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第九章 聖地イエルザム

考察

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「【鳳凰鼓翼斬ほうおうこよくざん】!」

アレクが、縦に切り下ろす剣技を放つ。
不死アンデッドが何体か倒れるが、まだまだ数が多い。

(――リィカ!)

それでも、アレクはリィカの方へと向かって走っていた。


※ ※ ※


乱戦になっている他の場所でも、リィカが作った氷柱と、それに閉じ込められたヘルハウンドもどきの姿は見えていた。

バルは、それを横目で捉えつつ、同時にリィカの元に向かうアレクの姿も見ていた。

フッと笑う。
リィカは、アレクに任せればいい。

そう判断して、バルは不死アンデッドの対処に専念することにした。


※ ※ ※


「――リィカ! ってもう、邪魔!」

暁斗が聖剣を振るう。
不死アンデッドを怖がっていた事を忘れて、今は意識がリィカへ向いている。

暁斗と一緒にいる泰基もリィカが気になるが、何分数が多過ぎる。意識を逸らせば、自分たちが危ない。

「暁斗、いいから目の前に集中しろ!」

「分かってるけど……!」

暁斗はリィカの元へ行きたいんだろう。それは分かる。

(――でもな、暁斗。行ったところで、お前、あの老人と戦えるのか?)

心臓が動いていると、生きていると言われた相手と戦えるのか。
相手は、紛れもなく人間なのだ。

泰基は、自分が怖じ気づいていることに気付いていた。

あの老人とは戦いたくない。
そして、暁斗にも戦って欲しくない。間違っても殺すような事をして欲しくない。

自分はずるい。卑怯だと思う。

それを分かっても、リィカの前世が凪沙だと分かっていても、それでもリィカが老人と戦ってくれるなら、任せてしまいたいのだ。


※ ※ ※


「またまた、リィカは新しい魔法ですか……」

ユーリがため息と共に吐き出す。
よくも、こうも色々魔法を編み出すものだと思う。

「……混成魔法?」

「ええ、そうですよ。あの魔法は初めてですけどね」

ダランがポツリとこぼした声に返事をして、ユーリは再び不死アンデッドに向き合う。

「ふーん……」

だから、ダランの氷柱を見る目が、どこか警戒するような様子を見せたことに気付かなかった。


※ ※ ※


「《水塊アクアブロック》!」

老人と向かい合ったリィカは、魔法を唱えた。

水の中級魔法だ。

教会の外で初めて老人と戦ったとき、火魔法は悉くあの斧で断ち切られた。
だったら、他の魔法はどうなのか。

老人がニタァと笑う。
縦に振り下ろされた斧が、水の固まりを真っ二つにした。

「…………………ああ、もうっ……」

思わずリィカは呻く。
斧には魔石も何もない。剣技と同じようなものかと思ったが、あれは違う。

「……魔力、付与だ」

小さくつぶやいた。
ヘルハウンドの魔石は何も関係ない。老人自身の能力だ。

老人は、腕のいい木こりだと言っていた。
想像だが、木を切り倒すときに、魔力を斧に流して強度を上げていたのだ。意識していたのか、無意識なのかは知らないが。

そして今も、魔法を斬るために、魔力を斧に流した。

(――ほんと、すごいね)

リィカは、焦る気持ちを持ちながらも、感心してしまう。

自分たちがやっている魔力付与は、魔石に対してだ。そして、アレクたちが戦うときにしている魔力付与は、剣に纏わせた魔力に対して行っている。

どちらにしても、魔力を干渉させやすいから、魔力付与ができるのだ。

それを、魔石も魔力も何も関係ないただの金属に対して、魔力付与をしているのだ。そんなことが可能なのだと、考えすらしなかったし、正直できるとも思えない。


問題は、あの斧で防がれるので、中級魔法では効果がなさそうだ、ということだ。

うまく虚を突いて魔法を当てるか、斧で防げない魔法を当てるか。

こうして、正面から向かい合っている以上、虚を突けるようにするには、よほどにきちんとした作戦を立てないと無理だ。

斧で防げない魔法は……、上級魔法か混成魔法だろうか。

上級魔法は無理だ。
この地下空間で、乱戦になっている状況で、範囲魔法など使えば味方も巻き込んでしまうし、建物にも影響を与えてしまう。

となると、混成魔法。

一番いいのは、《水蒸気爆発スチームバースト》だ。きっと、あれでなら貫ける。

けれど、実はそれも問題があるのだ。


今、リィカは《火防御フレイム・シールド》を張っている。

魔法は、当然ながら《防御シールド》の外で発動させなければならない。
ほとんどの魔法は、それが可能だ。

だが、いくつかそれができない魔法がある。

火魔法の《火炎光線ファイヤーレイ》や、光魔法の《太陽光線ソーラーレイ》。水魔法の《水鉄砲アクアガン》。これらは、必ず指から魔法が発動されるため、《防御シールド》を張っているときは使えない。

水蒸気爆発スチームバースト》もそうだ。必ず、手の平から発動される。だから、使うのならば《火防御フレイム・シールド》を解かなければならない。

(――絶対ムリ)

周囲の不死アンデッドを見れば、とてもじゃないが怖くてできない。


じゃあ、どうするか。
ここで都合良く、何か新しい混成魔法でも浮かんでくれればいいのに、何も浮かばない。

(――いや、雷の魔法は?)

少し前に思い付いた魔法を考えてみる。雷なら、あの斧を通して相手に攻撃できるのでは。

そう思ったが、混成魔法を使うときのような、魔法名が頭に浮かぶ感じがない。

どちらにしても、思い付いた雷の魔法は、落雷かビームのような魔法だ。落雷は地下じゃ無理だし、ビームのような魔法は、《火炎光線ファイヤーレイ》などと一緒だろう。結局は使えない。


もう一度、自分が使える魔法を思い返す。
厄介なのは、あの斧だ。あれを何とかできれば、後は中級魔法でも何とかできる。

「……やって、みるか」

上手くいくかどうか、勝負だ。

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