278 / 596
第九章 聖地イエルザム
考察
しおりを挟む
「【鳳凰鼓翼斬】!」
アレクが、縦に切り下ろす剣技を放つ。
不死が何体か倒れるが、まだまだ数が多い。
(――リィカ!)
それでも、アレクはリィカの方へと向かって走っていた。
※ ※ ※
乱戦になっている他の場所でも、リィカが作った氷柱と、それに閉じ込められたヘルハウンドもどきの姿は見えていた。
バルは、それを横目で捉えつつ、同時にリィカの元に向かうアレクの姿も見ていた。
フッと笑う。
リィカは、アレクに任せればいい。
そう判断して、バルは不死の対処に専念することにした。
※ ※ ※
「――リィカ! ってもう、邪魔!」
暁斗が聖剣を振るう。
不死を怖がっていた事を忘れて、今は意識がリィカへ向いている。
暁斗と一緒にいる泰基もリィカが気になるが、何分数が多過ぎる。意識を逸らせば、自分たちが危ない。
「暁斗、いいから目の前に集中しろ!」
「分かってるけど……!」
暁斗はリィカの元へ行きたいんだろう。それは分かる。
(――でもな、暁斗。行ったところで、お前、あの老人と戦えるのか?)
心臓が動いていると、生きていると言われた相手と戦えるのか。
相手は、紛れもなく人間なのだ。
泰基は、自分が怖じ気づいていることに気付いていた。
あの老人とは戦いたくない。
そして、暁斗にも戦って欲しくない。間違っても殺すような事をして欲しくない。
自分はずるい。卑怯だと思う。
それを分かっても、リィカの前世が凪沙だと分かっていても、それでもリィカが老人と戦ってくれるなら、任せてしまいたいのだ。
※ ※ ※
「またまた、リィカは新しい魔法ですか……」
ユーリがため息と共に吐き出す。
よくも、こうも色々魔法を編み出すものだと思う。
「……混成魔法?」
「ええ、そうですよ。あの魔法は初めてですけどね」
ダランがポツリとこぼした声に返事をして、ユーリは再び不死に向き合う。
「ふーん……」
だから、ダランの氷柱を見る目が、どこか警戒するような様子を見せたことに気付かなかった。
※ ※ ※
「《水塊》!」
老人と向かい合ったリィカは、魔法を唱えた。
水の中級魔法だ。
教会の外で初めて老人と戦ったとき、火魔法は悉くあの斧で断ち切られた。
だったら、他の魔法はどうなのか。
老人がニタァと笑う。
縦に振り下ろされた斧が、水の固まりを真っ二つにした。
「…………………ああ、もうっ……」
思わずリィカは呻く。
斧には魔石も何もない。剣技と同じようなものかと思ったが、あれは違う。
「……魔力、付与だ」
小さくつぶやいた。
ヘルハウンドの魔石は何も関係ない。老人自身の能力だ。
老人は、腕のいい木こりだと言っていた。
想像だが、木を切り倒すときに、魔力を斧に流して強度を上げていたのだ。意識していたのか、無意識なのかは知らないが。
そして今も、魔法を斬るために、魔力を斧に流した。
(――ほんと、すごいね)
リィカは、焦る気持ちを持ちながらも、感心してしまう。
自分たちがやっている魔力付与は、魔石に対してだ。そして、アレクたちが戦うときにしている魔力付与は、剣に纏わせた魔力に対して行っている。
どちらにしても、魔力を干渉させやすいから、魔力付与ができるのだ。
それを、魔石も魔力も何も関係ないただの金属に対して、魔力付与をしているのだ。そんなことが可能なのだと、考えすらしなかったし、正直できるとも思えない。
問題は、あの斧で防がれるので、中級魔法では効果がなさそうだ、ということだ。
うまく虚を突いて魔法を当てるか、斧で防げない魔法を当てるか。
こうして、正面から向かい合っている以上、虚を突けるようにするには、よほどにきちんとした作戦を立てないと無理だ。
斧で防げない魔法は……、上級魔法か混成魔法だろうか。
上級魔法は無理だ。
この地下空間で、乱戦になっている状況で、範囲魔法など使えば味方も巻き込んでしまうし、建物にも影響を与えてしまう。
となると、混成魔法。
一番いいのは、《水蒸気爆発》だ。きっと、あれでなら貫ける。
けれど、実はそれも問題があるのだ。
今、リィカは《火防御》を張っている。
魔法は、当然ながら《防御》の外で発動させなければならない。
ほとんどの魔法は、それが可能だ。
だが、いくつかそれができない魔法がある。
火魔法の《火炎光線》や、光魔法の《太陽光線》。水魔法の《水鉄砲》。これらは、必ず指から魔法が発動されるため、《防御》を張っているときは使えない。
《水蒸気爆発》もそうだ。必ず、手の平から発動される。だから、使うのならば《火防御》を解かなければならない。
(――絶対ムリ)
周囲の不死を見れば、とてもじゃないが怖くてできない。
じゃあ、どうするか。
ここで都合良く、何か新しい混成魔法でも浮かんでくれればいいのに、何も浮かばない。
(――いや、雷の魔法は?)
少し前に思い付いた魔法を考えてみる。雷なら、あの斧を通して相手に攻撃できるのでは。
そう思ったが、混成魔法を使うときのような、魔法名が頭に浮かぶ感じがない。
どちらにしても、思い付いた雷の魔法は、落雷かビームのような魔法だ。落雷は地下じゃ無理だし、ビームのような魔法は、《火炎光線》などと一緒だろう。結局は使えない。
もう一度、自分が使える魔法を思い返す。
厄介なのは、あの斧だ。あれを何とかできれば、後は中級魔法でも何とかできる。
「……やって、みるか」
上手くいくかどうか、勝負だ。
アレクが、縦に切り下ろす剣技を放つ。
不死が何体か倒れるが、まだまだ数が多い。
(――リィカ!)
それでも、アレクはリィカの方へと向かって走っていた。
※ ※ ※
乱戦になっている他の場所でも、リィカが作った氷柱と、それに閉じ込められたヘルハウンドもどきの姿は見えていた。
バルは、それを横目で捉えつつ、同時にリィカの元に向かうアレクの姿も見ていた。
フッと笑う。
リィカは、アレクに任せればいい。
そう判断して、バルは不死の対処に専念することにした。
※ ※ ※
「――リィカ! ってもう、邪魔!」
暁斗が聖剣を振るう。
不死を怖がっていた事を忘れて、今は意識がリィカへ向いている。
暁斗と一緒にいる泰基もリィカが気になるが、何分数が多過ぎる。意識を逸らせば、自分たちが危ない。
「暁斗、いいから目の前に集中しろ!」
「分かってるけど……!」
暁斗はリィカの元へ行きたいんだろう。それは分かる。
(――でもな、暁斗。行ったところで、お前、あの老人と戦えるのか?)
心臓が動いていると、生きていると言われた相手と戦えるのか。
相手は、紛れもなく人間なのだ。
泰基は、自分が怖じ気づいていることに気付いていた。
あの老人とは戦いたくない。
そして、暁斗にも戦って欲しくない。間違っても殺すような事をして欲しくない。
自分はずるい。卑怯だと思う。
それを分かっても、リィカの前世が凪沙だと分かっていても、それでもリィカが老人と戦ってくれるなら、任せてしまいたいのだ。
※ ※ ※
「またまた、リィカは新しい魔法ですか……」
ユーリがため息と共に吐き出す。
よくも、こうも色々魔法を編み出すものだと思う。
「……混成魔法?」
「ええ、そうですよ。あの魔法は初めてですけどね」
ダランがポツリとこぼした声に返事をして、ユーリは再び不死に向き合う。
「ふーん……」
だから、ダランの氷柱を見る目が、どこか警戒するような様子を見せたことに気付かなかった。
※ ※ ※
「《水塊》!」
老人と向かい合ったリィカは、魔法を唱えた。
水の中級魔法だ。
教会の外で初めて老人と戦ったとき、火魔法は悉くあの斧で断ち切られた。
だったら、他の魔法はどうなのか。
老人がニタァと笑う。
縦に振り下ろされた斧が、水の固まりを真っ二つにした。
「…………………ああ、もうっ……」
思わずリィカは呻く。
斧には魔石も何もない。剣技と同じようなものかと思ったが、あれは違う。
「……魔力、付与だ」
小さくつぶやいた。
ヘルハウンドの魔石は何も関係ない。老人自身の能力だ。
老人は、腕のいい木こりだと言っていた。
想像だが、木を切り倒すときに、魔力を斧に流して強度を上げていたのだ。意識していたのか、無意識なのかは知らないが。
そして今も、魔法を斬るために、魔力を斧に流した。
(――ほんと、すごいね)
リィカは、焦る気持ちを持ちながらも、感心してしまう。
自分たちがやっている魔力付与は、魔石に対してだ。そして、アレクたちが戦うときにしている魔力付与は、剣に纏わせた魔力に対して行っている。
どちらにしても、魔力を干渉させやすいから、魔力付与ができるのだ。
それを、魔石も魔力も何も関係ないただの金属に対して、魔力付与をしているのだ。そんなことが可能なのだと、考えすらしなかったし、正直できるとも思えない。
問題は、あの斧で防がれるので、中級魔法では効果がなさそうだ、ということだ。
うまく虚を突いて魔法を当てるか、斧で防げない魔法を当てるか。
こうして、正面から向かい合っている以上、虚を突けるようにするには、よほどにきちんとした作戦を立てないと無理だ。
斧で防げない魔法は……、上級魔法か混成魔法だろうか。
上級魔法は無理だ。
この地下空間で、乱戦になっている状況で、範囲魔法など使えば味方も巻き込んでしまうし、建物にも影響を与えてしまう。
となると、混成魔法。
一番いいのは、《水蒸気爆発》だ。きっと、あれでなら貫ける。
けれど、実はそれも問題があるのだ。
今、リィカは《火防御》を張っている。
魔法は、当然ながら《防御》の外で発動させなければならない。
ほとんどの魔法は、それが可能だ。
だが、いくつかそれができない魔法がある。
火魔法の《火炎光線》や、光魔法の《太陽光線》。水魔法の《水鉄砲》。これらは、必ず指から魔法が発動されるため、《防御》を張っているときは使えない。
《水蒸気爆発》もそうだ。必ず、手の平から発動される。だから、使うのならば《火防御》を解かなければならない。
(――絶対ムリ)
周囲の不死を見れば、とてもじゃないが怖くてできない。
じゃあ、どうするか。
ここで都合良く、何か新しい混成魔法でも浮かんでくれればいいのに、何も浮かばない。
(――いや、雷の魔法は?)
少し前に思い付いた魔法を考えてみる。雷なら、あの斧を通して相手に攻撃できるのでは。
そう思ったが、混成魔法を使うときのような、魔法名が頭に浮かぶ感じがない。
どちらにしても、思い付いた雷の魔法は、落雷かビームのような魔法だ。落雷は地下じゃ無理だし、ビームのような魔法は、《火炎光線》などと一緒だろう。結局は使えない。
もう一度、自分が使える魔法を思い返す。
厄介なのは、あの斧だ。あれを何とかできれば、後は中級魔法でも何とかできる。
「……やって、みるか」
上手くいくかどうか、勝負だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
70
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる