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第九章 聖地イエルザム
氷柱の棺
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リィカの視線と、老人の視線が絡み合った。
リィカが右手に力を込めた瞬間、その前に立ちはだかったのはヘルハウンドもどきだった。
「………………!」
ヘルハウンドもどきは、まるで不死など気にしないとでも言うように、踏み倒している。
ヘルハウンドもどきを倒すのは無理だと、そう言ったのはリィカ自身だ。
だが、こいつを何とかしない限り、老人にはたどり着けない。
魔法を使おうとして……。
(――やばっ!)
今さらながら、肝心な事を忘れていた。
※ ※ ※
魔法は二つ以上同時に発動できない。
これが基本原則だ。
例外は、光魔法の《結界》や土魔法の《防御》だ。張ったまま、別の魔法を発動させることもできる。
混成魔法は、二つ以上の属性を同時に組み合わせて使う魔法だ。
最初の頃、リィカ自身も混成魔法を使えるようになる前は勘違いしていたが、決して魔法を二つ同時に使うわけではないのだ。
デトナ王国で、ユーリがアルテミという魔族相手に戦ったときに使った混成魔法、《幻影の顕現》は、自分が直前に使った魔法をそのままコピーして使う事ができる魔法だ。
同じ魔法になってしまうが、同時に二つの魔法を発動させることができる、かなり希有な魔法なのだ。
今、リィカは《火防御》を使ってしまっている。
さらに魔法を使おうと思えば、これを解除するしかない。
(――あれ、でも……《防御》、だよね?)
例え混成魔法でも、《防御》であることに変わりはない。できるんじゃないのか、と考えて、すぐに気付いた。
《防御》は、そして《結界》も、一度そこに張ってしまうと動かせない。中の人間の動きに合わせて移動するという真似はできない。
けれど、今自分はそれをしてしまっている。
(だったら、もしかして……!)
リィカは、《火防御》をこの場から動かないように設置する。
右手に魔力を集めてみる。
(これなら、いける)
この場所から動けなくなってしまったが、自分が動いたところで、たいした動きができるわけじゃない。《火防御》がある限り、自分は守られる。
魔法を自由に使えた方が、よほどいい。
ヘルハウンドもどきを睨む。
『…………ギッ……ギギギッ……』
リィカを見て、どこか悔しそうに見えるのは《火防御》のせいか。
それを突破できるとは思えないのだろう。
ヘルハウンドもどきは動かない。
(倒せないこいつを、どうにかするとしたら……)
「《氷柱》!」
水の中級魔法を使う。
地面から生えるように氷の柱が飛び出す。
『……ギギッ!』
ヘルハウンドもどきに命中するが、それだけだ。
(――やっぱり、普通の魔法じゃできないか)
倒せないなら捕らえるまで。
そう思ったけれど、簡単にはできないようだ。
ヘルハウンドもどきから出ている黒い霧のようなものが、濃くなった。
「「「「「ギギギッ」」」」」
響いた声に、顔をしかめる。
バルが言っていた、ヘルハウンドもどきの分裂だか増殖だかの能力だ。
現れた五体の、小柄なヘルハウンドもどきが一直線にリィカの《火防御》に突撃してくる。
そして、声もなく燃え尽きる。
だが、再び黒い霧が濃くなる。
「「「「「ギギギッ」」」」」
再び、現れた。
「……………っ……!」
狙いは明らかだ。
増殖を繰り返し、生み出したそれを《火防御》にぶつけて、威力を削ぐなり壊すなりしようというのだろう。
増殖はどのくらいできるのか。上限があるのか無限なのか。
再び突撃してきた、小柄なヘルハウンドもどきが、声もなく燃え尽きる。
「――――――!」
それだけではなかった。
後方の老人が、周囲にいる不死を、リィカに向けて投げつけてきた。
精神的にもよろしくない光景だが、それよりも《火防御》の威力が明らかに下がってきた。
――時間が、ない。
三度、ヘルハウンドもどきの黒い霧が濃くなる。
この時、ヘルハウンドもどきは動かない。その代わり姿も見えなくなるが、その濃い部分を全部覆うくらいのつもりで、リィカは魔法を唱えた。
「《氷柱の棺》!」
――水と土の混成魔法。
最初、リィカが《氷柱》を唱えた時、その氷柱の中にヘルハウンドもどきを閉じ込めるつもりで使ったのだ。
結局それは叶わなかったが、新しい混成魔法がそれを可能にした。
黒い霧が薄くなる。
そこには間違いなく、氷柱の中に捕らえられた、ヘルハウンドもどきの姿があった。
動かないのを確認して、軽く息をつく。
後は、老人だけだ。
※ ※ ※
アレクは、周囲の不死を倒すだけに集中していた。
だが、突然現れた氷柱と、その中に閉じ込められているヘルハウンドもどきを見て、驚きに目を見開いた。
こんな事ができるのは、一人しかいない。
「――リィカ!?」
氷柱の周辺を探す。
すぐに見つかったリィカは、老人と向かい合っていた。
リィカの目的は明らかだ。
「――くそっ」
小さく毒づく。いつもいつも、何もできない自分が嫌になる。
剣を振るう。リィカの元へ、駆け付けるために。
リィカが右手に力を込めた瞬間、その前に立ちはだかったのはヘルハウンドもどきだった。
「………………!」
ヘルハウンドもどきは、まるで不死など気にしないとでも言うように、踏み倒している。
ヘルハウンドもどきを倒すのは無理だと、そう言ったのはリィカ自身だ。
だが、こいつを何とかしない限り、老人にはたどり着けない。
魔法を使おうとして……。
(――やばっ!)
今さらながら、肝心な事を忘れていた。
※ ※ ※
魔法は二つ以上同時に発動できない。
これが基本原則だ。
例外は、光魔法の《結界》や土魔法の《防御》だ。張ったまま、別の魔法を発動させることもできる。
混成魔法は、二つ以上の属性を同時に組み合わせて使う魔法だ。
最初の頃、リィカ自身も混成魔法を使えるようになる前は勘違いしていたが、決して魔法を二つ同時に使うわけではないのだ。
デトナ王国で、ユーリがアルテミという魔族相手に戦ったときに使った混成魔法、《幻影の顕現》は、自分が直前に使った魔法をそのままコピーして使う事ができる魔法だ。
同じ魔法になってしまうが、同時に二つの魔法を発動させることができる、かなり希有な魔法なのだ。
今、リィカは《火防御》を使ってしまっている。
さらに魔法を使おうと思えば、これを解除するしかない。
(――あれ、でも……《防御》、だよね?)
例え混成魔法でも、《防御》であることに変わりはない。できるんじゃないのか、と考えて、すぐに気付いた。
《防御》は、そして《結界》も、一度そこに張ってしまうと動かせない。中の人間の動きに合わせて移動するという真似はできない。
けれど、今自分はそれをしてしまっている。
(だったら、もしかして……!)
リィカは、《火防御》をこの場から動かないように設置する。
右手に魔力を集めてみる。
(これなら、いける)
この場所から動けなくなってしまったが、自分が動いたところで、たいした動きができるわけじゃない。《火防御》がある限り、自分は守られる。
魔法を自由に使えた方が、よほどいい。
ヘルハウンドもどきを睨む。
『…………ギッ……ギギギッ……』
リィカを見て、どこか悔しそうに見えるのは《火防御》のせいか。
それを突破できるとは思えないのだろう。
ヘルハウンドもどきは動かない。
(倒せないこいつを、どうにかするとしたら……)
「《氷柱》!」
水の中級魔法を使う。
地面から生えるように氷の柱が飛び出す。
『……ギギッ!』
ヘルハウンドもどきに命中するが、それだけだ。
(――やっぱり、普通の魔法じゃできないか)
倒せないなら捕らえるまで。
そう思ったけれど、簡単にはできないようだ。
ヘルハウンドもどきから出ている黒い霧のようなものが、濃くなった。
「「「「「ギギギッ」」」」」
響いた声に、顔をしかめる。
バルが言っていた、ヘルハウンドもどきの分裂だか増殖だかの能力だ。
現れた五体の、小柄なヘルハウンドもどきが一直線にリィカの《火防御》に突撃してくる。
そして、声もなく燃え尽きる。
だが、再び黒い霧が濃くなる。
「「「「「ギギギッ」」」」」
再び、現れた。
「……………っ……!」
狙いは明らかだ。
増殖を繰り返し、生み出したそれを《火防御》にぶつけて、威力を削ぐなり壊すなりしようというのだろう。
増殖はどのくらいできるのか。上限があるのか無限なのか。
再び突撃してきた、小柄なヘルハウンドもどきが、声もなく燃え尽きる。
「――――――!」
それだけではなかった。
後方の老人が、周囲にいる不死を、リィカに向けて投げつけてきた。
精神的にもよろしくない光景だが、それよりも《火防御》の威力が明らかに下がってきた。
――時間が、ない。
三度、ヘルハウンドもどきの黒い霧が濃くなる。
この時、ヘルハウンドもどきは動かない。その代わり姿も見えなくなるが、その濃い部分を全部覆うくらいのつもりで、リィカは魔法を唱えた。
「《氷柱の棺》!」
――水と土の混成魔法。
最初、リィカが《氷柱》を唱えた時、その氷柱の中にヘルハウンドもどきを閉じ込めるつもりで使ったのだ。
結局それは叶わなかったが、新しい混成魔法がそれを可能にした。
黒い霧が薄くなる。
そこには間違いなく、氷柱の中に捕らえられた、ヘルハウンドもどきの姿があった。
動かないのを確認して、軽く息をつく。
後は、老人だけだ。
※ ※ ※
アレクは、周囲の不死を倒すだけに集中していた。
だが、突然現れた氷柱と、その中に閉じ込められているヘルハウンドもどきを見て、驚きに目を見開いた。
こんな事ができるのは、一人しかいない。
「――リィカ!?」
氷柱の周辺を探す。
すぐに見つかったリィカは、老人と向かい合っていた。
リィカの目的は明らかだ。
「――くそっ」
小さく毒づく。いつもいつも、何もできない自分が嫌になる。
剣を振るう。リィカの元へ、駆け付けるために。
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