振り向いた。その視線の先は、リィカだ。

 目が合った。
 それを察した瞬間、リィカは《火防御フレイム・シールド》に魔力を込めていた。火が強く燃え上がる。

「その程度で防げると思ったか」
「………………!!」

 気付いた瞬間には魔王はリィカの目の前にいて、その拳が《火防御フレイム・シールド》に激突していた。
 魔王の拳が火に包まれた。が、《火防御フレイム・シールド》が壊されるのもほぼ同時だった。

「……………っ……!」

 リィカに、火に包まれたままの魔王の拳が迫る。
 躱さなければ、と考える余裕もない。命中する……と思った瞬間、ドンッという衝撃は横から来た。

 ――ガンッ!
「え?」

 誰かがリィカを横から突き飛ばし、その剣が魔王の拳を受け止めている。

「ほう」
「リィカ! ユーリを!!」

 見慣れた大きな体。抜き放たれた大剣には、魔力が溢れている。魔剣フォルテュードだ。

「バル」

 自分を突き飛ばして魔王の拳から守ってくれた人の名前を呼ぶ。
 だが、バルはリィカの方を見ない。魔王にだけ集中している。

「リィカ! こっち来て!」

 代わりに、リィカを呼んだのは暁斗だった。
 そっちを見ると、泰基がユーリの方に向かって駆け出していた。

 一瞬の間で理解した。
 ユーリはどう見ても重体だ。……魔王の拳をまともに食らったのだ。そもそも、生きているのかさえ不明だが、そこはそう願うしかない。

 重体のユーリを見るなら、泰基が適任だ。そして、魔王の動きに全くついていけない自分が戦うよりはバルの方が戦える。
 そして、回復が苦手とはいっても、バルよりはまだ自分の方が回復能力は高い。

 それらを理解して、リィカは暁斗とアレクの側に駆け寄ったのだった。


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