転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十章 カトリーズの悪夢

入国

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一行は、現れた軍服の男に連れられ、門をくぐる。

案内されたのは、門のすぐ近くにある建物だった。
中に入り、隅にあるちょっとした面会スペースに案内され、促されて各々が椅子に座った。

「突然お呼び立てをしてしまい、申し訳ございません。私の名は、トラヴィス・フォン・ケルーと申します」

名前を名乗ると、一行を見回す。

「アルカトル王国、国王陛下発行の身分証明を持つ皆様方は、勇者様のご一行で間違いございませんか?」

「ああ、間違いない」

アレクが答えた。

「俺は、アレクシス・フォン・アルカトル。アルカトル王国の第二王子だ」

アレクが自己紹介すると、トラヴィスと名乗った男性は、少し目を見開く。

「あなたが王子殿下でございましたか。モントルビア在住の大使より、勇者様ご一行様の構成等について、報告は受けてございますが」

そう言いつつ、トラヴィスが視線を向けたのは、リィカだ。

アレクは表情を保つ。モントルビアにいる大使から報告を受けているというのなら、その中にリィカについての報告はないだろう。

トラヴィスが貴族であることは、名前からしても間違いないが、貴族位や、軍での地位については何も口にしていない。

それの意味するところは何なのか。
どうか問題が起きない事だけを祈る。

アレクは、トラヴィスの視線に気付かないふりをして、続けて、暁斗と泰基、バルとユーリを紹介する。
最後に、リィカを紹介した。

「色々と事情があって、モントルビアの王宮には行ってないが、リィカだ。リィカ・クレールム。見た目からはあまり想像出来ないだろうが、強力な魔法使いだ」

「ほう」

その紹介に、トラヴィスは感心したように一言言うが、それだけだ。アタフタと頭を下げるリィカを見るその表情からは、どう思っているのかが分からない。


アレクが視線を向けているのに気付いたのか、トラヴィスはリィカから視線を外す。

「失礼致しました。――改めまして、ケルー侯爵家の三男であり、軍においては少将の地位を拝命しております、トラヴィス・フォン・ケルーと申します。勇者様ご一行をこうして我が国にお迎えできた事、大変嬉しく存じます」

そう言って、トラヴィスは、右手を左胸に手をあてて一礼する、貴族式の礼をしたのだった。


※ ※ ※


アレクは、トラヴィスの自己紹介に考え込む。
貴族位については、まあいい。思ったより上位貴族だった、というだけだ。

「少将……とは、将軍の地位と同等だったか?」

アレクは、自信なさげにそう問い返す。

アルカトル王国や、その周辺国での軍と言えば、騎士団と魔法師団があり、それぞれに団長と副団長が存在する構成となっている。
少将、という言葉は聞いた事はあるが、馴染みが薄い。

「はい、左様でございます。大将・中将・少将とおりまして、ひとまとめに将軍と称される事もございます」

大将の上は、元帥。軍のトップがいる。

だから、トラヴィスの少将という地位は、将軍の中では下にあっても、軍にあってはトップに相当する地位だ。

「そんな上位に属している者が、ここで我々が来るのを待っていたのか?」

アレクが問いただす。
門番が身分証明を見て、すぐにトラヴィスを連れてきたのだ。
偶然でも何でもなく、自分たちを待っていたのだと判断した方が自然だった。

「勇者様ご一行をお出迎えしようというのです。地位が下の者では失礼ですし、何かあったときの判断もできません
 まして、本来でしたら魔国に向かって真っ直ぐ送り出さねばならない方々に、無礼にもお願い事をしようというのですから」

その言葉に、アレクが目を細める。
やはり何かあるのか、という思いだ。

ルバドール帝国の軍は、魔族の侵攻を食い止めている屈強の軍隊であるはず。
その軍隊ですら、解決できない問題もあるというのだろうか。

「……何を頼みたい?」

アレクは諦めてそれを口にする。
とりあえず話を聞くだけ聞いて、受けるかどうかはその後に判断すればいい。

だが、トラヴィスの視線が、再びリィカに向けられる。
視線を向けられたリィカが、怯えたように体を震わせた。

「そちらの少女は、平民ですよね? 大変失礼ではありますが、本当に平民が強力な魔法使いであるのか、例え王子殿下のお言葉であっても、疑う者もいるでしょう。何か魔法を見せて頂けませんか?」

「証明して見せろ、という事か」

アレクは、深々と息を吐いた。
どこに行っても、リィカは誤解される。

だが、平民だからと勝手に嘘と判断せずに、はっきり言ってきてくれた方がまだ対処がしやすい。

「分かった。見せてやる。――腰抜かすなよ?」

アレクは、ニヤッと挑発的に笑った。


※ ※ ※


「――アレク……」

リィカは、困惑顔だ。
アレクがあっさり話を受けてしまったが、魔法を使うのはリィカだ。
あんな大層なことを言って、全然たいしたことないと思われたら、どうすればいいのか。


一行は、建物の外に出ていた。
トラヴィスが、何やら指示して、広い空間が出来ている。周囲にいる、どんな立場の人かは知らないが、軍人たちの視線が一行に集中していた。

「大丈夫だ」

そう言われても、不安は拭えない。

「……何を使えばいいの?」

もう魔法を使うしかない。
それは分かるが、何を使えばいいのか判断できない。

「あの雷の魔法でいいんじゃないか?」

「僕もそう思います。派手で威力もありますからね。度肝を抜くのにちょうどいいと思いますよ」

泰基とユーリが勧めてきたのは、落雷の魔法だろう。
派手なのは認める。何せ雷が落ちてくるのだから。

「……あれで、認めてくれるのかな」

それが不安だ。
隠すことのない懐疑の視線を向けられたのだ。これで、使った魔法を認めてもらえなければ、どうなってしまうのかが分からない。

「あれで、認めてもらえないってあるの?」
「ねぇだろ」

暁斗が考えるように言った言葉は、バルがバッサリ断ち切る。
そんな仲間たちの言葉を聞いて、リィカは最後にアレクを見た。

「大丈夫だ、リィカ。自信持て。あの魔法を見てそれでも認めないようなら、この国に手を貸す必要はない」

周りを挑発するように、聞こえるような大声でアレクは言い放った。
周りにいる軍人が、ザワッとする。

「――ちょっと、アレク!」

慌てたのはリィカだが、アレクに優しい目を向けられて、言葉を飲み込んだ。

「大丈夫だ」

もう一度言われて、リィカも覚悟を決めた。

「うん、がんばるね」

アレクに答えて、広げられた空間に足を進める。

「……いや、あまり頑張りすぎるなよ」

困ったようなアレクの声は、聞こえなかった。



(――落ち着いて)

リィカは、前に進みながら自分に言い聞かせる。

心臓がバクバクしている。
雑多の視線を向けられる。

きっと、その中には、いつかの貴族達のような、そして故郷のクレールム村の領主である男爵のような視線を向けている人もいるだろう。

(――落ち着け)

もう一度、言い聞かせる。
強くならなきゃダメだ。守ってもらうだけじゃダメだ。

大丈夫だとみんなが言ってくれた。だから、大丈夫だ。
折角の自分の実力を見せる場だ。
力の限り、それを見せればいい。

リィカは足を止めた。
右手を上に上げる。

「《落雷ライトニング・ストライク》!!」

唱えるのと同時に右手を振り下ろし……そして、凄まじい音と衝撃が走った。

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