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第十章 カトリーズの悪夢
野営用の魔道具
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聖地とルバドール帝国の国境である、石壁が見えてきた。
同時に、地面が変わる。
砂地になった。
「――砂漠、か?」
この一行の誰も、これまで砂漠を見たことがない。
日本人組が、テレビで見たことがあるくらいだが、実際に見るのは初めてだった。
一行は、野営の準備を始めた。
すでに日は落ちた。
国境を越えるのは、明日の朝だ。
サルマ達から買ったテントを広げる。
さらに、そのテントの中央に、ユーリが作った魔道具を置く。
野営用の魔道具だ。
トルバゴ共和国で作ったその魔道具。
その後、ククノチの木にたどり着くまでにも使用したが、魔物がほとんどいなかったので、あまりその効果を試すことが出来ていない。
ユーリが魔道具を置くと、テントを囲い込むように《結界》が発動した。
この《結界》に魔物が触れたり攻撃してきたりすると、魔法が発動するようになっている。
その発動する魔法が、光の上級魔法である《光の雨》だ。
「ゴブリン一匹でも、発動しちゃうの?」
「ええ、もちろん。そうですか?」
暁斗の質問に、ユーリが答える。不思議そうだ。
「ゴブリン一匹に、上級魔法ってもったいない」
暁斗のその言葉に、ユーリの目が据わった。
「でしたら、アキトがずっと夜番をして下さいますか? そうしたら、そんなもったいないことをしなくても済みますよね」
「そんなことしたら、オレいつ寝るの!?」
「さあ。僕の知った事じゃありません。アキトがもったいないと言うので、もったいなくない方法を提案させて頂いただけですよ」
「…………ううぅぅぅぅー……」
半泣きになった暁斗以外には、笑いを誘われたそんなやり取りもあったのだった。
この魔道具を使い出してからは、夜番は一人だ。一人ずつ三交代。
残りの三人は、夜番をせずに寝ている。
「一人は怖い。嫌だ」
という意見もあるにはあった。ちなみに、暁斗とリィカだ。
だが、結局夜番なしで眠れる日がある、というメリットを選んだのだった。
(――もったいない、っていうのは、分かるけどね)
リィカは夜番をしながら、思う。
近づいてきて、《結界》に触れたゴブリン二体が《光の雨》で倒れた。
初級魔法で倒せる相手に対して上級魔法というのは、明らかにやり過ぎだ。
けれど、どんな魔物が近づいてくるか分からない。
《結界》のどこに触れるか分からないから、どうしても範囲魔法が必要になる。
光魔法の範囲魔法は上級魔法しかないから、選択肢はほとんどないも同然だ。
《結界》だけならともかく、《光の雨》の発動は、魔石内の魔力をかなり消耗するらしい。
だから、ユーリは毎晩、設置する前に魔力の付与をしている。
上級魔法で消耗が激しいなら、中級魔法という手もある。
四属性なら、中級魔法であっても範囲魔法が存在するから、その付与は自分が行う、という手もあるだろう。
(ユーリに言ってみようかな)
親切そうでいて、実は単に何でもいいから魔道具を作りたい、というだけのリィカだった。
※ ※ ※
次の日の朝。
一行は、ルバドール帝国に入る門の前に並んでいた。
朝食の時に、ルバドール帝国に入ってからどうするかを話したが、分からない事が多すぎて、何も結論は出ていない。
ルバドール帝国側が用事があるらしい、という話だが、どこに行けばいいとか、そういう話は一切ない。
ひとまず、一番近いカトリーズの街に行く事になった。
「できれば、帝都にも行ってみたいが」
そう言ったのは、泰基だ。
泰基は、鍛冶士の老人からもらった手紙がある。
変人だという鍛冶士と会うのは怖さもあるが、今後を考えると、例え留まる事になったとしても、きちんとした剣を作っておく必要があるのは、確かだった。
※ ※ ※
門の前に並んでいる人は、本当に数組程度だ。
誰もが武装しているから、冒険者だろうか。
今、魔族が押し寄せているというルバドール帝国に入ろうとする人間など、腕に覚えがあるか、よほどの馬鹿か、そのどちらかだろう。
並んでいる他のグループが、リィカに無遠慮に視線を向けている。
武装している冒険者らしきグループは、男ばかりだ。そんな中にリィカがいるのだ。物珍しさもあるだろう。
ニヤニヤとイヤらしい視線を向けている者もいるが、純粋に興味深い視線を向けている者もいる。
その周囲の視線に気付いた一行は、自然にリィカを囲い込むような立ち位置を取っていた。
ルバドールへの入国審査は、簡単に終わって進んでいく。
元々、聖地に入る時点でかなり厳しい審査がされているのだ。だから、ルバドール側も聖地から入国しようとする人に対しては、厳しいことはしない。
順番が来て、アレクが身分証明を門番に見せる。
すんなりいくだろう、と思っていたが、門番の表情が変わった。
「し……少々お待ち下さい!」
大声で叫んで、門の中に入って行ってしまう。
「………………何か、問題があったか?」
呆然とつぶやいたアレクだったが、すぐに疑問は解消した。
戻ってきた門番が、もう一人連れてきた。その一人の着用している軍服が、明らかに上位に属するものだったからだ。
「お待たせ致しました。――まずは、こちらへ。少々お話しがございます」
その男は、丁寧に頭を下げたのだった。
同時に、地面が変わる。
砂地になった。
「――砂漠、か?」
この一行の誰も、これまで砂漠を見たことがない。
日本人組が、テレビで見たことがあるくらいだが、実際に見るのは初めてだった。
一行は、野営の準備を始めた。
すでに日は落ちた。
国境を越えるのは、明日の朝だ。
サルマ達から買ったテントを広げる。
さらに、そのテントの中央に、ユーリが作った魔道具を置く。
野営用の魔道具だ。
トルバゴ共和国で作ったその魔道具。
その後、ククノチの木にたどり着くまでにも使用したが、魔物がほとんどいなかったので、あまりその効果を試すことが出来ていない。
ユーリが魔道具を置くと、テントを囲い込むように《結界》が発動した。
この《結界》に魔物が触れたり攻撃してきたりすると、魔法が発動するようになっている。
その発動する魔法が、光の上級魔法である《光の雨》だ。
「ゴブリン一匹でも、発動しちゃうの?」
「ええ、もちろん。そうですか?」
暁斗の質問に、ユーリが答える。不思議そうだ。
「ゴブリン一匹に、上級魔法ってもったいない」
暁斗のその言葉に、ユーリの目が据わった。
「でしたら、アキトがずっと夜番をして下さいますか? そうしたら、そんなもったいないことをしなくても済みますよね」
「そんなことしたら、オレいつ寝るの!?」
「さあ。僕の知った事じゃありません。アキトがもったいないと言うので、もったいなくない方法を提案させて頂いただけですよ」
「…………ううぅぅぅぅー……」
半泣きになった暁斗以外には、笑いを誘われたそんなやり取りもあったのだった。
この魔道具を使い出してからは、夜番は一人だ。一人ずつ三交代。
残りの三人は、夜番をせずに寝ている。
「一人は怖い。嫌だ」
という意見もあるにはあった。ちなみに、暁斗とリィカだ。
だが、結局夜番なしで眠れる日がある、というメリットを選んだのだった。
(――もったいない、っていうのは、分かるけどね)
リィカは夜番をしながら、思う。
近づいてきて、《結界》に触れたゴブリン二体が《光の雨》で倒れた。
初級魔法で倒せる相手に対して上級魔法というのは、明らかにやり過ぎだ。
けれど、どんな魔物が近づいてくるか分からない。
《結界》のどこに触れるか分からないから、どうしても範囲魔法が必要になる。
光魔法の範囲魔法は上級魔法しかないから、選択肢はほとんどないも同然だ。
《結界》だけならともかく、《光の雨》の発動は、魔石内の魔力をかなり消耗するらしい。
だから、ユーリは毎晩、設置する前に魔力の付与をしている。
上級魔法で消耗が激しいなら、中級魔法という手もある。
四属性なら、中級魔法であっても範囲魔法が存在するから、その付与は自分が行う、という手もあるだろう。
(ユーリに言ってみようかな)
親切そうでいて、実は単に何でもいいから魔道具を作りたい、というだけのリィカだった。
※ ※ ※
次の日の朝。
一行は、ルバドール帝国に入る門の前に並んでいた。
朝食の時に、ルバドール帝国に入ってからどうするかを話したが、分からない事が多すぎて、何も結論は出ていない。
ルバドール帝国側が用事があるらしい、という話だが、どこに行けばいいとか、そういう話は一切ない。
ひとまず、一番近いカトリーズの街に行く事になった。
「できれば、帝都にも行ってみたいが」
そう言ったのは、泰基だ。
泰基は、鍛冶士の老人からもらった手紙がある。
変人だという鍛冶士と会うのは怖さもあるが、今後を考えると、例え留まる事になったとしても、きちんとした剣を作っておく必要があるのは、確かだった。
※ ※ ※
門の前に並んでいる人は、本当に数組程度だ。
誰もが武装しているから、冒険者だろうか。
今、魔族が押し寄せているというルバドール帝国に入ろうとする人間など、腕に覚えがあるか、よほどの馬鹿か、そのどちらかだろう。
並んでいる他のグループが、リィカに無遠慮に視線を向けている。
武装している冒険者らしきグループは、男ばかりだ。そんな中にリィカがいるのだ。物珍しさもあるだろう。
ニヤニヤとイヤらしい視線を向けている者もいるが、純粋に興味深い視線を向けている者もいる。
その周囲の視線に気付いた一行は、自然にリィカを囲い込むような立ち位置を取っていた。
ルバドールへの入国審査は、簡単に終わって進んでいく。
元々、聖地に入る時点でかなり厳しい審査がされているのだ。だから、ルバドール側も聖地から入国しようとする人に対しては、厳しいことはしない。
順番が来て、アレクが身分証明を門番に見せる。
すんなりいくだろう、と思っていたが、門番の表情が変わった。
「し……少々お待ち下さい!」
大声で叫んで、門の中に入って行ってしまう。
「………………何か、問題があったか?」
呆然とつぶやいたアレクだったが、すぐに疑問は解消した。
戻ってきた門番が、もう一人連れてきた。その一人の着用している軍服が、明らかに上位に属するものだったからだ。
「お待たせ致しました。――まずは、こちらへ。少々お話しがございます」
その男は、丁寧に頭を下げたのだった。
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