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第六章 王都テルフレイラ
暁斗とアレク
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背中から突き出た刃物の切っ先が見える。
血が滴り落ちる……。
勢いよく、暁斗は起き上がった。回りを見回して、今デトナ王国の王宮にいることを思い出すと、またベッドに横になる。
「……何でこんな時にまた夢を見るかなぁ」
力なくぼやいた。
(今大変なのは、リィカなのに)
自分が不安定になって、母親の夢を見てどうするんだ。
リィカの部屋の方に意識を飛ばす。
(…………えっ?)
リィカの気配がなかった。
※ ※ ※
(今何時ごろだ?)
アレクは目を開けた。
気分は最悪に近い。はっきり覚えていないが、昔の夢を見ていた気がする。
はぁ、と息を吐き出す。
(……しっかりしろ、俺。辛いのはリィカであって、俺じゃないだろう)
自分に渇を入れる。
そしてリィカのいる方に意識を向けて……起き上がった。
リィカが部屋にいない。
慌てて部屋から出れば、ほとんど同時に別の部屋の扉も開いた。
「アキト、どうした?」
「そういうアレクこそ……」
そうは言ったものの、お互いに意識がリィカの部屋にあることが分かって、無言で向かう。
扉は鍵をかけてあったはずなのに、簡単に開いた。
「リィカ……?」
気配がなく、いないのが分かっても、探してしまう。
「《火》」
突然暁斗が魔法を使った。
「アレク、リィカの書き置きがあったよ」
「……書き置き?」
暁斗はそれを読むために、明かり代わりに魔法を使ったのか、と思いつつ、それを読んだ。
『外に行ってます。勝手なことしてごめんなさい』
短い文章。いないのはリィカ自身の意思らしいと分かって、少し安堵する。
(いや、無理矢理書かされた可能性もあるか?)
いくら鍵を閉めても、貴族に開けろと、出てこいと言われたら、果たしてリィカは拒否できるのか。
想像がどんどん悪い方に膨らんでいく。
「……外っていうか、南門の外にいる?」
そんなアレクの想像を、暁斗の声が断ち切った。
我にかえって、暁斗の言葉の確認に気配を探れば、確かに南門の外に気配を感じた。
普通に魔物が出かねない場所だ。一人のようだし、想像は想像でしかなかったことにホッとした。
「……どうする? 行く?」
今までだったら、聞くまでもなく飛び出しているだろう暁斗の確認に、アレクは悪いと思いながらもホッとする。
どうしていいか分からずに迷走しているのは、自分だけではない。
「………………行こう」
たっぷり悩んで、アレクはそう言った。
門に近づくと、門番の話し声がした。
異変に気付きにくくなるから、私語厳禁のはず、と思いつつそのまま近づいた。
「どうしたんだ?」
「……アレクシス殿下!? それに勇者様も!」
ビシッと敬礼されて暁斗が怯んだ。
「挨拶はいい。それより何かあったのか?」
アレクに重ねて問われて、門番はお互い顔を見合わせて、一人が口を開いた。
「……実は一時間ほど前に、勇者様のお仲間のリィカ様が外を散歩したい、と出られたのですが、お戻りにならないので探しに行くべきかを悩んでおりまして」
抜け出たわけでも何でもなく、正攻法で外に出たらしい。
「そうか。俺たちもリィカを探しにきたから、引き受けよう。悪いが、もし朝になっても俺たちが戻らなかったら、仲間たちに外にいることを伝えてもらえないか?」
「はい、かしこまりました!」
外に出してもらい、そのまま南門に向かう。
門番に聞けば、魔族の対応で、と言われて通したとのことだ。
「……あの、何か問題でも?」
何かやらかしたかと真っ青になる門番に、問題ないと言って通してもらう。
問題と言えば問題だが、言えることではないので、しょうがないだろう。
少し歩いて、すぐにリィカの姿を見つけた。
門からギリギリ見えない位置にいた。
近づいて声をかけようとしたが、憚られた。
体を丸めて座り込み、膝に顔を埋めている姿が、何者も拒否しているように感じられた。
アレクも暁斗も、どちらからともなくその場に座り込んで、ただリィカの背中を見つめていた。
血が滴り落ちる……。
勢いよく、暁斗は起き上がった。回りを見回して、今デトナ王国の王宮にいることを思い出すと、またベッドに横になる。
「……何でこんな時にまた夢を見るかなぁ」
力なくぼやいた。
(今大変なのは、リィカなのに)
自分が不安定になって、母親の夢を見てどうするんだ。
リィカの部屋の方に意識を飛ばす。
(…………えっ?)
リィカの気配がなかった。
※ ※ ※
(今何時ごろだ?)
アレクは目を開けた。
気分は最悪に近い。はっきり覚えていないが、昔の夢を見ていた気がする。
はぁ、と息を吐き出す。
(……しっかりしろ、俺。辛いのはリィカであって、俺じゃないだろう)
自分に渇を入れる。
そしてリィカのいる方に意識を向けて……起き上がった。
リィカが部屋にいない。
慌てて部屋から出れば、ほとんど同時に別の部屋の扉も開いた。
「アキト、どうした?」
「そういうアレクこそ……」
そうは言ったものの、お互いに意識がリィカの部屋にあることが分かって、無言で向かう。
扉は鍵をかけてあったはずなのに、簡単に開いた。
「リィカ……?」
気配がなく、いないのが分かっても、探してしまう。
「《火》」
突然暁斗が魔法を使った。
「アレク、リィカの書き置きがあったよ」
「……書き置き?」
暁斗はそれを読むために、明かり代わりに魔法を使ったのか、と思いつつ、それを読んだ。
『外に行ってます。勝手なことしてごめんなさい』
短い文章。いないのはリィカ自身の意思らしいと分かって、少し安堵する。
(いや、無理矢理書かされた可能性もあるか?)
いくら鍵を閉めても、貴族に開けろと、出てこいと言われたら、果たしてリィカは拒否できるのか。
想像がどんどん悪い方に膨らんでいく。
「……外っていうか、南門の外にいる?」
そんなアレクの想像を、暁斗の声が断ち切った。
我にかえって、暁斗の言葉の確認に気配を探れば、確かに南門の外に気配を感じた。
普通に魔物が出かねない場所だ。一人のようだし、想像は想像でしかなかったことにホッとした。
「……どうする? 行く?」
今までだったら、聞くまでもなく飛び出しているだろう暁斗の確認に、アレクは悪いと思いながらもホッとする。
どうしていいか分からずに迷走しているのは、自分だけではない。
「………………行こう」
たっぷり悩んで、アレクはそう言った。
門に近づくと、門番の話し声がした。
異変に気付きにくくなるから、私語厳禁のはず、と思いつつそのまま近づいた。
「どうしたんだ?」
「……アレクシス殿下!? それに勇者様も!」
ビシッと敬礼されて暁斗が怯んだ。
「挨拶はいい。それより何かあったのか?」
アレクに重ねて問われて、門番はお互い顔を見合わせて、一人が口を開いた。
「……実は一時間ほど前に、勇者様のお仲間のリィカ様が外を散歩したい、と出られたのですが、お戻りにならないので探しに行くべきかを悩んでおりまして」
抜け出たわけでも何でもなく、正攻法で外に出たらしい。
「そうか。俺たちもリィカを探しにきたから、引き受けよう。悪いが、もし朝になっても俺たちが戻らなかったら、仲間たちに外にいることを伝えてもらえないか?」
「はい、かしこまりました!」
外に出してもらい、そのまま南門に向かう。
門番に聞けば、魔族の対応で、と言われて通したとのことだ。
「……あの、何か問題でも?」
何かやらかしたかと真っ青になる門番に、問題ないと言って通してもらう。
問題と言えば問題だが、言えることではないので、しょうがないだろう。
少し歩いて、すぐにリィカの姿を見つけた。
門からギリギリ見えない位置にいた。
近づいて声をかけようとしたが、憚られた。
体を丸めて座り込み、膝に顔を埋めている姿が、何者も拒否しているように感じられた。
アレクも暁斗も、どちらからともなくその場に座り込んで、ただリィカの背中を見つめていた。
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