転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第九章 聖地イエルザム

既視感

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アレクは、老人とにらみ合っているリィカの姿を見ながら、周囲の不死アンデッドを蹴散らしながら前へと進む。

お互いに手を出しあぐねているのか、双方共に動かない。

――距離は、もう少し。


※ ※ ※


「《疾風ゲイル》!」

リィカが、再び魔法を唱えた。
風の中級魔法。速さが特徴の、不可視の疾風。

あるいはこれが相手に当たれば……。

そう思ったリィカだが、そう上手くはいかなかった。

素早く振るわれた斧が、風を断ち切る。
だが、斧を振り下ろし、腕が伸びきった。――リィカが待っていた瞬間だ。

「《風防御ウインディ・シールド》!」

リィカが唱えたのは、混成魔法。風の防御魔法。

風の網と言った方がよりイメージに近い、その風の防御魔法は、老人の持つ斧に絡みつき、その動きを奪う。

「――キハ……ハハハ……!?」

老人が、戸惑いの声を発する。

(――今!)

チャンスだと、リィカが魔法を唱えようとした。その瞬間。

――バァァァァァァァァン!!

大きな音と共に、リィカの背筋に悪寒が走る。

「…………………っ……!」

自分を守っていた《火防御フレイム・シールド》が破られた。
リィカは一瞬でそれを理解した。


元々、《火防御フレイム・シールド》の威力は弱っていた。

そこに、《風防御ウインディ・シールド》を使って、それを張ったまま、三つ目の魔法を使おうとした。

防御シールド》を張ったまま別の魔法を使えるとは言っても、実際にどれだけ使えるのか、試したことはない。

防御シールド》を張ったまま、また《防御シールド》を使って、また使って、と延々とそれができてしまうのであれば、これほど強力なことはない。

ある意味、相手がどんな攻撃をしてきたとしても、防ぎきるまで《防御シールド》を唱え続ければいいだけの話になってしまう。

だから、何度目かで威力が減衰するなり、消滅するなりといった決まりが、おそらくある。


元々、威力の落ちていた《火防御フレイム・シールド》。そこに、リィカが三つ目の魔法を使おうとしたせいで、おそらくさらに威力が減衰。

その上で、攻撃をぶつけられたのだ。


リィカは、後ろを振り向く。

「―――――――!」

そこにいたのは、Cランクの魔物、首なし騎士デュラハン
それが、剣を高々と振り上げて……リィカに向かって、振り下ろされた。


体が、まるで固まったように動かなくなった。

首がない魔物。
その見た目の恐ろしさが、リィカから体の自由を奪った。

振り下ろされる剣が、まるでスローモーションのように見える。

「………………ぁ……」

できたのは、小さく呻くだけ。
動けないリィカに、首なし騎士デュラハンの剣がまさに命中する……その瞬間。

「【火鳥炎斬かうえんざん】!」

声と共に放たれた炎の剣技が、首なし騎士デュラハンを真っ二つにした。

「リィカ!!」

名前を呼ばれ、同時に腰に手を回され、引き寄せられる。

「【金鶏陽王斬きんけいようおうざん】!」

さらに、剣技が発動した。
いつの間にか、近づいて斧を振り下ろしてきた老人を、はじき返す。

「…………アレク」

リィカは、まるで夢から覚めたように、その人の名前をつぶやいた。


※ ※ ※


まるで、魔王誕生直後、学園で大量の魔物と戦ったときと同じだ、とアレクは思う。

あの時も、魔物を蹴散らしながら、リィカの元へ向かっていた。


アレクは、目を見開く。
目に入った光景に、既視感を感じる。

あの時のリィカは、まさにライノセラスの角に貫かれる寸前だった。
そして今も、首なし騎士デュラハンの剣に斬られようとしている。

老人もリィカに近づいているのが見えた。

走る速さを上げる。

剣技を発動させた。
炎の、横になぎ払う剣技。

「【火鳥炎斬かうえんざん】!」

首なし騎士デュラハンが真っ二つになるのを見ながら、アレクはリィカの腰に手を回し、引き寄せる。

「【金鶏陽王斬きんけいようおうざん】!」

もう一度、剣技を発動する。炎の直接攻撃の剣技だ。
斧を振り下ろしてきた老人を、弾き飛ばした。

「…………アレク」

リィカに名前を呼ばれて、気付いた。
あの時も、今も、自分はリィカを守ったのだ。

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