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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑤

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 ユーリは、ここに来て自らの攻撃力のなさを嘆いていた。

 はっきり言えば、使える強力な魔法が少ない。上級魔法は範囲魔法だ。味方が近くにいる状態では使えない。

 混成魔法で覚えているのは、《幻影の顕現ファントム・アバタール》のみ。
 自らが使っている魔法をコピーして使える、同時に二つの魔法が使用できる稀有な魔法ではあるが、この魔法自体が強い攻撃を可能とするわけではない。

 そうなると、魔王への攻撃は中級魔法を使用するしかないのだが、混成魔法に比べるとどうしても見劣りしてしまう。
 リィカの《天変地異カタクリズム》すら防いだ相手に中級魔法では、いかにも頼りなかった。

 だが、そんな事を嘆いている暇は全くなくなった。アレクが、バルが、次から次へと大ダメージを負うからだ。

 泰基も回復はできる。いざというときに、より強力な回復魔法を持つのは泰基だが、通常の魔法で回復させるのなら、ユーリの方が能力が高い。それはユーリ自身も分かっている。
 時々泰基も言っているが、これまで神官として様々な人を回復させてきた経験が、その差となって現れているのだ。

 嘆いている暇などない。前衛もできる泰基は、魔王との戦いに集中している。回復能力の高い自分は、そちらに回るべきだ。

 だが、バルが回復もそこそこに飛び出していった、そのほとんど直後、魔王の魔力が膨れ上がった。

「受けて見よ!!!」
「《結界バリア》!!」

 先ほどの魔力の津波を見ていたとは言っても、それが三百六十度に向けて放たれると一瞬で判断できた自分が信じられなかった。
 だが、今はいい。その判断が間違っていなかった。それだけで十分だ。

「くっ!?」

結界バリア》に魔力の津波がぶつかり、ユーリは声を漏らす。ぶつかった瞬間に《結界バリア》が壊れなかっただけで奇跡だ。

 泰基とリィカがすぐ防御を重ねてくれる、と思ったが、泰基は暁斗の側によって治療をしているのが見えた。
 その前に《結界バリア》を張ってほしかったとも思うが、片手間の《結界バリア》などこの魔力の前には無意味であることも分かる。

 ではリィカは、と思えば、ちょうどふらつきながら立ち上がったところだった。腹部辺りに出血の痕がある。先ほどの魔王の攻撃で怪我を負ったのだ。
 自分の《回復ヒール》でとりあえず出血だけは止めた、というところだろうか。

 リィカがふらつきつつも、前に進み出る。ユーリの《結界バリア》ギリギリに立った。

(リィカ、何を……)

 疑問に思うユーリの目に、リィカが右手をのが見えた。魔王ではなく、その足元に手を向けている。

「《地獄の門インフェルノ・ゲート》!」

 魔王の足元とその周辺が、火の海になった。
 魔力の津波は、床と接している。その強力な火の海が、魔王の魔力を侵食し、威力を弱めている。《結界バリア》にかかる負担が少し少なくなる。

(全く、リィカは相変わらずですね)

 こんなときなのに苦笑してしまう。ジャダーカが使用したという混成魔法。そのほとんどは初めて見る魔法だった。
 今この時まで、リィカが真似したのは《天変地異カタクリズム》のみ。他の魔法は、一度も使用したことがないというのに、今あっさりと使って見せた。

 だが、少なくなったと思った《結界バリア》への負担が、再び増える。ユーリの表情から苦笑が消えた。

「…………!!!」
「うそっ……!?」

 リィカが愕然とした声を上げている。魔王が、魔力の威力をさらに上げたのだ。リィカの放った火の海が消えかけて、その飛び散った火の粉が《結界バリア》に接触する。

 その瞬間、ユーリの中で何かがドクンとなった。自らの光魔法に、火が混ざる。

「…………」

 ほとんど本能のまま、右手をギュッと握る。同時に《結界バリア》が強く光る。
 強く光る《結界バリア》に、リィカの《地獄の門インフェルノ・ゲート》から飛び散った火の粉が混ざる。

「ユーリ!?」
「何をする気だ」

 リィカの驚く声と、魔王の平坦な声が届く。
 それを聞きつつ、ユーリは目を瞑る。もう一度、内側で何かがドクンと波打った。

「《太陽爆発ソーラー・フレア》!」

 浮かんだその魔法を唱える。自分の中の、これまで動かなかった魔力が動いたのを感じる。
 分かる。これは、光と火の混成魔法だ。

 凄まじい光と火が、魔王を中心に大爆発を起こした。


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次回は18日(日)に更新します。
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